第十七話「考えた末に」

息を殺し、その生物が去るのを待つ。

重い質量をもった足音が徐々に遠ざかっていくのを見て俺はゆっくりと深く息を吐いた。

「なんだ、あいつは?」

素直にそう思った。

体の組成というか作りというか根本的なところは自分の知っているカエルだった。

でもあいつは細かいところが全然違う。

明らかに力を秘めているであろう筋肉。

鋭く獲物を捕らえる強い眼光。

何より、俺の背丈の1・5倍はあろうかという巨体は俺の知る限りカエルではない。

近くで見ると遅いと感じたが遠ざかっていくのを千里眼で見ると思った以上に速い。

と、そこであるものを見た俺は思わず呼吸が止まりそうになった。

何かの間違いであってくれといったんスキルを解除して、再度使用して確認したくらいだ。

だが何も間違いではなく、事態の緊急度はさらに増していた。

自分や藤堂が別れたはずのクラスのみんなに向かってさっきの化け物が向かっていたのだ。


……。

どうするか。

どうするも何も選択肢は決まっているのだがあんな奴(さっきのやつ)とやりあいたくない。

「まぁ進行方向を変えさせるだけでも十分だよな」

そう自分を納得させる。

こうして俺は、そのバケモノとクラスのみんながいる方向に向かって足を一歩ずつ踏みしめながら歩いて行ったのだ。

化け物を先回りして準備を始める。

武器

スキル

千里眼


簡単に言うと自分の武器ってこんなものだ。

戦うには少々心もとない。

しかし、これで戦わなければならないのだ。

つまり。

「現地調達、現地作成か……」

相手はカエルだ、有効かつお手軽なのはやはり火だろう。

火矢を放てばひるむかもしれない。

そういえば、油を小瓶に入れてたいまつか何かに使おうと思っていたんだった。

小さな小瓶を矢に括り付けて準備。

クラスの連中が気付く前に俺は化け物の前に飛び出した。

「行くぞ!」

まずは普通の矢で牽制。

「ゲ!」

加速しやがった。

転がってかわすが当たるとひとたまりもないだろう。

矢はきちんと狙えば当たるのは当たるのだが、ダメージが入っている様子はない。

「筋肉強ぇ‼」

ある程度進行方向をずらしたうえでクラスの連中のところに行かない方向に向くように火矢を放つ。

炎が、空中をはねた。

当たった際矢は跳ね返されたが瓶はその衝撃で割れたのだ。

化け物がのけぞる。

が、それで闘志をあおってしまったらしい……向かって来た。

「くっそ‼」

体当たりを受け紙の様に吹っ飛ぶ。

最近まで中学生をやっていた俺が満足に受け身を取れるわけもなく衝撃を殺しきれずに気に激突する。

「か……はっ……」

呼吸が止まる。

目がかすむ、涙で視界がぼやける。

口の中に血の味が広がっていき声も出ない。

だが、恐怖はやってこなかった。

化け物は俺のことなど眼中にないかのように森のある一点を見つめてたが木が揺れて瞬間に自分が来た方向にとんでもない速度で走り出した。

見ていた方向には、どこまでも美しく、畏敬を集めるであろう透明な竜がいた。







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