第18話 冒険者ギルド

 この町の構造は簡単だ。南北と東西につながる十字型の中央道路と、その道沿いに建物がひしめき合っているだけなのだ。

 冒険者ギルドは中央の十字路付近にある。因みに、白鯨亭は北の港側寄りだ。


 冒険者ギルドの建物はその付近にある建物の中でも一際大きく、頑丈な造りになっていた。


「クリスタは冒険者になったことはあるか?」

「いいえ、ございません。千年前には冒険者という職業はありませんでしたから」

「ああ、なるほど」

「ところで、冒険者になるのでございますか?」

「三ヶ国で使える通行証はあるし、お金は昔の金貨を換金すればいいので困っていない。だからあまり冒険者になる価値はないかもしれないな」

「そうですけど、情報の収集には役立ちそうなのです」

「情報収集か……重要な事だな。あまり変な縛りとか義務とかがなければ冒険者になってもいいかもな」


 ペルシーは思い切って冒険者ギルドの扉を開けてみた。

 扉を開けると一斉に注目される……なんてことはなく、ペルシーたちにちょっかいをかけるほど暇な冒険者などいないようだ。


「テンプレは……」

「どうしたのです? ペルシー様」

「いや、ちょっと予想に反していただけだ。気にしないくれ」


 冒険者の登録受付はすぐに分かった。

 パメラが自動翻訳をしてくれるだけでなく文字も読めるようにしてくれるので、読み書きに困ることはない。


「こちらは冒険者登録の受付になります」


 町では若い女性をあまり見かけなかったが、事務の仕事が多いから見かけなかっただけかもしれない。

 やはり、どの世界でも受付の女性は美人が多いのだろうか?


「はい、俺とこの女性の登録を頼む」

「お二人様ですね。それでは冒険者ギルドの説明をします」


 冒険者ギルドの仕組みは想像していたのと殆ど同じである。テンプレと言ってもいいのかもしれない。まあ、かなり特殊な事情がなければ、その制度に大きな違いがあるとは思えないが。


 この国の冒険者には七階級あることが分かった。


 ・オリハルコン級(SS)

 ・ミスリル級(S)

 ・プラチナ級(A)

 ・ゴールド級(B)

 ・シルバー級(C)

 ・ブロンズ級(D)

 ・冒険者見習い(E)


 ただし冒険者見習いは正式には冒険者ではないので、六階級が正式な冒険者の階級である。

 冒険者の階級を分かりやすくアルファベットで表すと、最上級のオリハルコン級がSSランクで、ミスリル級がSランク、プラチナ級がAランクと続き、最後の冒険者見習いががEランクということになる。


 オリハルコン級、ミスリル級、プラチナ級、ゴールド級は冒険者ギルドの正規メンバーらしく、冒険者ギルドの運営にも関わることになる。つまり、義務を負うだけでなく、運営会議にも出席する必要があるのだ。地球の会社に喩えると正社員といったところか。まあ、ギルドは会社組織とは違うので、時間で縛られることはない。しかし、緊急の招集などには応じる必要があるようだ。


 シルバー級とブロンズ級は準社員といったところだろう。冒険者ギルドの運営に関わる必要はないが、顧客からの指名はあるようだ。もちろん、受けるかどうかは冒険者次第である。

 そして、冒険者見習いは下働きである。ギルドの仕事の手伝いや、冒険者の手伝いなど、仕事は数多くある。


 階級が上がる条件は、正社員であるゴールド級以上は実績がすべてらしい。まあ、正社員だからあたりまえかもしれない。

 そして、シルバー級以下が階級を上げるには実績を上げることと、実技試験が通ることが条件である。また、冒険者見習いに至って筆記試験、実技試験、ギルド長との面談が必要になる。


『いかんな~。こういう組織をみると社畜時代を思い出してしまう』

『社畜ってな~に』

『そういえば、パメラに社畜の質問をされたことがあったな』

『私も知りたいのです』

『教えてやりたいが気分がいい時にしよう。酒でも飲まないと話す気になれない』

『パメラはいつでもいい』


(早速、受付のお姉さんに質問をしてみよう)


「いきなりブロンズ級を受けることはできるか?」

「ブロンズ級に限っては、冒険者見習いを飛ばして昇格試験を受けることができます」

「それではブロンズ級の試験を申請する」

「はい、それではこちらの申請書に必要事項を記入してください」


 ・名前  :ペルセウス・ベータ・アルゴル

 ・年齢  :十六歳

 ・性別  :男

 ・出身国 :ガンダーラ王国

 ・使用武器:短刀

 ・得意魔法:風魔法、土魔法

 ・特技  :気配察知

 ・特記事項:なし


 ・名前  :クリスタ・アルゴル

 ・年齢  :十五歳

 ・性別  :女

 ・出身国 :ガンダーラ王国

 ・使用武器:なし

 ・得意魔法:光魔法

 ・特技  :気配察知

 ・特記事項:なし


 出身国は通行証と合わせてガンダーラ王国にした。

 見ての通り嘘もあるが、こんなんで申請が通るのであろうか?


