第2話 パメラドールと初めてのシンクロ
ジュリアス・フリードの体と悠斗のアストラル体が重なり合い、二重にブレている。
まだ悠斗のアストラル体は完全に憑依しきっていないようだ。
(そうだ、俺は
しばらくすると、カメラの焦点が合うように、悠斗の体は存在を取り戻した。
「ここはどこだ?」
ここが悠斗の部屋ではないことはすぐに分かる。
なぜなら、この部屋には人工的な明かりが一切存在していないからだ。
「俺は何でこんなところにいるんだっけ?」
悠斗は記憶の糸を手繰り寄せるように思い出そうとした。
「そうだ、思い出した。大賢者ジュリアス・フリードに憑依して、転生して、聖女ペネローペを救い出す……」
そうだ、この体はジュリアスの体だったものだ。悠斗は本当にジュリアスの体に憑依したのだ。
「冗談じゃない! マジだったのかよ!
あの状況で圧倒されていて、怒るのを忘れていたよ!」
実際、悠斗が着ている服はジュリアスが着ていた神官服だから間違いない。
(ああ~俺の部屋とかどうなっちゃうんだろう?
あとPCとか……。
やばい……ハードディスクの中身を消したい……)
悠斗は意識がはっきりしてくると、天井に青白く光る何かの文様が描かれていることに気がついた。
(これは魔法陣……、だよな? それくらいは俺でも知ってるぞ。
何だかわからないけど、文字がびっしりと書き込まれているな……。
それに何か……プレッシャーを感じる)
「青白く光ってるし……。そうか分かった。ここって、ジュリアスが封印さていた場所だ。だからこんな魔法陣があるんだな」
部屋の中を調べてみると、悠斗が寝ていた台座の上にヘッドギアのようなものを見つけた。
どうやら、ジュリアス・フリードの横に置かれていたようだ――。
(これはジュリアスが被っていたものだよな。
魔法具とかいうやつかもしれない。被ってみたほうが良さそうだ……)
すると、ヘッドギアが淡い光を放ち、悠斗の頭にフィットした。
『はじめまして、ご主人様』
「えっ! 誰?」
『私の名前はパメラドールよ』
(ジュリアスの言っていた魔法人工知能か?)
「パメラドール……、ジュリアスから聞いているよ」
『ジュリアス様からの思念は届いた。とても悔しい……』
「ジュリアスのことはお悔やみを言うしかないが、俺はジュリアスの我儘に巻き込まれた被害者だ。同情はできない」
『そうね……。ご主人様の言うとおり。でも今は……』
「何か事情があったのは知っている。だが、俺は前に進まなきゃならない」
『魔法のことは任せてご主人様。すべての事情はジュリアス様からの通信で分かっているの。魔法のこと以外でも相談してくれると嬉しい』
「悠斗……でいいよ、いや、せっかく生まれ変わったんだ。新しい名前にしよう」
悠斗がよくプレイしていたのはナイトブルー・ディメンジョンというオンラインゲームだ。
そこではペルセウスというハンドルネームを使っていたことを思い出した。
「フルネームはペルセウス・ベータ・アルゴル。でも、ペルセウス……だと呼びにくいか。 ペルシーと呼んでくれ!」
『了解、ペルシー様。私のことはパメラと呼んで欲しい』
「今日からお前は俺の相棒だ。『様』はいらないよ。ペルシーでいい。ところでパメラはどこにいるんだ?」
『ペルシーが被っているのがパメラよ』
「マジですか。なんてコンパクトなんだ。魔法文明恐るべしだな。これほどの人工知能をヘッドギアに納めるようなテクノロジーは、現代の地球にもないんじゃないか?」
『人工知能? ジュリアス様もそんなこと言ってた』
「まあ、そうだろうな。それより、この後どうしたらいい?」
『ジュリアス様を封印した憎むべき魔法陣を突破する。壁にある魔法陣に触って』
壁の一つに、天井にあったのと同じ魔法陣が描かれている。
ただし、こちらは赤く発光している。
(ちょっと怖いけど、パメラの言う通りにしてみよう)
ペルシーがその扉に手を触れると、赤く光ってた魔法陣が青白い発光に変わった。
次の瞬間、悠斗の視界がブレた――。
「眩しい!」
ペルシーの目の前には見渡す限りの森林が広がっていた――。
「外に転移したということか?」
外に出てから改めて振り返ってみると、それはピラミッドのような構造物だった。
