第10話 超エロス! 霊力分与の術

 朝食後、響詩郎きょうしろうは自分のベッドの上でじっと天井を見つめていた。

 

「今日で4回目か」


 響詩郎きょうしろうはポツリとつぶやいた。

 雷奈らいなと出会ってから4度目となる儀式が始まる 


「前回はようやく痛みも弱まってきたみたいだから、今回はすんなりいくだろうな」


 やがて雷奈が響詩郎きょうしろうのベッドスペースを訪れた。

 彼の部屋の戸口に立つ雷奈らいなは高校の制服の上着を脱いだ白いブラウス姿だった。

 どうやら念入りに歯磨きをしてきたらしく、ほんのりとミントの香りがする。

 

響詩郎きょうしろう……覚悟はいいわね」


 そう言ってにじり寄る雷奈らいなに、響詩郎きょうしろうは思わず生唾なまつばを飲み込んだ。


「お、おまえ……は、果たし合いじゃないんだぞ。そんなに堅くなるな」


 相手をなだめるようにそう言う響詩郎きょうしろうだったが、雷奈らいなは獲物と距離を詰める肉食獣のように緊張した表情のまま、彼の座るベッドに腰を掛けた。

 彼女の体重の分だけ沈み込むベッドの感覚に、響詩郎きょうしろうもさすがに身を固くした。


 スラリと伸びた手足に細い腰、そして形のいい尻にふくよかな胸のふくらみ。

 あらためて見ると雷奈らいなは美しい娘だった。

 何よりわずかに赤みを帯びた白い肌がなまめかしい。


「じゃ、じゃあ始めてくれる?」


 そう言うと雷奈らいな響詩郎きょうしろうの目の前に正座し、ブラウスの前をはだけて胸元の肌をさらす。

 羞恥しゅうちで顔は赤面し、その目は涙で半ばうるんでいるが、覚悟を決めたようにその口は引き結ばれていた。

 響詩郎きょうしろうはさすがにそんな雷奈らいなを直視できずに視線をさまよわせる。

 彼の脳裏には初めて出会った一ヶ月ほど前のことが鮮明に思い起こされる。 


 チョウ香桃シャンタオに連れられて訪れた鬼留おにどめ神社の客室で、祖母とともに雷奈らいな響詩郎きょうしろうを待ち受けていた。

 その時の彼女はひどく顔色が悪く、今にも倒れそうなほどに体調を崩していた。

 二人はそんな初対面の日を思い返しながら、今もこうして対峙している。


「さあ、来なさい……」

「お、おう……」


 重苦しい無言の時間を打ち破るようにして上ずった声で二人はそう言うとうなづき合う。

 響詩郎きょうしろうは意を決して指で印を組んだ。

 すると彼の背後に仮面姿の不気味な憑物つきもの勘定丸かんじょうまるが姿を現した。

 勘定丸かんじょうまるは片方の手を響詩郎きょうしろうの額に当て、もう片方の手を雷奈らいなのはだけた胸元に当てた。


 霊力分与の術。

 悪路王あくろおうをその身に背負う雷奈らいなは、元々少ない霊力が霊底れいていを迎えて枯渇こかつしかけると、悪路王あくろおうの重圧に耐え切れずに命の危機を迎えてしまう。

 そこで響詩郎きょうしろうの持つ無尽蔵むじんぞうの霊力を雷奈らいなの体に分け与える。

 それによって雷奈らいな霊底れいていの日にも悪路王あくろおうを背負う負担を乗り切ることが出来る。

 霊力の噴出口である【霊気口れいきこう】のある響詩郎きょうしろうの額と、雷奈らいなの胸元を勘定丸かんじょうまるによって繋ぎ、霊力をバイパスさせるのだ。


「……んっ?」 


 勘定丸かんじょうまるに触れられた途端に雷奈らいなはビクッと体をすくませ、顔をこれ以上ないくらい紅潮させて上ずった声を上げる。

 雷奈らいなの身に起きたその感覚は、彼女自身の予想を大きく越える波となって押し寄せた。


「あっ! はぁぁぁぁ……あんっ! んっ! あっ! はうっ!」


 彼女の異変に響詩郎きょうしろうも赤面し、焦ったような声を出した。


「ど、どうした? 大丈夫か?」


 彼にとっても雷奈らいなのその反応は予想外だった。

 おそらく痛みと刺激を堪えて、押し殺したような苦痛の声を漏らすものだと思っていたのだ。

 なぜならそれが前回までの雷奈らいなの反応だったからだ。


「へ、変な……のっ。な、何か……前と、ち、違っ……ああんっ!」 

「みょ、妙な声を出すな! 外に聞こえるっつうの!」


 だが、雷奈らいなはとても堪えきれずにその口から艶やかな吐息まじりの声をらし続けた。

 前屈み気味のその体が激しく揺れ、豊かな乳房がはだけた胸元からこぼれ落ちんばかりに暴れ狂う。


「だ、だって……で、出ちゃう……あんっ! あっ! あっ!」

「じ、じっとしろ! きちんと力が伝わらないだろ!」


 雷奈らいなの体に勘定丸かんじょうまるを通して流れ込む響詩郎きょうしろうの霊力。

 それが強い刺激となって雷奈らいなの体を内側から突付きまくっていた。

 それに堪え切れずに雷奈らいなの口からは扇情的な声がれ続ける。

 