「通行証はありますか?」

「これだ」

「しばらくお待ちください」


 ガンダーラ王国の第三王女であるエミリア姫が、ペルシーたちのために通行証を作ってくれた。その通行証の出身国には、根無し草のペルシーたちへの配慮だったのだろう、ガンダーラ王国と記述されていた。


 エミリア姫の配慮でなのだろうが、いつかはガンダーラ王国へ行く必要がでてくるかもしれない。そこはまんまとエミリア姫に嵌められたのではないだろうか――。


「ところでペルシー様」

「何かな?」

「私のファミリーネームがアルゴルになっていましたが?」

「妹の設定でいこうかなと……クリスタのファミリーネームはあったのか?」

「いえ、ファミリーネームはありませんが……」

「まずかった?」


 クリスタはぼそっと「夫婦でもよかったのに……」と言っていたが、ペルシーは華麗にスルーした。


「実技試験とギルト長との面談の予約は筆記試験に合格してからになります。筆記試験はすぐに受けますか?」


「ああ、すぐにお願いする」


 たとえ不合格になるにしても、どんな試験なのか前もって知っておく必要がある。とにかくチャレンジだ。


 ペルシーたちは別室に移された。おそらく会議室の一つだろう。

 ペルシーとクリスタは離れて座らせられたが、妖精通信があるから問題ないはずだ。つまり、これが本当のチート・・・である。


 試験の内容は四つのカテゴリーに分類できた。その分類は、薬草、魔物、魔法、規則についてであった。

 薬草についてはクリスタがよく知っていたし、魔物については実践で経験したことが役に立った。

 魔法に関してはクリスタとパメラドールに頼ったので問題ない。

 そして規則は常識的な問題が半分だったので、なんとかなるだろう。


 試験の終了後、合否の判定はすぐに出してくれた。

 国家試験のくせに大金を巻き上げて、すぐに結果を出してくれないどこかの国とは大違いである。


「ペルシーさんとクリスタさん。お二人ともに合格です。一緒に勉強されたのでしょうか? ほとんど解答が同じでしたよ」


 この時、ペルシーが青くなっていたのは言うまでもない。


「実技と面接は明日の朝にここへ来てください。今日の試験は以上で終了になります。何かご質問はありますか?」

「実技って、どんなことをやるんだろう?」

「ゴールド級以上の冒険者と実戦形式の試合をしてもらいます」

「何か用意するものはあるのか?」

「特にありませんよ。武器を使う場合でも、ギルドの武器を使用していただきますから」

「分かった。エステルさん、今日はありがとう」

「あらっ、名前を覚えてくれたのですか。明日は頑張ってくださいね」

「ああ、頑張るよ」


 ここで妖精通信が……。


『ペルシー様』

『何だろう?』

『兄妹設定をいいことに、受付嬢にどうどうと粉をかけようと思っているのではございませんか?』

『そんなことないさ。大人の心遣いというものだ』


 ペルシー達は受付ロビーに戻り、掲示板に貼られている手配書や依頼書を調べることにした。


「俺に賞金がかかっているという事実はなさそうだな」

「そのようなのです。手配書にはないのでございます」

「やはり、裏の手配書があるのかもしれない。気持ち悪いな」

「まったくでございます」


 そこへ見ず知らずの男が声をかけてきた。


「よお、お前達。新入りか?」


 その男はペルシーと同じくらいの長身だったが、筋肉が盛り上がって熊のような体型をしていた。

 そしてその男の後ろには仲間らしい男たちが二人立っていた。そいつらは何が面白いのかニヤけている。


「俺たちはまだ一般人だが。何か用か?」

「この町はな、常に強い魔物から狙われている地獄の一丁目なんだよ! お前達のようなひよっこが冒険者になっていい場所じゃねえんだ!」

「ご忠告ありがとう。だが、それを決めるのはあなた方ではないはずだ」

「なんだと! 口答えするのか!」

「口答えではない。事実を言ったまでだ。反論があるならギルド職員に聞いてみるといいだろう」

「いけ好かない野郎だな。ちょっとこっち来い!」


 熊男が右手でペルシーの左腕を掴もうとしたとき、ペルシーが熊男の右手首を握りしめた。


 「グキッ」という鈍い音が聞こえたと思うと、その男が苦しみだした。

 そしてついでに熊男の足を払った。また、変な音が聞こえたが気にしない。


「粉砕骨折したかな? でも、自業自得だよな」

「野郎! 何をしやがった!」


 後ろの細マッチョな男がしゃしゃり出てきた。


「この野郎!」


 ここは冒険者ギルドの中だというのに、細マッチョは剣を抜いて切りかかってきた。

 ペルシーは左に躱して細マッチョの死角に入り、首を手刀で打とうとしたがやめた。下手に打つと首の骨を折ってしまいそうだからだ。


 ペルシーはその代わりに後ろから足を払った。払った瞬間に骨が折れた音がしたが気にしない。

 細マッチョは剣を落として崩れ落ちた。


「ぐわ~、痛ぇ~!」


 もう一人、中肉中背の特徴のない男が残っている。


「そこの人。君はどうする?」

「いえ、何もしませんよ。勘弁してください!」


 中肉中背の特徴のない男は、特徴のない謝り方をした。


「クリスタ、回復魔法を頼む」

「承知したのです、ペルシー様」


 クリスタは蹲っている二人の男に、回復魔法で半分だけ治したようだ。


(クリスタ、グッジョブ!)


「そこの人、二人を連れて退散してくれないか?」

「はい、す、すぐに連れて行きます」


 特徴のない男は、二人を両肩で支えながらギルドから退散していった。

 その場にいた冒険者の反応は、クスクスと笑う者、畏れをなす者、見なかったふりをする者など、まちまちであった。


「意外と根性のないやつらだったな」

「冒険者とはいえ、相手は普通の人間ございます。ペルシー様、自重してくださいませ」

「それもそうだな」


 魔王と呼ばれたジュリアス・フリードのスーパーなボディーには、底の知れない能力が備わっている。普通の人間ではあまりにも格が違い過ぎるので、比べることなど出来はしないのである。


『ペルシー、いつもより楽しそう』

「そんなことないぞ。いつもと一緒でクールなペルシーさんだ」

『ペルシーの心が喜んでいる』


 この時、パメラの言う通り、ペルシーはテンプレを経験して喜んでいた。

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