「サキー!」

「あっ、れいちゃん!」



 今日も、2人はこの公園で。


 時間を決めていたわけではないけれど、会うことができた。何かの運命? なんて、マンガの世界みたいな。でも、そう思えなくないのも不思議。



「時間、決めるの忘れちゃったね」

「そだね」

「ごめんね、明日はちゃんと時間決めよね」



 風は吹かない。桜も散らない。


 昨日のように花びらが舞うことはないけれど、地面は、桃色の絨毯だ。



 もう、終わりに近いのかもしれない。


 寂しいけど、物事のすべてはいつか必ず終わりが来るって、ママが言ってたから。



 2人は喋る。


 今日もまた、色のくすんだブランコに座って。



 椅子の代わりだけど、この冷たいきぃきぃ音が耳につく。昨日よりも、ちょっとうるさくなった? 気のせいかな。



 話す、話す。


 昨日みたいに、他愛ない話を。



「あ…あのねっ」

「ん?」



 風になびく自分の髪に触れながら、サキの方に顔を向けた。

 

 先ほどまで穏やかだった雰囲気が一変して、真剣そうな瞳で黎を見つめている。



「サキ、明日帰るんだ」

「……え?」

「お母さんの仕事が終わるから、明日ホントの家に帰らなきゃ。次来れるのはきっと、」



——来年の春。



 サキはうつむいて、伝えた。


 来年の、春。

 


 黎は、口を開かない。


 目をまんまるくし、驚いた表情を隠せずにいる。



「ごめんね、黎ちゃん。せっかく、お友達になってくれたのに……」



 目から水分が、今にも零れ落ちそうだ。とぎれとぎれの言葉を、紡ぐ。



「……ううん、それはしょうがないよ」



黎も、ゆっくり言葉にする。


 怒ってなんか、いない。



 寂しそうではあるけれど、サキに向かって、ほほえんでいる。



「サキは悪くないよ、家の事情だもんね」

「黎ちゃん…」

「今日はいるんだよね?なら、いっぱい話そ!」



 最初のときのように、黎はにこっと笑った。



「うん!」 






 語らう、語らう。


 風が吹かない今日は、2人の声をどこにも持っていかず、ずっとそこに残っていた。


 言葉が、トーンが、そのときの気持ちが、耳と体に染みついて消えないように。



 どうでもいいことを話すけれど、どうでもいい時間なんかじゃない。


 学校の授業みたいに、ためになることを話してなんかない。


 けど、なにかがきっと大切なんだ。



 思ったことを素直に言って、笑う。


 「友達」の会話ってものは、こんなに、楽しんだと噛み締めながら。




 時間はあっという間に過ぎる。時なんてものは残酷で、流れるように過ぎ去って、楽しいお話の時間から、2人を現実に引っ張り戻していた。



 3時を知らせる鐘が、なった。


 昨日と変わらない音なのに、今日はなぜか、冷たく聞こえた。



「3時だ。3時までには帰って来なさいって、お母さんに言われてるんだ」

「あー、黎も」



 昨日も見た、ここの時計。


 またお世話になった。


 そして、また私たちを切り裂いた。



ああ、まただ。お前は私とサキの時間を奪うんだ……なんて、時計は悪くないんだけど、思っちゃうんだよ。



ふぅ、と一息ついて息を吸って。



「また来年、来てくれるんだよね?」

「もちろん! きっと…ううん、絶対来るよ」



 2人は公園の出口で、ほほえみながら、手を取って。



「じゃあ、またね、来年、この公園で!」

「うんっ絶対ね!」



 そんな声をかけて。



 なんだか泣きたい気持ちをおさえ込んで、2人は大きく手を振った。笑って、笑って。




 出会って2日目。それでも2人は、学校の友達なんかよりも深くお互いを知っていた。


 自分のこと、家族のこと、学校のこと何もかも。



 それについては「最初の友達だから」としか、思っていなかったかもしれない。


 でもきっと何か、目には見えない繋がりがあるんだろう。






 2人が出会ったのは、ただの偶然ではない。


 素晴らしい運命だったのだ。

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