第2話

朝になった。今日は少し曇っている。正直、これぐらいの方が過ごしやすい。

「起きろ〜。朝だぞ〜」

「ん……ん……」

寝てれば普通に可愛いのに。起きるとすぐ我儘を言うからな〜。それさえ無ければ大分マシなんだけど。

「今日から少し技教えてって昨日頼んだの何処の誰だっけ?」

「わた……し……でも……あと……にじかん……ねさせ……て……」

「いや、それしたら昼前になるから。俺の今日の練習時間消えるから」

朝に弱いのも困ったものだ。

「と言うか、もうそろそろ起きないと大人にからかわれてイジメられるぞ〜」

「それは……いや……でも……ねて……たい……」

「知るか。昨日きちんと早く寝ないからだろ?初めて俺に夜付いてくるって言って夜更かしするからだろ?」

「そう……だけど……ねむい……のは……ねむい……」

本当、起きるまでが長過ぎる。

「明日もこんな調子なら、旅出る時置いていくぞ?」

「それだけは……いや……」

「じゃあ、起きろ」

そこまで言って漸くヒメキはむくりと起き上がった。

「おなかすいた……」

「はいはい。今日の朝食はパンと干し肉ね」

いつも同じメニューだ。明後日からはパンが無くなるが。

「またこれ?」

「あぁ。出来るだけ安く済ます為にな」

「銀貨300枚あるくせに?」

「もちろん。節約しないと。その分、装備に金かけないと、死ぬからな」

「そう?魔族一匹も殺ってないくせに?」

「それは今後を見据えての事だ。お前も同じだろ?魔族を殺ってないのは」

「カムが言うからじゃん」

俺達の間での約束は幾つかある。その内の一つが魔族を殺さないという事だ。もちろん、戦闘になれば戦闘不能にはする。だけど、殺しはしない。殺すのは人間だ。

「ほれはらもほれふふけへるふもり?」

パンを頬張りながらヒメキが聞いてくる。頬張っているヒメキも可愛い。

「もちろん、続けるよ。だって、それが武器になるから」

「ふ〜ん」

信じてないと言いたそうだが、これは本当の事だ。

「さっさと飯食ってやるぞ〜」

「は〜い」

と、ヒメキは食べれる事が幸せかと言うぐらい笑顔でパンと干し肉を頬張っていた。




「俺、対人しか技術磨いてないから、それの一部だけな。教えるの」

「は〜い」

魔族は斬る気がないってのも一つの原因だけど。

「それで?ヒメキの獲物は?」

「えっと、槍かな?」

面倒臭いのを選んだな。

「槍か。まぁ、いいんじゃないか?後衛としては」

「だから、前衛をやるんだって!!」

「いや、槍で前衛は無理だから」

「えぇ〜」

当たり前だ。先に相手の胸元に攻撃を当てれる反面、こっちが詰められればそれで終わりなのだから。

「じゃあ、カムと同じ武器で」

「ん?このカタナとかいうヤツか?」

「そうそう」

ちなみに、このカタナなる武器の発案者はクソ親父だ。クソ親父の得意武器もカタナだから、それを徹底的に教えられた。だから、普段はカタナを腰に差している。

「あ〜、ダメダメ。これ扱うの難しい上に、使い勝手が悪いから。慣れるのに時間かかるぞ?」

「えぇ〜そうなの〜?」

「うん」

正直、今となってはコレで大分戦えるが、クソ親父に比べれば全然だ。

「じゃあ、いいや。普通の剣で」

「なんか適当だな。おい」

「仕方ないじゃん」

まぁ、残っているのはそれしかないのだが。

「それで?どれぐらいの剣を使うんだ?」

「そこまで重くなくて、使い易いの」

「じゃあ、誰でもそこから始める片手両刃剣にするか」

「片手……両刃剣?」

「嫌か?」

「ううん。と言うか、ナニソレ」

「へ?」

「ん?」

コイツ、まるで何か間違えた?って言ってるような聞き方しやがる。無知過ぎるだろ。

「片手両刃剣ってのは、基本片手で扱えるけど、ナイフみたいに片面で切れるんじゃなくて、両面で切れるんだよ。想像しやすいように言えば、上下反対にナイフを重ねて置いてそれを使うんだよ」

「へぇ〜。という事は、両刃以外のもあるの?」

「ないと思う。だって、両刃の方が便利だし」

「なるほど」

まぁ、見た事がないってだけなんだが。

「取り敢えず、始めるぞ」

「うん!!」

「よし、じゃあ、素振りしてみ」

そう言って素振りをさせてみると、本当に剣を振るのが初めてだと分かるぐらいに下手だった。

「はい止めて」

「何か問題あった?」

「あり過ぎ。だから、走って足腰鍛えろ。それからまた教えてやる」

「えぇ〜」

「当たり前だ。基礎だぞ?基礎。基礎が出来なくて次に進めるか!!」

「ぶ〜」

「やらないなら、ここで終わるぞ?」

「分かったよ。走れば良いんでしょ。走れば」

「お、おう」

なんだろう。何か嫌な予感がする。

「じゃあ、カム。行ってくるね」

「い、いってらっしゃい」

この胸のモヤモヤが分からない。だけど、それが後に大惨事を起こす事になるとは誰も思わなかった。

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