第25話 鍛えたら戦力になりそう
「先に自分から話させて貰おう。神楽のスキルは『探知』と『雷魔法』、これが最初から覚えていたものだ。その後で『治癒』と『補助魔法』を覚えている」
「その探知スキルで、社長さんの正体が分かったんですね」
「そうだ。この探知はかなり使えるスキルでな、敵がどこにいるか丸わかりだ。お陰で不意打ちされることはないし、逆にこっちから不意打ちできる。下手な攻撃能力よりよっぽど使えるだろうな」
「ボク、凄いんだよ」
亘の説明で神楽がすっかり鼻高々となって胸をはっている。あまり調子づかせたくないが、しかし素直な感想を言っているだけなので仕方ない。
「取得可能なスキルリストに接近戦スキルがあるし、攻撃魔法も回復魔法もある。スキル的にはバランス系かな。ただしHPが少なくMPが高いとこからすると後衛系だけどな」
「なんでもできるボク、とっても凄いんだよ」
スキルをバランス系とは言ってみたものの、接近系スキルは神楽サイズでは死にスキルにしかならない。例えばあの餓者髑髏を相手に神楽が接近戦を挑んだとして、硬い骨にダメージを与えられるとも思えない。逆に一撃貰えば大ダメージは必至だ。
または器用貧乏という言葉もある。
そんな感想などつゆ知らず、神楽はふんすーと小さくもない胸を張って威張っている。
鼻の下を伸ばしたチャラ夫の目線に気づき、亘はひょいと神楽を摘まんで自分の手の中に隠した。娘を守る父親の気持ちだが、理由の分からない神楽はジタバタ暴れて文句を言っている。
「じゃあ次は俺っちでいっすかね。うちのガルちゃんっすけど、最初からあったスキルは『嗅覚』と『火の息』っすよ。レベルが上がったんで『噛みつき』を覚えさせたっす。あとリストにあるのは『体当り』と『引っ掻き』とか、あとは『踊る』と『舐める』っすね」
「その嗅覚ってのはどんな効果なんだ?」
「さあ? スキルに説明がないし、ガルちゃん喋れないっすからよく分かんないっす。でも、敵が来る前にガルちゃんが吠えて知らせてくれるっすから、臭いで分かるスキルかもしれないっすね」
「それは単に犬型だからでは……いや、そういうスキルなんだろうな。嗅覚が特に優れているということか……で、スキル的には思いっきり前衛系みたいだな」
「そっすね。MPよりHPが多いんで前衛系っす」
だったら相談するまでもないだろというのが亘の感想だ。
攻撃スキルは既に習得しているもので充分だろう。明らかに外れスキルっぽい踊るだの舐めるを無視すれば選択肢は殆どないではないか。
「レベル10になるまで今のスキルで充分じゃないのか。スキルポイントを貯めて次に備えておいたらどうだ」
「うーん。踊るとか気になるんすけどね」
「まあ決めるのは自分だからな、好きにするといい。では次、えっと七海さん」
七海と呼び捨てる勇気がないので、『さん』を付けてみる。それだけでも、まるで一気に親しくなったような気分だ。次は頑張って呼び捨てしてみようと思っている。
「はい。私のアルルはステータス的に魔法系になります。スキルの方は最初から『幸運』と『風魔法』を覚えていましたが、新しく『攻撃力低下』を覚えて貰いましたよ」
「幸運か、それまた気になるスキルだな。で、どうなんだ。幸運なことは起きたのか?」
「そうですね、特にこれといっては……でも、今まで無事で怪我をしなかったのは幸運の効果だったかもしれません」
「確かに幸運かどうかなんて、そう分かるもんでもないよな。今度宝くじでも買ってみるか?」
「もう買いました、末等でしたよ」
ちょこんと舌を見せた顔が可愛らしい。だからこそ、亘は少し厳めしい顔をしている。目の前にいる相手を好きになってはいけないのだから。
「微妙だな」
「すいません、余分なことを話してしまいましたね。覚えられるスキルは『速度低下』、『防御低下』、『体当たり』などがあります。あとよく分からないスキルで『フサフサ』もありますけど、これはあまり覚える必要はなさそうですね」
まるでゲームの話でもしているような内容だ。仮に店内の誰かに聞かれたとしても、ゲームのオフ会にしか思われないに違いない。
「これまた方向性が違うな。デバフや状態異常のスキルが多いな。攻撃系スキルっぽい体当たりは、サイズ的に意味なさそうだろうな」
「そうですね、アルルの大きさですと意味ないですよね。レベル10になったら良いスキルがあるといいのですけど」
「ソロの戦闘はきつかったろうな。その状態でよくまあ、レベル3まで上げたものだ。凄いな」
「頑張りましたから」
七海は何でもないことのように言うが、実際はかなり苦労したことだろう。
なにせ探知系のスキルがないのだ。
亘の場合は神楽の『探知』で敵接近が分かる。チャラ夫のガルムも『嗅覚』が本当にその効果があるかは不明だが、少なくとも事前に吠えて教えてくれる。
しかし、七海のアルルにはそうしたことがない。
いつどこから敵が襲ってくるか分からない中で戦ってきたことになる。その状態で怪我もせずレベル3になれたのは『幸運』スキルの効果もあるかもしれないが、七海自身の能力ではないだろうか。
これは鍛えたら戦力になりそうだ。
「でもな、今後は異界に行くなら、自分かチャラ夫と一緒に行った方がいいだろうな。これまでは大丈夫だったかもしれないが、探知役がいないってのは危険すぎる。せっかくチームを組むんだ、助け合わないとな」
