第二話

 硬い地面の上に自分がいることに、気が付いた。

 ゆっくりを目を開けると、白い床と、意識を失う前に見た白いもやが見えた。それはとても濃く、この辺りを取り巻いているようで、僕には先が見えなかった。

 体は痺れていたけれど、まったく動かないわけではない。ゆっくりと時間をかけて、僕は自分の意識を両手両足に伸ばす。

 自分のものでは無いように感じられた肢体を無理やり動かして、どうにか上半身を立てられるようになったころ、急に靄が晴れ、光が差し込んできた。

 その神々しいともいえる光とともに、何かがゆっくりと降りてきた。

 よく見ると、それはまさに完成されたともいえる美女で、背後の光と相まって、まさに女神の降臨を目の当たりにするような気分だった。

「そなたが、雪丸か」

 女神は、良く通る声で、優しく尋ねた。

 ただ、自分の名が呼ばれただけだというのに、僕は魂をグォンと揺さぶられたような気がして、気が付くと、頬を温かいものが流れていた。

「何も、泣くことはなかろう」

「す……すみません……」

「まあよい。それよりも、そなたは再び生をやり直したくはないか」

「そ、それは、生き返ることができるということですか?」

 僕の質問に、女神は少しだけ押し黙り、そして再び口を開く。

「……まぁ、そういうことかの」

「ほ、本当ですか!!」

「本当じゃよ。私は嘘などつかぬ」

「な、なら、やらせてください!!

 死ぬ前にやり残したことはたくさんあるんです!!」

 人生80年という時代に、僕はまだ18年しか生きていない。人生あと五倍はあるのだ。このまま死ねるはずがない。それに何より、僕は両親にも兄弟にも、みんなにも、お別れを言っていない。

「よかろう。では一つだけ問う。生き返った世界で、お主は何を成したい?」

 何を成したいか。

 やりたいことではなく、成すこと。

 それは、難しことだ。

 特段、僕はやりたいことがあったわけではない。

 なんとなく生きて、何となく幸せな家庭をもって、子供を育てて、そして死んでいくものだと思っていた。

 だけど、思案を巡らせていくうちに、一つのことが思い浮かんだ。

「僕は、なんでもいい……世界一になりたい」

 唐突に思い浮かんだそれは漠然とした願いで、同時に、特別なものを持っていない僕の、強い願望でもあった。

「合い分かった」

 女神はそう言って微笑むと、今度は一瞬で消えてしまった。

 僕がそれに気が付いたころには、なぜか視界は真っ暗で、同時にあの嫌な浮遊感が僕の体を駆け巡っていた。







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