第十話「いや……どうしろと?」

「料理スキルだって?」

神宮寺が聞き返してくる。

「いつの間にそんなスキル身に着けたんですか?」

とアメリアにも尋ねられたが、そもそもそんなスキルを身に着けた覚えなどない。

というか料理をする機会が全くなかったのだから。

「このスキルも使えるのか……」

「はい、使えますよ」

「でも使うタイミングないだろ」

「むむ……確かに」

この世界に来てからそう時間はたっていない。

当然料理に利用できるような素材は持ち合わせていない。

「後で市場にでも行ってみましょうか」

アメリアの提案に、

「最高だ」

と返しながらカードのほかの項目を見直す。

ぐううぅぅ…………

「おい、今なんか」

聞こえたぞ……と言おうと後ろを振り向くと、アメリアが顔を真っ赤にしながらうずくまっていた。

「アメリア」

「聞かないでください」

「お……」

「なんでもないんです、おなかの音なんかじゃないんです」

「否定になっていない!?」

「というか、二人とも。ここは酒場じゃあなかったのか」

見かねて神宮寺が茶番劇を終わらせに俺達二人の間に入る。

「アメリア、ここは君のほうが圧倒的に詳しいと思うんだが」

「……なにか頼みましょうか」

「……そうだな」

色々気になることも残ってはいるが一先ず腹が減っては戦はできぬということで酒場のほうに移動して食事にすることにしよう。

二人は気持ちが通じ合ったように同じタイミングでウエイトレスさんを呼んだ。

チリン

とベルの音が騒がしい酒場の中に響く。

「メニューです」

アメリアが先にどうぞとメニュー表を手渡してくる。

「おお、じゃあ先に失礼して」

そうして開いたメニュー表には、

「いや……どうしろと?」

ことごとく知っているメニューは存在しなかった。

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