第7話 脅威の影! 見えてきた難敵
「この部屋にだけ違和感を感じます」
思いのほか広い船内をあらかた探索し、最後に行き着いた部屋で
そこは船内の最下層にある倉庫室だった。
だが、その部屋は内装工事中という理由で立ち入り禁止の札が入り口にかけられており、中に入ると実際に床板のタイルや壁紙の一部が張り替え途中であった。
ここ最近は客室としては使われていないということが室内の様子からうかがえる。
「妖魔のニオイがするの?」
そう尋ねる
「いいえ。逆です。ほとんど妖魔のニオイがしません」
そう言って
その顔には確信めいた表情が浮かんでいた。
「やっぱり変です。この部屋。この船内の他のどの部屋にも妖魔のニオイが残っていたのに、ここだけが不自然なくらいニオイがしません」
「え? それってここは別にあやしくないってことじゃないの?」
予想しなかった答えに
「私は最近のものだけではなく、古いニオイも嗅ぎ分けられるんです。たとえば他の船室や通路には、数年前にそこを歩いたり座ったりしていた妖魔のニオイが残っていました」
「密航者なんかじゃなくても、この船で働いてきた妖魔の労働者はいるだろうからな。そういう奴らのニオイが残ってるんだろう」
「でもこの部屋にはほとんどそれがない。まるで特別な薬品でも使ってきれいさっぱりニオイを消してしまったみたい」
「ちょっと待って。ほとんどってことは……」
「はい。ここにたった1つだけ妖魔のニオイが残っています」
そう言って
彼女の言葉に
「それは?」
だがそこで
「キツネ……キツネの妖魔。妖狐です」
妖狐は非常に珍しい妖魔で、世界中を見ても100と少しを数える程度しかいないという。
そしてその気性は
彼らを向こうに回して立ち回るには細心の注意を払うべき、というのは妖魔の世界では常識だった。
不安げな
「妖狐か。ランクAの仕事って感じがしてきたな」
「
「それがおかしいんです。この場所以外にはニオイを感じなくて。どうやって部屋から出て行ったのか、それすらも分からない。まるで瞬間移動でもしたみたいに……」
さらに彼女はもうひとつ気付いた点を挙げた。
「あと、妖魔じゃないんですけど、人間の女の子みたいなニオイがします。この妖狐がいたのと同じ時間に人間の女の子が一緒にいたようです。たぶんその人間の子は霊能力者です。ニオイで分かります」
「だとすると、その女の子が妖狐の仲間で、何らかの方法でここから脱出したんだろうな。
「こっちではありませんでしたが、魔界にいた頃はたまにありました。たとえば高度な技術を持った結界士の作った結界の中に入られると、ニオイまで消えてしまうことが……」
そこまで言って
「結界士か。もしそんなに高度な技術を持った結界士が妖狐の側についているなら、この船の中から密航者を隠したまま堂々と船を降りることも不可能じゃない」
彼の言葉に
「さて、そろそろ時間だ。船を降りよう。
そう言う
「お役に立てて嬉しいです」
先行きはいまだ不透明ではあったが、まだ何か得られるものがあると確信した彼らは、次の一手を打つために不明瞭な景色の中を一歩踏み出すことにした。
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