「ずっと散らなきゃいいのになぁ」



 私は、目の前にたたずむ桃色を見ながら、呟いた。



 本当に、もっとずっと咲いていてほしい。


 こんなに綺麗なのに、春が終わったら寂しい枝に戻ってしまうなんて、寂しいにもほどがあると思う。



「でも、ずっと咲いてたら、春って感じなくなっちゃうよ」



 隣から聞こえる、透き通った綺麗な声。



 隣に居るのは、サキ。


 彼女の、緩く結んだ2つ結びが、ふわっと揺れた。



 サキと私の視線の先には、公園らしからぬ立派な桜の木がある。


 なんでこんな所にこんな桜があるのかよく分からないけれど、私も結構気に入っていて。毎年サキとお花見だ。



 ここは、かなり田舎。


 少し行けばスーパーはあるのに、まるで世界が違うようにここは田圃しかない。


 別にここで生まれ育った私にしたら、これが当たり前だしなんとも思わないけど、テレビに映る都会との差を感じるとひしひし…どこにもあてようのない憧れがわいてくる。



 あ、でも、田圃? の上に置いてあるあの白い袋、あれが毎日鳥に見えてしょうがないんだ。ホラっ、あそこに鳥が…なんて、何度思ったことか。



れいちゃんはさ」



 サキが私を呼んだ。


 風が吹いて、薄ピンクの花びらがヒラヒラ舞う。



「黎ちゃんは、桜が散るの、好きじゃない?」



 不安気な言い方で、問う……え。


 その質問、去年もしなかったっけ……なんて思うけど、この子にそんなこと言ってもムダだね。


 頭は良いのに、忘れっぽくて。



 忘れっぽい…なら、出会った時のことも、忘れちゃったかな? なんて思うとちょっと寂しい、なんて。私は、覚えてるのにね。


 昨日のことみたいに、覚えているのに。



「うん…嫌いじゃないけど、咲いてる方が好き、かな?」

「…そっかぁ」

「サキは?」



そう問いながら、こたえは知ってる。


 だって去年も聞いたもん。



 ほら、いつになく明るい声で、



「うん!私は散ってく桜、好きだよ!」



 って…やっぱ去年と変わってない!!



「そうだねぇ。じゃあ、来年からは枯れたときに見に来ようか?」



 枯れた桜のお花見なんてしないだろ普通。



 これだって、半笑いに言っただけだよ?


 なのに、やっぱり。



「でも、その時期に来れるかな~」って。



 このバカ真面目さん。


 サキには冗談が通じないんだ。



「ま、時期が合ったらだね」



 枯れた桜のお花見・・・。

 

 まぁ、それはそれで、楽しみかもしれない。


 サキと一緒にいられれば、充分だ。





 このとき、私は知らなかったんだ。


 サキとの来年なんて、ないことを…。

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