「はい。できればお願いしたいです。あの、やっぱり今まで無事だったのは幸運スキルのお陰だと思いますか?」
「だろうな。でも幸運ってのは何度も続かないだろうし、あてにしていいものではない。それにアルルのデバフ系スキルはチームで考えると、こっちから是非にとお願いしたい有益なスキルだよ。ただ、問題は経験値の配分がどうなるかだな……」
「どうしてですか?」
「ゲームなら戦闘に参加するだけで経験値が入るよな。でも、実際はどうなるんだろ。トドメを刺したヤツの総取りだと、アルルに経験値が入らないだろ」
その疑問にチャラ夫も七海も首を捻りだす。名前を呼ばれたアルルが亘のそばに転がって近づいてきた。ちょっとボールのように弾いてみたい誘惑にかられてしまう。よそ様の従魔にそんなことはしないけれど。
代わりに神楽が球転がしのようにアルルを押して遊びだす。そうしながら亘の呈した疑問に得意そうな顔で答えてくれる。
「ボク知ってるよ。あのね、経験値はDPの吸収量なんだからね、DPってのは戦う意志に反応して吸収されるんだよ」
えっへんと威張った神楽はテーブルの上を縦横無尽にアルルを転がしている。
当たり前のように言われたが、なぜ意志に反応して吸収されるのかはさっぱりだ。ただチャラ夫も七海もなる程と頷いているので、どうやらここはフィーリングで理解すべき場面なのだろう。分かったフリして頷いておいた。
「スキルポイントは分かってると思うが、レベル毎に1ずつ加算されていく。だから、この先を考えて使うようにした方がいいな。自分と神楽の場合はレベル10で開放されるスキルを考えてポイントを温存していた。具体的には5ポイント使って5ポイント残した」
「実際どうっすか?レベル10で開放されたスキルって、どんな感じっすか?」
「言うより見せた方がいいな、こんな感じだ」
亘はスキルを表示させると、スマホを机の真ん中へと置く。
説明するのが面倒なこともあるが、実はまだ自分でも新スキルを確認していないので説明のしようがない。
昨日は風呂を出たところで、どっと疲れが出てそのまま布団に直行。今日は朝から説明会に出かけてしまい、スキルを確認する時間がなかった。
「えっと、一杯ありますよね」
七海が身を乗り出しスマホ画面を覗き込み、亘は目を見張った。
狙ったわけではないが、正面に座る亘の位置からは絶妙な具合に七海の胸元が覗きこめてしまうではないか。さすがはグラビアアイドルと、称賛したくなる谷間が丸見えだ。
亘は慌てて目を逸らすと、スマホを七海へと押しやる。ここでラッキーと冗談を言ったり、黙ったまま見ていたりできる性格ではないヘタレなのだ。
「すいません、ありがとうございます」
それを手に取れとの合図に勘違いしたのか、七海はスマホを手にとる。
じっくりと眺める七海と一緒になって見ようとするチャラ夫だが、その泳ぐ目がどこを見ようとしているかは、正面にいる亘からは丸わかりだ。咳払いして睨んでみせると、ギクッとしてバツの悪い顔で身を引いている。
そんなやり取りを知りもしない七海は呑気にスキルを確認していく。
「うーん、レベル10では取得ポイントも多くなるんですね。アルルの攻撃は風魔法だけですから、すぐ強化できるだけのポイントは残しておかないといけませんね」
「その方がいいだろうさ。ただな、どうもスキルがツリー形式になってるみたいだろ。最初のスキルが使えないものでも、後のスキルが使える可能性だってある。ポイントを温存すればいいってもんでもないよな」
「ですよね。ポイントも限られてますから、よく考えて使わないといけませんね」
「誰か攻略サイトでも立ち上げてくれないかな」
呟いた亘は組んだ手を頭に載せ天井を仰ぎ見た。もっとも、全部の従魔が同じスキルとは限らない。攻略情報があったとして、どこまで使えるか判ったものではない。何よりレベルで言えば、亘が独走状態なのだ。攻略サイトを立ち上げるべきは、亘なのかもしれない。
「ありがとうございます。じゃあ、チャラ夫君どうぞ」
一通りスキルを確認した七海が礼を言って、チャラ夫にスマホを回した。
嬉しそうに受け取ったチャラ夫がスキルを確認する間に、亘は七海と雑談に興じる。
「でもですね、攻略情報とまで言いませんけど、スキル内容が分かったらいいですよね。それが分かるだけでも随分と助かりますよ……新藤社長にお願いしたら、教えてくれるでしょうか?」
「直接聞くのはな……あの人、悪魔だからな……でも、ええっと。七海の言う通りスキル情報が少なすぎるとメールを入れておこう」
少し躊躇ったが、思い切って七海と呼び捨てにしてみた。七海もそうされたことを気にした様子もない。普通に会話をしている雰囲気だ。
なんだか、なんだかとってもドキドキする。少年時代に戻ってクラスメイトの女子に胸をときめかせていたような気分だ。
凄いぞ自分と感動する――が、しかし。
「うおおっ! 兄貴、兄貴! ほら、これ! 『性技』ってスキルがあるっす! ぱねっす! 神楽ちゃんにこれ取らせて試すっす!」
「……神楽、始末しとけ」
「……りょーかい」
電撃に打たれたチャラ夫が絶叫し、驚いて駆けつけた店員に注意されてしまった。悪いのは全部チャラ夫なのは間違いない。
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