閑14話一体どこに向かおうとして
五条亘は大量のDPを保有している。
学園祭でスオウを撃破したDPと元からあったDPを加え、その数値は四千を越える。もし換金すれば二百万円にはなる。ちょっとどころではない金額だった。
けれど、その使いどころで頭を悩ませている。
スオウという強敵の存在により、上には上が居ると思い知らされてしまった。そこから考えるとAPスキルなどを強化すべきだろう。それは分かっているが、一方でそろそろ先行投資から利益回収に移りたいという気持ちもあるのだ。
「むむむむっ、これは悩ましいな」
「ねー、そんなのどっでもいいじゃないのさ。ほら、そのクッキーの袋を開けて、投げて表ならお金で裏ならスキルにすればいいって、ボク思うんだ」
「そんなこと言って、食べたいだけだろ」
しかも投げたら落下する前に食べられそうだ。
「ふーんだ、いいけどさ。お金に決めたらさ、ボクのおやつ増やしてよね」
「その件につきましては、前向きに検討させていただきます」
それは遠まわしなお断りの言葉だが、お役所言葉など知らない神楽はおやつが増えると思って大喜びだ。
亘はやれやれと肩をすくめた。
レベル20になったことで、APスキルで身体強化スキルの上位版が増えている。
もちろん前からあるAPスキルの中でも、経験値とDPの取得量増加など習得しておきたいスキルもある。
さらに神楽の装備だって欲しい。戦闘用装備であれば某研究員から勝手に贈られてくるが、例えば水着や下着など神楽に着せてみたい各種コスチュームもある。
しかし、そんなことをしていればDPは幾らあっても足りず、換金などなかなかできなくなってしまう。
「くっ、相変わらずあざとい商売だな」
悩みに悩んだ亘だが、結局は自己投資にDP使用することにした。
L3の身体強化系スキル取得と、入手経験値と入手DPのアップスキルを取得し大量にあったDPの殆どを使用してしまった。
そして神楽の衣装を調べてみたが、そこで後悔した。
水着が100DPで、下着が200DPなのだ。軽装甲巫女服が80DPであることを考えると、なんとアコギな価格設定だろうか
「これを設定した奴は分かってる。水着や下着の方が防具より上とか、男の気持ちをしっかり理解している。やりおるな」
「ねえ、ボクの装備を調べてくれるのはありがたいけどさ。でも、水着のことはまたにしようよ。それよりさ、ボクのスキルを決めようよ」
「分かった、スキルの方を考えるか。レベル20を超えたら何があるかな」
亘がスマホでスキルを調べだすと、いつものように神楽が横から覗き込む。お互い慣れたもので、邪魔にならない位置へと自然に動いている。外ハネしたショートがワクワクするように揺れていた。
「増えたスキルは……覚えてるスキルから派生した上位スキルか」
「ボク雷魔法の強化バージョン覚えたいな。ここまで来たらさ、雷魔法を極めてみたいもん」
「そうだな。この前のスオウのように効果が薄い敵もいるだろうが……そんな敵が出たら、次から逃げればいいか。よし、雷魔法の上位版を覚えてくれ」
「やったね! じゃあ雷魔法の上級を取得するね!」
いつものように元気よく宣言した神楽の全身が一瞬淡く光を纏う。
ステータス画面でも雷魔法(上級)が追加された。上級がどれほどの威力かは不明だが、これまでの中級でもかなりの威力だ、相当な威力であることは間違いない。
「さて、これでまたスキルポイントを溜めないとダメだな。上級になると必要ポイントが多くなってかなわん」
「だったらさ、ポイントの低いスキルを取るのもいいかもね」
「それも考えないと駄目か。すると万魔か万能属性は意外に弱……ん、メールか」
考えているところに、メールの着信を知らせる曲が流れる。
メール程度では動じないが、それでもそそくさとメールを確認する。神楽が誰からだろうと興味深そうにしているが、文字が読めないので教えて貰うのを待っている。
「ナナちゃんから?」
「いや法成寺研究員だ。また神楽の装備を送ってくれたみたいだな。今度はなんだろな」
「えっ、ボクの装備? また銃かな! ちょっと何が来たのか確認してくるよ」
「それは違うみたいだな。ちょっとメールをしっかり読ませてくれ」
「はーい」
素直に返事をした神楽は横にどいて大人しく待っている。まるで子犬かなにかのようにキラキラした目で見てくるので気になって読みづらい。
「今回は防具か。コンセプトは新世代のイメージで巫女騎士……あの人は一体どこに向かおうとしているのかな」
「ねえ、そろそろ見て来てもいい?」
「構わないぞ。そうだ、どうせなら着てきてくれよ」
