第5話 韋駄天少女! シエ・ルイラン

 日が暮れ落ちた後の薄闇の中を一陣の風が吹き抜けていく。

 木々を揺らし草をざわつかせ川面にさざ波を立てるそれは、人の目には吹き抜けていく突風としか映らない。

 風は街中を吹き抜けて街外れの川の土手を駆け上がると、川にかけられた鉄道の鉄橋の上でふいにき消えた。

 そして風が消えた鉄橋の上に一人の少女が姿を現した。


 浅黒い肌を持つ黒髪のその少女のいでたちは、白いワンピースの服に足元は裸足はだしというもので、外見はどう見ても小学生女子にしか見えない。

 彼女の名はシエ・ルイラン。

 チョウ香桃シャンタオの小間使いの妖魔だが、彼女には主である香桃シャンタオに非常に重宝されている能力があった。


 韋駄天いだてん

 彼女が走るその姿はまさに吹き抜ける風であり、目にも止まらぬ速度で走るのみならず、長距離を走り続けることのできる脅威的な脚力がルイランの特技だった。

 東京―博多間程度の距離であればノンストップで走り続けることができ、それも半日足らずで往復できるほどの速度を誇る。

 昼間は香桃シャンタオの事務所兼店舗である桃源堂とうげんどうに住み込んでお茶みなどの雑務を行い、妖魔としての力が発揮される夜は自慢の足を活かした配送業務を行っている。


 今夜は千葉にある得意先に霊具を届けるという簡単な仕事をまず済ませたところだった。

 彼女の足を考えれば朝飯前ならぬ夕飯前の仕事といったところだ。

 この後、名古屋に向かい香桃シャンタオが注文している急ぎの品を受け取って戻るという仕事も待っていたが、彼女の足ならば未明には仕事を終えることが出来そうだった。


「今日は早く上がれそうネ」


 そう言うとルイランは目的地の方角を仰ぎ見て、つむじ風を巻き上げながら再び駆け出した。

 その姿はすぐに目にも映らぬ疾風と化して、夜の闇の中へと消えていくのだった。

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