雪丸伝

天飴

第一話

 別段、人生に不満があるわけでもない。

 普通に地域で一番の進学校に進んだし、そこでも友達ができて、楽しい毎日を送っている。仲のいい女の子もいるし、部活も充実している方だと思う。家族も親族も、仲たがいすることなくそろっている。

 つまりは、僕の人生は幸せだった。

 だからだろうか?

 幸せな巡り合わせばかりではないのか、やはり人として生まれてきた佐賀なのかもしれない。

 高校からの帰り道。

 僕は交差点に出た瞬間に大質量に吹き飛ばされている。

 眼球がとらえきれない速さでやってきたそれを、僕は見ることもできず、代わりに浮かび上がってくるのは、母さんと、父さんと、妹と弟と、クラスメイトと部員と……みんなと作った思い出だった。

 ドサッと、音がして、不快な浮遊感が終わる。

 誰かの悲鳴が聞こえる。

「空……青いなぁ……」

 それが、声になって誰かに聞こえたかどうかはわからない。

「……ごめんなさい」

 誰でもない、先に逝ってしまう親不孝を両親に詫びて、僕の意識は白いもやの中に沈んでいった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る