第84話 どちらが先か
――ッドォン!!!
洞窟内に轟音が轟いた。
突然の爆発によって複数のトカゲ男が消し飛び、または吹き飛ばされる。甲羅干しのように寝そべり、空間のDPを吸収していたトカゲ男たちは突如巻き起こる爆発によって大混乱となった。
跳ね起きたところに、さらに爆発が襲い掛かる。
――ドドドドン!!!ズンッ!
連続して爆発が発生し、土煙と細かな土砂が辺りに飛び散る。衝撃によって天井からも細かな破片が落ちてくるぐらいだ。
ようやく爆発が治まるが、多くのトカゲ男が爆発に巻き込まれ傷ついていた。残りもパニック状態となって右往左往している。そこに雄たけびを上げ襲い掛かる三人の姿があった。
「かあぁぁぁっ!」
「きえええぇぇぇ!」
「うらうらうらぁーっす!」
恐ろしく素早い身のこなしの藤源次は、重ねの厚い短刀で突いたり斬ったりと、着実にトカゲ男の命を刈り取っていく。時には一撃首を刎ねてみせる姿は、まるで死神のようだ。
亘もやや遅れながら、力強い動きで棒を振るっていく。強烈な打撃でトカゲ男を叩き潰し跳ね飛ばし、当たるを幸いに薙ぎ倒していく。縦横無尽とはいかないが、悪鬼の如き働きだ。
「うらぁ! うっしゃぁ! よっしゃぁ! ちょいさぁ! やぁってやるっす!」
そしてチャラ夫が騒々しく雄たけびをあげ、警棒を振るう。その攻撃は2人に比べると弱いかもしれないが、ガルムと一緒になって着実にトカゲ男を倒してみせる。囲い込まれそうになると、目潰しを撒いてチョコマカ動き隙を見つけてはトカゲ男を倒していく。まるで邪鬼のようだ。
「あいつは静かに戦えんのかね」
亘はぽつりと呟きながら棒を振るう。自分を奮い立たせるための気合いだろうが、チャラ夫の声が煩わしい。敵を倒すため集中しているのに、どうも気になってしまう。神経質なのかもしれない。
顔をしかめながら周囲を見回した亘は素早く状況を把握した。トカゲ男たちは当初の混乱から立ち直り、集結して迎撃の態勢を取りつつある。そこを攻めねばと思った瞬間、ピンポイントで爆発が叩きこまれ懸念は消えた。どうやら自分の従魔は有能らしい。
ニヤリと笑った亘へと横手から手槍が突き出された。隙を突いたつもりだろうが、もちろん油断などしていない。棒を回転させ巻き上げるように跳ね飛ばしてみせる。
「甘いっ!」
そのまま勢いよくトカゲ男の腹を突く。その一撃で鎧ごと胴を押しつぶしてみせる。
弾き飛ばされた仲間に巻き込まれ転倒するトカゲ男を無視し、間合いの外にいた別の個体へと一足飛びで接近し、その脳天を打ち砕く。その後で立ち上がりかけたトカゲ男を叩きのめす。
「むっ」
戦いながら七海たちの方に向かうトカゲ男たちに気づく。だが、流石にそれを止めに行くだけの余裕はない。
任せるしかない。そう割り切った亘は目の前の敵に集中した。
ザザザザッという金属音と共にマズルフラッシュが煙を噴き、放たれた弾丸がトカゲ男に小さな穴を穿つ。それですぐ倒れないが、それを圧倒するぐらい大量の銃弾が放たれる。
結局トカゲ男は全身に空いた孔から体液を流しながら倒れ伏した。
「あははははははっ! ひゃはははははっ!!」
神楽が哄笑をあげる。宙に浮かび撃ち続ける足下に幾つものマガジンが積まれており、それを全て打ち尽くす勢いで引き金が引かれている。その圧倒的な火力防御による弾幕でトカゲ男たちはなかなか近づくことができない。
銃弾が途切れるのはマガジン交換の間だけだ。
偶に接近することに成功するトカゲ男がいても、その時点で既に満身創痍となっている。エルムと志緒の手でも簡単に討ち取れてしまう。
「簡単に倒せるのはええんですが、ほんまコレ大丈夫ですかいな」
「そんなの私に訊かないでよ」
「ひゃっはー! 新鮮な敵だー!」
「なんや性格が変わっとるっちゅうか、どんどん酷うなっとりませんか」
「シッ、余計なことは言わない方がいいわよ」
エルムに忠告しながら志緒は一生懸命周りを見回し警戒した。それは哄笑をあげる小さな巫女姿を見ないためでもあるのだ。哄笑が狂笑っぽくなりつつあるのが、かなり恐い。
「アルル、次はあっちをお願い……命中、上手だね。じゃあ、今度はその隣ね。うん、五条さんに敵は近づけないから。あとチャラ夫くんにもね」
七海の指示でアルルが風魔法を放ち、遠距離からのスナイプで確実にトカゲ男を倒していく。冷静に全体を眺め、前方で繰り広げられる戦いを邪魔しないように、そして戦いやすくなるよう援護していた。
そのお陰もあって、亘たち――ついでながらチャラ夫も無事に戦えているのだった。
トカゲ男には気の毒なことだが、亘の立てた計画は順調に進んでいた。それぞれが自分の役割通りに動き、それが上手くかみ合ったおかげで、次々とトカゲ男が倒されていく。
「うらぁっ!」
斬りかかってきた曲刀を打ち払った亘は、回転させ勢いをのせた棒を相手の首筋へと叩き込む。地面に倒れたトカゲ男の背を踏みつけ、骨を砕いてトドメをさす。
それが何体目なのか分からない。既にかなりの数を倒しており、二十かそこらまでは数えていたが途中から数えるのをやめてしまった。とにかく沢山倒している。
「少しは減ってきたかな」
相手の数が疎らになってきたことに気づく。先程のように目だけを巡らせるのではなく、多少の余裕をもって周囲を見回してみる。