ペルシーが転移したのはそのピラミッドの中腹付近である。
『ジュリアス様……。やっと脱出できたよ……』
「パメラ……」
(千年間も閉じ込められていたんだよな。なんだか気の毒になってきた。でも掛ける言葉がない……)
「こ、これがピラミッド神殿か……。ジュリアスを封印するためにこんなに大掛かりな構造物が必要とはね」
ピラミッド神殿の外側は階段状になっているので、周囲がどうなっているのか調べるために頂上まで登ってみたほうがいいだろう。
幸い、ピラミッド神殿はエジプトのピラミッドほど巨大ではない。
「封印されていたはずなのに、どうして脱出できたんだろう?」
『あの魔法陣はアストラル体を封印するためのもの。アストラル体がジュリアス様からペルシーに変わったので、あの魔法陣は機能しなくなった』
「なるほど、ちゃんと理由があるのか……」
(それにしても、この体からはとてつもないパワーが湧き出してくる。超人的な身体能力を持っているというのは本当のことのようだな)
「この体なら一挙に頂上まで登れそうな気がする」
『大丈夫。問題ない』
実際、ペルシーは残りの十メートルほどを一度のジャンプで登りきってしまった。
「正直言って、凄すぎる……」
『魔物と戦ってみれば、その凄さがもっとよく分かる』
「それは楽しみだな~。いや、戦いたくないんだけど……」
『それは無理な相談というもの』
「なるべく戦いは無しでお願いします」
ペルシーはピラミッド神殿の周囲を見回してみた。
「すげ~、こんな景色見たことないぞ~」
今まで見たこともないような壮大な森林が周囲に広がっていたのである。それ以外には何も見えない。
このような状況でなかったら、感動するシーンだったろう。
「このピラミッドは見た覚えがある……」
それはメキシコにある《チチェン・イッツァ》のピラミッドによく似ていた。
チチェン・イッツァのピラミッドはマヤ文明が残した遺跡の一つであるが、このピラミッド神殿はそれよりも大きいようだ。目測では三十メートルくらいありそうだ。
ミストガルのピラミッドが、地球にあるピラミッドに似ているということは、ミストガルと地球がお互いに影響しあっているのかもしれない。
それとも、人間の発想がこの世界でも似たようなものなのか?
「さ~て、これからどうしようかな? 問題が山積だ……」
これからどこへ向かうのか、食べるものは、寝るところは……。
よく考えなければならないことが沢山ある。
「とりあえず、サバイバルの基本だ。この周囲を調べてみよう」
ペルシーはピラミッド神殿の階段を降りようと思ったが、力の加減を間違えて飛び降りてしまった。
「あっ! 落ちる!!!」
ペルシーは一挙にピラミッドの下までと落ちていった。
そして、「ドスン」という鈍い音とともに両足が膝まで地面にめり込んだ。
驚くことに、三十メートルの高さから落ちたのにペルシーは無傷だった。
「どんだけジュリアスの体は強いんだよ!」
『ペルシーはドジっ子』
「まだこの体に慣れていないから仕方ないだろう……」
『ペルシー、森のなかに何かいる』
(森の奥から何かが蠢く気配がする。それも千以上のオーダーで感じる――。
神殿にいるときから森林の中に無数の赤い点が頭の中に浮かんでいた……。
あの時はそれが何を意味するのか分からなかったが、今その正体が分かった。
おそらく魔物だろう)
「パメラは探知魔法を使えるのか?」
『近距離ならば使える。でも、ジュリアス様は強力な魔眼を持っていた。ペルシーにも魔眼が使えるはず』
しばらく待っていると、森の中から緑やら黒やら赤やら、小さいのや大きいのが姿を現した。中には森から頭が出ているものもいる。こいつらはモンスターだ。
ゲームやラノベの中で登場する架空の魔物ではなく、本物の魔物たち。
息遣い、唸り声、蠢く音、生臭い匂い――。
最初に森から出てきたのは緑色の小さいやつ。おそらくゴブリンと呼ばれている魔物だろう。
それに続いて黒くて大柄な魔物が出てきた。顔が豚に似ているのでオークだ。
更にそのうしろには三メートルほどもある巨体を持つ魔物。おそらくオーガだ。それに、ミノタウロスもいる。
森から頭を出しているのは何だ? サイクロプスか? トロールか?
