第十四話 「ひとまず、だ」

口調とは裏腹に思考はすっきりしていた。

一先ずは交渉する方向で話を進めたい。

ここでいっちょ闘ってやろうと言えればかっこいいのかもしれないがそんな度胸も実力も備わっていない。

備えあれば憂いなしというがこの場合は、備えなくて憂いありということなのだろう。

だから交渉だ。

話が通じるのならすぐさま攻撃に移るよりも話をすることで楽しませて帰らせてくれと、そういうことだ。

でもなぁ。

討伐クエスト受けて来たって言っちゃったしなー。

竜討伐できますよ見たいな発言もしちゃったし。

あれの時点で目の前の竜からは敵確定だろう。

「ひとつ、ここは昔話の一つでもしてあなたを楽しませることができたら俺をこの 場から返してくれるということにしてくれないだろうか」

言い方を間違えた気がする。

「なるほど……」

少し考えるようだった。

追加で条件を提示する。

「あなたは電車がなにか知っているか?知らないならこの話聞いておかなければ必 ず損をするぞ」

「電車……?なんだねそれは」

のっかってきた、さすが竜。

アニメやなんやらでも寝坊助だったり自由に不規則に動き回る生物だと伊達に言われていない。

気持ちに正直というか、自分の欲に正直だ。

この場合は知識欲だろう。

さっきと比べて口調も若々しい。

「電車について教えよう。まずな、駅で待っていると箱が滑り込んでくるんだ」

「箱が滑りこんでくるのか、大丈夫なのか⁉

いやその前に駅というのはあの人間が馬車を待つときに使うやつであっているのか⁉」

「あっている。

 そして心配はいらないぞ。底に馬車に着けるような車輪が大量についているからな、めったに転ぶこともない。おまけに馬車なんかよりもたくさん運べるし、速度なんて馬車とは比べ物にならないんだ」

「もっと詳しいことを教えてくれ!荷物を運ぶといったが運搬用なのか、それとも 人を乗せるのか。」

よしよし、いい感じに食いついてきた。

「いくつもその箱がつながって電車という一つの形を作っているんだ」

「なるほど、細かいところはイメージだけでは補えないが、しかし大まかなところはわかった。」

「もうわかったのか⁉」

竜の理解速度早すぎるだろ、普通はもっとかかると思うのだが。

知識と経験か……。

「動力源は何なのだ?」

「いくつも種類があるのか?」

「誰が開発したんだ?」

理解しきれていないではないか。

専門家が必要になってくるレベルの質問を繰り返してくる。

適当に分からないことをはぐらかしつつ盛り上げていると、上機嫌で森に帰っていった。

ちなみに宝石がはめ込まれた剣も渡された。

竜に言わせると釣りのつもりらしい。

絶対に価値が釣り合っていないし重いせいで帰るまでに滅茶苦茶時間がかかったが無事に帰れたので良しとしよう。

「……これクエストクリアってことになるのか……?」

そんな疑問が頭をよぎったが明日のことは明日の自分に任せよう。



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