02 邂逅

「おい」


 人混みから離れて帰路についたところを後ろから声を掛けられた。

 おそらく私、だろうけど相手にせずそのまま歩く。

 ばれない様に携帯電話に手を伸ばし信号を送る。少し時間が掛かるかもしれない。


「……」


 特に呼び止めることなく付いてきている、流石に繁華街で事を起こすつもりはないらしい。

 だとすればUGNのエージェントに見つかったか、何しろ泳がせてくれるなら御の字。

 背中からチリチリとした殺気を受けつつゆっくりと街を抜けていく。

 少し歩くと人通りも少なくなり、頃合いかと思ったところで路地裏へと入り込む。

 敵もまた路地裏に入った気配を感じ、振り返る。

 そこらへんに居そうな格好をしているが、最早隠す気のないその殺気は一般人のものではない。


「“死線の赤デットラインレッド”だな」


 周囲に薄っすらと血の匂いと共にワーディングが展開される。

 ブラム=ストーカー…敵に回すにはあまり相性の良い相手ではない。ましてや他のブリードの組み合わせによっては致命的になりうる。


「人違いかも、しれませんよ」


 私は警戒しながらも、それが自分の天敵であると知りながらも、思わず笑みが溢れてしまう。


 だって彼のはさっきの人よりもさらに大きかったのだから。


「その格好に先ほどの能力、見られていて惚ける必要があるのか?」


 手から血を垂らす、その血は繋がり少しずつ長くなっている。

 隠しているのかピュアブリードなのか、まだそれ以外の能力は見いだせない。


「そこまで見られているのでしたら」


 姿勢を正し真っ直ぐと見つめる。


「浅凪凪波でございます、以後お見知り置きを。それでご用件は、聞くまでもありませんか」


 完成したその剣を眺めてため息を吐く。もう少し時間が必要だろうか。


「しかし残念ですが、今の私は貴方様とはもう戦えません」


 ゆっくりと深々とお辞儀をする。


「後日、いいえ明日で構いません。日を改めては頂けないでしょうか」

「…理由は」構えたまま聞いてくる。

「1日に1人しか殺すなと言われておりますので」


 心地よい香りの中、一瞬静まり返る。


「ふっ、ふふふ…ハハハハハ!!」


 男が大声で笑いだした。


「ハハハハハハハハ、巫山戯ふざけるなッ!!」


 張り詰めた声に思わず一歩引いてしまう。


「それで理性を保っているつもりか? それで人のつもりか? そんな言い分が通ると思ってんのか、ああッ?!!」


 、地を蹴り距離を詰められる。


「…っ!!」


 身を引こうとするが到底避けられるものではない、痛みを覚悟した、その瞬間地面から土の壁がせり出してくる。

 振るわれた剣は壁を貫き、目と鼻の先で止まる。


「ぎりぎりだけど、間に合ったわ」


 先ほどSOSを送った七里千明ななさとちあきがそこに立っていた。

 血の刃を抜きながら距離を取られる。


「ちっ、増援か。その能力の強さ、お前は…マスターレイスが出てくったぁ…。全く面倒な奴らだ」そう言いつつも構え直す、引くつもりは無いらしい。


「千明、逃げるから手伝って」

「りょーかいお嬢」


 そういうと二人で背を向けて一斉に駆け出す。

 路地を抜けて千明に手を引かれながら走る。


「おいっ! テメエら!!」


 後ろから呼び止める声は無視だ。

 千明が進む僅かな隙間は私たちを受け入れ他者を拒み、安全な脱出路を用意してくれる。


「…ここまでくれば大丈夫だよ」


 気付けばいつの間にか繁華街を抜けセーフハウスの近くまで来ていた。


「ありがとう千明、助かりました」彼女に頭を下げる。

「止してよ、お願いされたからやっただけだわ…今日の分は終わったの?」

「ええ、終わりましたよ。ご飯はまだですか? お礼に作りますよ」

「私は…、ううん、そしたら食べましょうか」


 お互いに必要以上に干渉しない。

 それが分かっているから私は千明には甘えられるし、彼女がマスターレイスに成ってからもその関係は変わらなかった。

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