「えー、前みたいにお披露目したいのにな」
「そう言わずにさ。ほらさ、二人だけでのお披露目もいいじゃないか。可愛い神楽の姿を独り占めしたいな」
「う、うん。いいよ」
冗談ぽく言っただけなのに効果は抜群だ。神楽は顔を真っ赤に染めると、もじもじしながら小さな声で承諾してくれた。
おやびっくり、と亘は眉をあげる。おだててみただけなのに、ここまで効果があるとは思いもしなかった。そうこうする内に神楽がスマホの中に入り、少しして出て来た。
「えへへ。どう……かな?」
新装備に身を包んで現れた神楽はスマホ画面の上に立ち、両手を後ろにやりながら恥ずかしそうにポーズをとってみせる。
兜は両脇に羽飾りのある額当て。鎧は銀細工のように輝く胸甲と胴当てからなり、それに肩当と籠手もある。下の方は金属質の赤い腰当があり、白い捻襠袴の足元はこれまた銀のブーツだ。
どこか和テイストな雰囲気を残しつつ、そこに北欧神話の戦乙女を混ぜ合たようなデザインだ。しかも細身の鞘で帯剣しており、どうやら武器もセットらしい。
巫女騎士の名に恥じぬ姿に、亘も思わず感嘆の声を洩らした。
「実に良いじゃないか。実に素晴らしい」
「えへっ、そ、そうかな」
「うん。実に素晴らしい装備だ」
「…………」
何がいけなかったか分からないが、亘は耳を噛まれた。不貞腐れてソッポを向く神楽のご機嫌をとるため、DPショップを開いて服を検索しだした。
「ほうら、服とかどうだ」
「いらない」
「神楽に似合う服とかあるぞー」
「どうせ服が可愛いだけだもん」
「……そんなことはないぞ」
ようやく何故怒っているのか理解した亘だった。
◆◆◆
DPショップには見ている方が恥ずかしくなるような水着の数々がある。際どい水着や、ほぼ紐しかない水着、スクール水着、競泳水着などと妙にバリエーション豊かだ。試着状態のデザイン画もあり、なまじなエロサイトよりよっぽどエロい。
きっとキセノン社には巫女マニアの法成寺のような、水着マニアの社員が居るに違いない。会いたくはない。
「神楽の水着を買うぞ」
「どうせまた水着が可愛いんでしょ……」
「それは違う!」
ぶちくさ言いかけた神楽に対し亘がきっぱり言い切った。
「いいか、水着は女の子の魅力を最大限に引き出す最高のアイテムだ。脱いでしまえばただの裸だが、そうでなければ薄布隔てた向こうに待ち受ける存在を想像させ、そこでかき立てられる妄想が――」
「マスター分かった。分かったよう。水着買っていいからさ」
いつもと違う亘の様子に神楽は必至で止めに入った。自分の契約者が壊れたように思え、状態異常の回復をするべきか迷ううぐらいだ。
「ん、そうか。じゃあ選ぶか」
「待ってよ、ボクが選ぶからさ。ボクのだからいいよね」
「……そうだな」
いかにも残念そうな亘の様子に神楽はホッとした。きっと選ばせていたら、その都度色々と語りだしそうで恐かったのだ。
そして神楽は自分で水着を選び、すぐに届いたそれに着替えるためスマホの中へと入っていった。亘はワクトキしながら待っていると、ややあって姿を現した。
「ど、どうかな?」
黒をベースとしてピンクの飾りが付いたビキニタイプの水着である。それを身体スケールこそ小さいが、小さくはない神楽が着ているのだ。実に素晴らしい。
気恥ずかしさと照れ、そして嬉しさがない交ぜになった表情をされると、実に萌える。
「おおっ、実に似合っているじゃないか。素晴らしい!」
「そうかな?」
「ここまで水着が似合う女の子もおるまいて。やっぱり神楽が可愛いからだな、うん」
亘は学習能力のあるところを見せた。
「ささ、もっと色んなポーズをしておくれ。撮影もするからな」
「えへへっ。うん、いいよ」
両手を後ろに組み前屈みのポーズだの、頭上で手を組んでモデル立ちしたポーズだのを次々とスマホで撮影していく。先ほどの巫女騎士装備の撮影も行い、亘はすっかりカメラ小僧の気分だった。
なお、撮影した巫女騎士画像と水着画像は選別され法成寺へと送信される。これがDPアンカーで世話になったお礼と、次回作への布石でもある。
◆◆◆
キセノン社の静かな研究室。
そこで突如奇声をあげて身もだえした法成寺の姿に研究員達一同は、またかという態度でもって、それを眺めやった。前に似た様な状況で緊急警報を発令し、社長は苦笑だけですませてくれたが、藤島女史にこってり絞られた事件は記憶に新しい。
ギャースと叫んだ法成寺がモニター抱き着いたところで、研究員一同力を合わせモニターごと医務室へと放り込むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます