参
「サキー!」
「あっ、
今日も、2人はこの公園で。
時間を決めていたわけではないけれど、会うことができた。何かの運命? なんて、マンガの世界みたいな。でも、そう思えなくないのも不思議。
「時間、決めるの忘れちゃったね」
「そだね」
「ごめんね、明日はちゃんと時間決めよね」
風は吹かない。桜も散らない。
昨日のように花びらが舞うことはないけれど、地面は、桃色の絨毯だ。
もう、終わりに近いのかもしれない。
寂しいけど、物事のすべてはいつか必ず終わりが来るって、ママが言ってたから。
2人は喋る。
今日もまた、色のくすんだブランコに座って。
椅子の代わりだけど、この冷たいきぃきぃ音が耳につく。昨日よりも、ちょっとうるさくなった? 気のせいかな。
話す、話す。
昨日みたいに、他愛ない話を。
「あ…あのねっ」
「ん?」
風になびく自分の髪に触れながら、サキの方に顔を向けた。
先ほどまで穏やかだった雰囲気が一変して、真剣そうな瞳で黎を見つめている。
「サキ、明日帰るんだ」
「……え?」
「お母さんの仕事が終わるから、明日ホントの家に帰らなきゃ。次来れるのはきっと、」
——来年の春。
サキは
来年の、春。
黎は、口を開かない。
目をまんまるくし、驚いた表情を隠せずにいる。
「ごめんね、黎ちゃん。せっかく、お友達になってくれたのに……」
目から水分が、今にも零れ落ちそうだ。とぎれとぎれの言葉を、紡ぐ。
「……ううん、それはしょうがないよ」
黎も、ゆっくり言葉にする。
怒ってなんか、いない。
寂しそうではあるけれど、サキに向かって、ほほえんでいる。
「サキは悪くないよ、家の事情だもんね」
「黎ちゃん…」
「今日はいるんだよね?なら、いっぱい話そ!」
最初のときのように、黎はにこっと笑った。
「うん!」
語らう、語らう。
風が吹かない今日は、2人の声をどこにも持っていかず、ずっとそこに残っていた。
言葉が、トーンが、そのときの気持ちが、耳と体に染みついて消えないように。
どうでもいいことを話すけれど、どうでもいい時間なんかじゃない。
学校の授業みたいに、ためになることを話してなんかない。
けど、なにかがきっと大切なんだ。
思ったことを素直に言って、笑う。
「友達」の会話ってものは、こんなに、楽しんだと噛み締めながら。
時間はあっという間に過ぎる。時なんてものは残酷で、流れるように過ぎ去って、楽しいお話の時間から、2人を現実に引っ張り戻していた。
3時を知らせる鐘が、なった。
昨日と変わらない音なのに、今日はなぜか、冷たく聞こえた。
「3時だ。3時までには帰って来なさいって、お母さんに言われてるんだ」
「あー、黎も」
昨日も見た、ここの時計。
またお世話になった。
そして、また私たちを切り裂いた。
ああ、まただ。お前は私とサキの時間を奪うんだ……なんて、時計は悪くないんだけど、思っちゃうんだよ。
ふぅ、と一息ついて息を吸って。
「また来年、来てくれるんだよね?」
「もちろん! きっと…ううん、絶対来るよ」
2人は公園の出口で、ほほえみながら、手を取って。
「じゃあ、またね、来年、この公園で!」
「うんっ絶対ね!」
そんな声をかけて。
なんだか泣きたい気持ちをおさえ込んで、2人は大きく手を振った。笑って、笑って。
出会って2日目。それでも2人は、学校の友達なんかよりも深くお互いを知っていた。
自分のこと、家族のこと、学校のこと何もかも。
それについては「最初の友達だから」としか、思っていなかったかもしれない。
でもきっと何か、目には見えない繋がりがあるんだろう。
2人が出会ったのは、ただの偶然ではない。
素晴らしい運命だったのだ。
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