(ど、どうなってんだ? 明らかに前回までとは反応が違うぞ)


 雷奈らいなの異変に響詩郎きょうしろうは戸惑って目を白黒させる。

 彼女の痴態に響詩郎きょうしろうは焦って声を張り上げた。

  

「死ぬ思いせずに霊底れいていをやり過ごしたいんだろ? だったら我慢だ!」

「は、はうっ……が、我慢! んっんっんっ!」


 雷奈らいな響詩郎きょうしろうのベッドのシーツに爪を立て、くちびるを震わせて必死に刺激に耐える。

 その脳裏に浮かぶのは以前に自分が陥った地獄のような体験だった。

 悪路王あくろおうの重圧に耐え切れずに倒れたあの日のようなことは二度と体験したくはない。


(も、もうあんなのはゴメンだわ)


 そう考え、雷奈らいなはゆっくりと呼吸を繰り返しながら刺激を抑え込んでいく。


「ふ、ふぅぅぅぅぅ……ひっ、ひうっ!」


 だが、そんな彼女の意思をまるで押し流すかのように、大きな刺激が最大の波となって襲い来る。

 とうとう堪え切れずに雷奈らいなは目の前の響詩郎きょうしろうにしがみついた。


「あうっ! ひゃうっ!」

「し、しっかりしろっ!」


 響詩郎きょうしろうは彼女を抱き止めて何とか落ち着かせようとするが、雷奈らいなは彼の首に両手を回したまま刺激に堪え切れずに何度も何度も体を上下に揺らす。


「あんっ! あんっ! ああんっ! うっく! くぅぅぅ!」


 勘定丸かんじょうまるは二人の間に挟まるようにたたずんでいたが、無言で霊力のバイパス役を務めている。

 

「くっ! これを噛んでろ!」


 響詩郎きょうしろう雷奈らいなを抱えたまま、手近に畳まれたタオルの中から一枚をつかみ取り、それを彼女の口にあてがう。

 雷奈らいなはたまらずにそれを口にくわえた。


「とりあえず収まるまでそのままでいろ」

「フムーッ! ンンンムゥゥゥ!」


 雷奈らいなは洗いたてで良い香りのするタオルを噛んだまま唸るように声を上げた。

 響詩郎きょうしろう雷奈らいなの肩を抱いて背中をさすってやり、彼女は必死に彼の体にしがみつく。

 彼女の豊かな胸が自分のあごに押し付けられても響詩郎きょうしろうはひたすらに耐えた。

 彼女の乳房の弾力性と肌の温かさやほんのりと香る汗のニオイに脳髄のうずいしびれそうになるのも懸命に堪えた。


 そうするうちに、ようやく雷奈らいなの呼吸が落ち着いていき、その口かられていた声も小さくなってやがて消えた。

 霊底れいていを迎えて枯れ果てる寸前だった雷奈らいなの体の中にみずみずしい力が浸透していく。

 その力は彼女の体内に満ちていき、活力が指先まで行き渡る頃には、奔流となって雷奈らいなの体内を荒れ狂っていた刺激もようやく収まっていた。

 雷奈らいなは上気した表情でゆっくりと息を整えるが、そのくちびるから熱っぽい吐息がれる。


「っはぁ……」


 息をついてうつむく雷奈らいなを見た響詩郎きょうしろうはすぐさま指で組んだ印を解いた。

 すると二人の間に浮かび上がっていた勘定丸かんじょうまるがスッと姿を消す。

 霊力分与の術が完了したのだ。

 体の火照りが徐々に冷め、冷静さを取り戻した雷奈らいなは自分の醜態を思い返して肩を震わせた。


 これで4度目となる儀式だが、明らかに前回までと様子が違う。

 初めて響詩郎きょうしろうと出会った日に行った1度目の儀式では体を突き刺すような痛みに苛まれ苦しいだけだった。

 しかし2度目以降のの儀式では痛みはやわらぎ、少し体が慣れたのかと安心したのだ。

 

 ここにきてのこの異変には響詩郎きょうしろうも戸惑うばかりだったが、それ以上に本人の雷奈らいなは大きなショックを受けたようだった。

 真っ赤な顔で目にいっぱいの涙をためて、何とも言えない目で響詩郎きょうしろうを見つめる。

 そんな彼女の眼差まなざしを受けて響詩郎きょうしろうはしどろもどろになりながら必死に言葉を重ねる。


「い、いや。何かスマン。というか別に俺が謝っても仕方ないよな。けど、何か……スマ、うわっ!」 


 そう言う響詩郎きょうしろうをドンッと突き飛ばすと、雷奈らいなはベッドから跳ね起きて耐え難いこの空気の中から逃げ出すようにそそくさと出て行った。

 黙って雷奈らいなの背中を見送ると、一人残された響詩郎きょうしろうは大きく息を吐いた。

 早鐘はやがねを打つ心臓を平常運転に戻すべく、深呼吸を繰り返すとため息混じりにつぶやきをらす。


「はぁ……一体どうすんだ。この空気」


 今になって雷奈らいなから押し付けられた胸の柔らかさが脳裏をよぎり、響詩郎きょうしろうは彼女のニオイの残るベッドで声を殺して悶え苦しむのだった。

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