森の中からは湧き出すように魔物が迫ってくる――。
ペルシーは愕然とした。いま確認できただけでも詰んでいるのに、森を突き抜けている超大型の魔物が数体はいる。
「見覚えがある」魔物だが、それは空想世界の魔物だったはずだ。
だが今は、ペルシーは目の前に存在している――。
「グォーッ!!」大型の魔物が叫ぶ声が聞こえた。
その声で我に返ったペルシーは必至で考える。
この状況をどうやって打開できるだろうか。
おそらく、目の前には千体ほどの魔物がいるだろう。
全部が全部、ペルシーを睨んでいる。まるで知性があるかのように……。
なぜペルシーが狙われているのか? 今それを考えても意味がない。
どうやってここを脱出するかが最優先だ。
「れ、冷静に考えなければ……。俺は幻想魔法が使えるのだから、この場合は広範囲魔法を使うべきか? いや、俺は何を言っているんだ。そんな魔法知らない。やはり、逃げるのが正解だろう。魔物の数が多過ぎる……」
今のペルシーに冷静な判断を求めるのは間違っている。
死に直面するような場面は、平和な日本ではそうそう出くわすものではない。
ペルシーにはこのような経験が全くないのだ。
しかし、悠長に構えている時間はなさそうなのも事実だ。
(ピラミッド神殿の頂上まで駆け上るか。いや、駄目だ。魔物たちも追ってくる。
それともピラミッド神殿の中に逃げ込むか。
これはできそうだけど、水も食糧もないのに籠城はできない。
神殿の後ろ側に広がる森林に逃げ込むのはどうだろう。
これも駄目だ。俺は森林で魔物を振り切るだけの知識がない……)
しかし、魔物たちの視線が矢のようにペルシーに降り注ぐ。
ペルシーはその恐怖に震えが止まらなくなる。
「お前ら! 社畜を舐めるんじゃないぞ!!!」
(お、俺は何を言ってるんだ……)
『ペルシー、落ち着いて! でも、社畜って何?』
「落ち着けと言っても、あれだけの魔物をどうしたらいいんだ!?」
『ペルシーの身体能力と魔力があれば、あの程度の魔物たちを屠ることなどなど造作もない』
「なんだって!」
『最初はゴブリンたちが襲ってくるはず。そうしたらやつらの頭部を殴りつけるといい』
あれこれと考える時間が、ペルシーには残されていなかった。
「グガーッ!!!」
戦闘の合図のように、凄まじい咆哮が聞こえた。
パメラの言う通り、ゴブリンたちが一斉に襲ってきた。
「遅い!」
(まるでスローモーションのようだ。
戦闘モードにでも切り替わったのか?
何もかもが遅い)
ペルシーがゴブリンたちの頭部を殴りつけると、ゴブリンたちの頭部は体から自由になり、次々とどこかへ吹っ飛んで行く。
「なんだこれは! 凄過ぎる――」
それでもゴブリンたちは百体ほどいたので、全部を倒すのに十分近く費やされた。
『次はオークたちが襲ってくる。今度はウインドカッターを使う。狙うのは首』
ペルシーの頭の中に突然、ウインドカッターのイメージが湧いてくる。
パメラがそのイメージを幻想魔法として実現してくれるらしい。
『ペルシー、パメラの意識にシンクロして!』
「シンクロといっても......」
ペルシーはパメラの存在を自分の意識のなかに感じた――。
『シンクロ率七十パーセント。ペルシー、いつでもいける』
(これでシンクロしたのか? それでは早速……)
「ウインドカッター!」
ペルシーの右手が光りだした。
そして、オークの首を狙って右手の光を投げつけた。
光り輝く三ヶ月状の刃が、虹色の光跡を曳きながらオークの首を通過した。
オークの首が地面に落ちた。
「思ったより簡単だった。でも、今のはウインドカッターだよな? なんで光り輝いてみえるんだ? パメラ、これは別の魔法じゃないのか?」
『そんなことない。どこからどう見てもウインドカッター』
コツを掴んだペルシーは、次から次へとオークたちにウインドカッターを放った。
ほぼ百発百中だったが、オークたちは数が多いので三分くらいかかった。
オークたちが片付くと、身長が三メートルほどもあるオーガたちが襲ってきた。
ペルシーはバックステップしながら棍棒の攻撃を躱す。
『オーガはちょっと厄介。
「す、炭にするのか?」
再びペルシーの頭の中にイメージが湧いてくる。
「なるほど、マイナスに帯電したプラズマの雲をオーガたちの頭上に作り、その高度を下げるイメージか」
『そう。簡単な原理』
「
ペルシーが叫ぶと、「ピシャ―ッ! ドッカーン」という凄まじい音が響き渡った。
次の瞬間、オーガたちは燃え上がり、消し炭のようになった。
そして、オーガたちがいた上空から、光の粒子が虹色に光跡を曳きながら降り注いだ。
(これって、雷魔法なのか?)
「パメラ、言いたいことはいろいろとあるが、ありがとう」
『礼には及ばない。パメラはペルシーの奴隷のようなもの。命令してくれればそれでいい』
「いや、奴隷っていうのは嫌だな……」
『ペルシー、次は巨人族。あいつらは中規模の魔法では屠れない。それに数百体もいるので、ここは《時空振動波》を使うべき』
ペルシーの頭の中に浮かんだイメージは《時空振動波》らしいのだが、彼にはこの魔法がよく理解できなかった。
時空を歪める振動波を放出する魔法らしい。
その影響範囲にある物質はすべて蒸発する――。
(幻想魔法の《理解する》という部分が抜けているけど、パメラのサポートがあれば発動でいるのか)
ペルシーは右手を前に出し、魔法名を唱えた。
「時空振動波!」
すると、ペルシーの体から急激に何かが湧き上がり、外に向かって放出された。
その凄まじいエネルギーの波動は、放電を伴い砂埃を巻き上げながらダウンバーストのように魔物や森林を飲み込んでいった。
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