まず一番の心配であった七海たちの方を見れば、丁度接近していた最後のトカゲ男を倒したところだ。そちらに近づく敵の姿はなく、ひとまず安全そうだ。
チャラ夫は膝をついているが、傷を負った様子はない。それは疲れ切ってへたり込んでいるようだ。側にいるガルムはふらついているが無事そうだ。今日のガルムは大活躍で雄々しげに輝いている。
藤源次は心配するまでもないだろう。
「やはりチャラ夫のとこか」
亘は棒を振り回し、左右のトカゲ男を薙ぎ倒しながらチャラ夫の援護に向かう。近くまで行けば、同じく援護に来た藤源次と顔を合わせる。少し疲労の色が見えたが、それは亘も同じだろう。
「五条の、後一息ぐらいよのう。お主はまだいけるか」
「そっちこそ、残りを倒す余力はあるのか」
「言ってくれる。ならばどちらが多く倒すか競うてみぬか、どうだ」
ニヤリと笑いかけてくる藤源次を前に、亘は背筋をゾクゾクさせる。そうして幼い頃に憧れたマンガを思いだす。
大軍を前にした美形主人公が、やっぱり美形な親友と似たような言葉を交わし、たった二人で大軍に立ち向かって斬り込む。
少年時代の亘はその熱く燃える展開に胸をワクトキさせ、何度も何度も読みふけったものだ。でも、言葉を交わす友達も居ない現実に気づいて、いつしか忘れ去ってしまった。
その思いが胸に蘇る。地味でうだつの上がらぬ男が少年の心を取り戻し、湧き上がる活力で全身を満たした。
「いいだろう。半分も残らないぞ」
忘れていた物語の主人公の台詞が口をつく。
◆◆◆
「兄貴も藤源次さんも化け物っすよ。俺っちもうダメ」
「なんちゅうか、凄すぎるわ」
「無茶しないでください。心配したんですから」
最後のトカゲ男を倒しきったところで、全員が広場の中心に集まっていた。大量のトカゲ男を屠った亘と藤源次に対しては、チャラ夫の言葉のとおり呆れ半分感心半分の感想が向けられている。
「忘れてた、主人公は戦闘後に死ぬんだった……フラグがやばかったな」
「もーっ、マスターってば何を訳が分からないこと言ってるのさ」
「何でもない、少し張り切りすぎたな」
「ふっ。確かにのう。我も、年甲斐もなく熱くなってしまったわ」
亘と藤源次は顔を見合わせ苦笑しあう。
まだこれから主との戦いが控え、気は抜けない。だが、窮地の一つを抜けだしたことで安堵する雰囲気がある。
「でも俺っちも頑張ったっすよね。俺っちの勇姿を見てくれたっすか!」
「見た見た、見たで。チャラ夫くんもよー頑張っとったなー。お姉さんが褒めたるわ、よしよし」
「ううっ、嬉しいっす。実の姉は鬼なのに、エルムちゃんは天使っすよ!」
頭を撫でて貰ったチャラ夫が感涙のフリをする。
「まったく、この子ときたら」
隣で志緒が呆れ顔でため息をついているが、それ以上は何も言わない。志緒なりにチャラ夫の活躍を認めているのだろう。ただ、あまり危険に首を突っ込んで欲しくないらしく、それを怒るべきか悩んでいる節がある。
亘は自分も撫でて欲しいなと思いながらDPアンカーへと棒を仕舞い込む。その肩へと、神楽が飛んできた。猫ならゴロゴロ喉を鳴らすような仕草でじゃれついてみせる。撫でられるのとは違うが、これはこれで嬉しい。
それを七海が羨ましそうにしながら近づいた。
「五条さん大丈夫でしたか」
「大したことないさ。それより七海こそ、危なくはなかったか」
「大丈夫ですよ、神楽ちゃんのおかげで敵は近づけませんでした。私はアルルに指示しただけで、何もできてませんけど」
七海がションボリしてみせる。しかし亘は戦闘の合間に目をやり、その活躍を確認していた。
「そんなことないさ、的確な援護で助かった」
ぽんっと撫でるように頭に手を載せてやると、七海がハウッと顔を赤らめ何か内股でモジモジしだした。
「あー、それより神楽の様子はどうだった? 銃を使って……その、なにか変な様子はなかったか」
「えっ……あ、はい。まあ。ちょっと元気がよくなってましたね」
「どんな状態か分かったよ……だから銃は禁止してるんだよ」
「失礼なー! ボク頑張ったんだよ!」
亘は怒って耳に食い付いた神楽をぶら下げながらスマホを確認する。ピアスする連中はこんな痛みに耐えているのだろうな、と埒もないことを考えていた。
150DP以上入手していた。
一体10DPで六人で分散したとすれば、少なくとも九十体以上のトカゲ男がいたことになる。数を認識した途端に、どっと疲れた気分になってしまう。
「うわあ、うちのレベルが5になっとるわ。ほんま凄いわ」
「ふっ、俺っちのお陰っすよ」
「うんうん。チャラ夫くん、ありがとうな」
「私がレベル5なのね。くくくっ。これで課長をギャフンと言わせられるかしら」
「ギャフンとか、世代を感じるっす」
ワイワイと若者たちが騒ぎ互いのスマホ画面を見せ合っては大喜びしていた。
そして他の従魔に囲まれたガルムが照れくさそうに前足で頭をかいている。言葉はないが、先程の戦いぶりを賞賛されているような雰囲気だった。
腕を組んだ藤源次はそれを無言で眺めている。その眼差しは優しく苦笑する色があった。
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