03 自身
ぺらりとページをめくり本、ライトノベルというジャンルらしい物を読み進める、なるほど確かに読みやすい。
千明が私に似ていると言って数冊貸してくれた物の一つだ。
こういったものを読まない私としてはとても新鮮で、また彼女が趣味を共有しようとするその様はうれしいものであった。
またぺらりとページをめくる。
確かに似ているかもしれない。
だけど私は彼女ほど強くもないしそこまで万能な能力ではない。
何より殺したいとは思わない。
……。
少し気が逸れ時計を見上げる。
いつの間にか針は日が変わった事を示していた。
本を閉じて立ち上がり、するりと帯を解いて着物を脱ぐ。私を拘束していたものは解けて私は私だけになる。
今の私は解けているのだろうか、それとも私を見上げている彼女のように強固に絡まったままなのだろうか。
自分の解れは見れない。
着物を
記憶が無くなったことなんかない、私は全部憶えている。
でもわからない。その記憶が私の物であるかどうかがわからない。
延々とテープが回り続け映像が映るかの様に私はその記憶を見続ける。
思考の最中、慣れた装束を身につけていく。
襦袢を変えて、
隅を整えて目を上げると視界に白いコートが写る、さっきの本の影響、勿論似合わないので却下。
「着ないの?」
「着ませんよ」
千明が珍しく少し残念そうな表情を浮かべる。
「どうだった?」
本を指差して私に聞いてくる。
「そうですね、確かに似ているかもしれませんね。魔眼の持ち主で死に関わるものが見えて着物を着てて」
先ほどの表紙と彼女についての記述を思い出しつつ答える。
「でも私ははっきり言って力も弱くて武術の心得もありませんし、彼女の様に想う相手もおりませんし、何より死線や境界を斬ったり掴んだりなど出来ません。ですから貴女の望みを叶えることは出来ないのです。ごめんなさいね」
千明の望みについては色々な方向から耳に入って来ていた。
しかし私には彼女の繋がりを切り断って静寂を与えることは出来ない。
私が干渉出来るのは綻びだけだから。
「いや、うん、ありがとう」そういうと千明は顔を伏せる。
「貴女の気持ちも分かりますが、望むものは簡単に手に入るものではないですよ。だからマスターレイスのナンバーを貰ったのでしょうし」懐刀を仕舞う。
「そうね、そうだったわ」
またいつもの顔に戻ってこちらを見る
「行くのね」
「はい、そういう約束でしたので」
いつ来るのか分からない以上できるだけ早く待つのが礼儀だから。
「じゃあもう少しここに居るわ、何かあったらコールして」
「ええ、ありがとうございます」
その電話がもう鳴らないことはお互いに分かっていた。
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