第三章 魔物大戦

第16話 シーラシアの町 ならず者の洗礼

「やっと、着いたのか~。長かったな~」


 たった二週間あまりであったが、ペルシーには経験したことのないほど長い旅だった。

 彼はは異世界に来たばかりだから当然のことなのだが、精神的な疲れがかなり溜まっている。


「この世界の旅は半年や一年かかることはざらなのです。今回の旅も冒険者でさえ一ヶ月以上かかるところなのでございます。これからも移動には時間がかかることが予想されますので、ペルシー様には慣れていただきませんと」


 だが、長旅で疲れているのはクリスタや調査隊の面々もおなじだ。


「そうだな。知らない場所へは転移できないのだから、長旅には慣れないと。クリスタは大丈夫なのか?」

「もちろんでございます。わたしを誰だと思っているのですか?」

「それはもちろん、おれの大事なメイドさんだよ」

「ペ、ペルシー様……。なにを仰るのでございますか……」


 旅の疲れがそう言わせたのか、クリスタの可愛らしさがそう言わせたのか分からない。しかし、ペルシーの気が緩んでいることはよくわかる。


 ペルシーの目の前にはシーラシアの町の南門が見えている。

 この町は魔物を排除するため、城壁を思わせるような頑強な石の壁で囲われている。

 ルーシーズはじまりの大陸には強力な魔物がたくさん存在するため、このような対策が施されているわけだ。


「この町の人達は魔物に怯えながら生活してるのだろうか?」

『そんなことない。この世界の人々は逞しい。魔物の脅威も生活の一部として捉えているはず』

「そうだとしても、犠牲者はでるだろう?」

『ペルシーはこの世界で魔物の犠牲になる人間の数と、人間に殺される人間の数ではどちらが多いと思うの?』

「えっ、まさか!」

「そのまさかでございます、ペルシー様」

「……」

「ペルシー様、クリスタさんとの会話を聞いていると、繋がらない部分があるのですが? そうですね……もう一人いるのだけれど、その人の声が聴こえないような?」


(さすが賢者だけあると言えばいいのか? 観察力があるな、レビィーは)


「そうか? クリスタと俺はツーカーだからな。直接言葉にしなくても判ることがたくさんあるんだ」

「羨ましいかぎりです……」レベッカが悔しそうに拳を握った。

「まあ、ペルちゃんたら、人前ではイチャイチャしないほうがいいわよ」


(エミリーがそれを言うか?)


「唐突だが、みんな俺の指示に従ってくれ……」


 ペルシーは裏道に通じる路地へ入るようにレベッカ達に合図した。

 中央通りの往来は激しいが、裏通りは人が少ない。大騒ぎをしなければ問題ないだろう。


 路地に入るとペルシーはすぐに追跡者たち三人の後ろに転移した。

 そして追跡者も路地に入るとすぐに、彼等の後ろから声をかけた。


「お前たち、俺たちに何かようか?」

「誰だおまえは!?」

「レベッカさんたちの連れだ」

「えっ、まさか雷野郎かっ!」

「雷野郎?」

「やっちまえ!」


 男達は剣を抜き、ペルシーに切りかかってきた。

 ペルシーにとってその動作はあまりにも緩慢過ぎて、避けることすら必要なかった。


 最初の男の剣の腹を右手で外側に弾き、その勢いのまま肘で男の喉笛を突いた。

 その男は息ができなくなり藻掻き苦しみだした。しばらくは立つこともできないだろう。


 次に切りかかってきた男には、左手で鳩尾にボディーブローを叩き込む。

 その男はすぐに意識を手放し、地面に崩れ落ちる。

 

 最後は指示を出したリーダー格の男だ。今の戦いを見て、こちらのスキを狙う作戦に切り替えたらしい。


「おまえがこいつらのかしらか?」

「そんなことおまえには関係ない。おまえには賞金がかかってんだよ! ここで死んでもらう!」

「賞金首だって? 誰が賞金をかけているんだ?」

「言うはずないだろ!」


 リーダー格の男は剣を横から薙いできた。

 ダックして剣を躱し、その男の足を払った。

 リーダー格は剣の勢いを止めよとして踏ん張っていたので、盛大にひっくり返った。

 ペルシーはすかさず右腕を踏みつけて圧し折った。


「うぎゃーっ!」


 相当痛かったのだろう。このような叫び声はなかなか聞けるものではない。

 腕だけでは逃げられる可能性があったので、鳩尾みぞおちを狙って蹴り上げる。


「うっ!」


 今度は気絶したようだ。意外と痛みに弱いやつらだ。


『この連中は基礎訓練も受けていないから兵士崩れではないと思う』

「賞金稼ぎでもなさそうだな」


「ペルシー様!」

「ペルシーさん!」


 そこへレベッカ達が戻ってきた。


「レビィ―、こいつらに見覚えはあるか?」

「いいえ、見たことありません」

「俺のことを雷野郎と言っていた。間違いなく砂漠で襲ってきた奴らの関係者だと思う」

「ダルタニアンさん、こいつらを縛り上げて、衛兵のところまで連れて行ってください」

「承知しました、レベッカ様」


 この男たちは一見冒険者風にみえるが、なんでこんなに弱いのだろうか。ダルタニアン達のほうが遥かに強そうである。


「ダルタニアンさん、この男たちはとても弱かったんだが、何者か分かるか?」

「今の戦いを遠くから拝見させていただきましたが、この町にいる冒険者と比較した場合、実力は中の下というところでしょうか。何者なのかまでは分かりませんね」


 ダルタニアン達は、この町に数週間滞在していたので、冒険者たちの実力はある程度把握しているらしい。そのダルタニアン達はどのくらいのレベルなのだろうか? 気になるところではある。


「それにしてもペルシー様はお強いですな。レベッカ様をお助けしたというのは本当のことだと確信しました。今度お手合わせをお願いしたいくらいです」

「それは買い被り過ぎだよ。格闘は得意じゃない――」


 その後、ペルシーたちは護衛のダルタニアン達と一旦別れて、先に食事をすることにした。

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