第6話 捜査開始! 白亜の客船

 バスハウスのある工業地帯からモノレールを使用して30分足らずで湾岸地域に到着すると、響詩郎きょうしろう雷奈らいな、それに弥生やよいの三人は船着場へと向かった。

 潮の香りが漂う埠頭ふとうを歩きながら、響詩郎きょうしろう雷奈らいなの私服姿を見て口を開く。 


「そういえば神衣かむいの替えは取り寄せてないのか?」

「まだね。実家に置いてあるから明日にでも取りに行って来るわ。どちらにしろ今日は現場検証だけだし、モノレール移動で神衣かむいだと目立つから必要ないわ」


 いつもは響詩郎きょうしろうのバイクに乗って2人で移動するのだが、今日は弥生やよいもいるため交通機関を利用することにした。

 張り切って歩く雷奈らいなだったが、昨日から続く腹部の違和感はいまだ残ったままだ。

 とは言え、痛むわけではないし常に気になるというわけでもない

 雷奈らいなはさほど気にせず歩き続けながら、横目でジロリと響詩郎きょうしろうを見やる。


響詩郎きょうしろう。あんた18になったら車の免許とりなさいよ。こういうとき車移動だったら楽チンでしょ?」


 響詩郎きょうしろうも横目でジロリと雷奈らいなを見返した。


「おまえ。自分は免許とらないつもりか?」


 雷奈らいなは顔をフンッと背けて口を尖らせる。


「あのね。事務所を設立したら私は社長よ? それなら運転手はあんたしかいないじゃない」

「へいへい。そういうことは社長になってから言ってくれよ」


 二人のやりとりを見ていると、まだ出会って1日足らずの弥生やよいにも雷奈らいな響詩郎きょうしろうの立場関係というものが理解できた。

 響詩郎きょうしろうがハンドルを握り、後部座席でふんぞり返る雷奈らいなの姿が容易に予想できてしまうため弥生やよいは思わずクスクスと笑い声を立てる。


「お二人は仲良しなんですね」


 他意なくそう言う弥生やよい響詩郎きょうしろうは無言で肩をすくめて異を唱え、雷奈らいなは眉をひそめて否定の意を示す。


「そんなことないわ。ほら、もう着くわよ。あそこ」


 雷奈らいなの指差す先の船着場には白いフェリーが停泊している。

 湾岸部で波はさして高くなかったが、それでも船はゆっくりと上下に揺られていた。


「海を渡って日本にくる船だからもっと大きいのかと思ったけど、案外そうでもないのね」


 雷奈らいなは船を見上げてそう言った。

 響詩郎きょうしろうは先日の桃源堂とうげんどうで依頼主のチョウ香桃シャンタオから聞いた説明を口にした。


「大陸の港を出港する際、向こうに潜んでいる警察の斥候せっこうが目撃したそうだ。人間しか乗らないはずの船に多くの妖魔が紛れ込んでいくのをな」


 雷奈らいな弥生やよい響詩郎きょうしろうの話に耳を傾けながら白いフェリーをじっと見上げていた。


「警察はその情報をもとにこっちで網を張ってたけど、いざ船が着いてみたら妖魔なんて一人も乗っていなかったってオチさ。ご丁寧に船着場に妖魔を感知出来るよう探知ゲートまで用意してたのにな」

「どこかでボートでも使って脱出したんじゃないの?」


 フェリーの外観を観察しながらそう聞き返す雷奈らいな響詩郎きょうしろうは首を横に振った。


「船に積まれた避難用ボートは一隻も使われていなかったし、多くの船員が乗っている中でそんな目立つことはできないだろう。それにこの船は日本の領海に入ったときから、ひそかに海上保安庁の巡視艇に監視されていたんだ」

「ふーん。それなのに煙みたいに消えちゃったってわけか。妙な話ね」


 雷奈らいなの言葉に響詩郎きょうしろううなづいた。


「そういうこと。どこかの誰かが何らかの手品で密航者を移動させたのかもな。それを突き止めるにはまだ情報不足だが。さあ、とっとと乗るぞ。貸切時間は1時間しかないんだ」


 そう言って艦橋を渡って船に乗り込んでいく響詩郎きょうしろうの後に、雷奈らいな弥生やよいが続いた。

 響詩郎きょうしろうの話によれば、船内には数名の船員が待機しているが、それらは皆、香桃シャンタオが用意した妖魔らであるので心配は無用とのことだった。

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