第8話

温羅が言うには島の者は誰も悪事など働いていない、この小さな島で細々と暮らしていただけだということだった。時折、島でも体の小さい者が頭を隠し、化粧をして、島で取れた作物や鉱石などを売りに行く以外島からは出ない。他の人間と接触すること自体、ほとんど無かった。

「ただ、以前、島に流れ着いた者を助けたことがある。その男は我らを鬼と呼んで船を盗んで逃げた。」

「思えばそれからですよ。鬼が出て悪さをする、といううわさを聞くようになったのは。」

島の若い男が言った。彼は時折、島の外へ物を売りに行っているのでその先で噂を聞いたのだ。

「それで…猿児は、あなたの差し金で仲間に?」

桃太郎がそう言うと温羅は笑って手を横に振った。

「違うな。猿児は我らの仲間だが貴殿が気に入って行動を供にしたのだろうよ。」

「黙っていて申し訳ない。でも、貴方様を敵と思って見ていたわけではないですよ。」

「本当か?」

聞いたのは疾風だった。疾風はまだ何か警戒しているのか、目の前の食べ物に手をつけていない。桃太郎は小さく笑って疾風の前に魚を差し出した。そして自分も同じ魚に箸を付けた。

「お前の鼻なら分かるだろう?毒など入っていないよ。彼らも、猿児も敵じゃない。」

桃太郎がそう言うと、疾風は慎重に匂いを確かめた上でやっと口をつけた。

「そう、思っていただければ何より。我は桃太郎様に智恵をお借りしたく、ここへ導きましたですよ。」

猿児は得意げにそう言った。

「智恵?」

「桃太郎様なれば、我らの話を聞いた上でお考え下さると思いましてね。」

猿児は島の外で自分が見てきたことを話した。

 鬼が島に鬼が居る、という噂が流れてから、一部の者がそれを利用し始めた。鬼に奪われたと称して収めるものを収めず、私腹を肥やしているというのだ。

「なるほど。それで鬼に襲われた、という噂が絶えないわけか…」

桃太郎は腕組みをして考え込んだ。以前からずっと考えていたことも相俟って、桃太郎は自分のすべきことを考えた。幾度か、躊躇う表情を見せながら、最後には意を決したように強い瞳を温羅に向けた。

「…ひとつ…提案があるのだが…」

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