第7話
桃太郎一行は浜辺で船を借り、一路、鬼が島へ向かった。鬼が島へ着くと桃太郎は鬼の様子を探りにかかった。
「我が見てきますよ。皆さんは後からどうぞ。」
そう言って猿児が走っていった。疾風は慎重に辺りの匂いを嗅いでいた。
「自分が空から見てきます。完全に変化すれば警戒されないでしょう。」
雉雀が鳥に姿を変えると高く飛んで島を探った。桃太郎は相変わらず難しい顔をしている。桃太郎はずっと悩んでいるのだ。真の鬼は誰であるのか。
その時だった。
「桃太郎様!」
疾風が叫んだ。桃太郎は反射的に剣を抜き、背後の空間めがけて一閃、放った。疾風が駆け寄り、狼犬に変わった姿で唸りを上げる。
「おうおう。さすがにいい身のこなしだな。」
桃太郎の剣をすんでの所でかわした相手はそう言って立ち上がり、膝についた砂を払った。立ち上がると身の丈は確かに大きい。が、異常なほどではない。変わっているといえば肌は浅黒く、こめかみの辺りに瘤のような物が左右に二つあった。確かに鬼のようにも見える。
しかし、仲間達の例もある。変わっているからと言って攻撃する気には桃太郎はなれなかった。桃太郎は黙して剣を収めた。
「ほお。闘う気は無いと言うのか。」
「先ほどは失礼。私の名は桃太郎。鬼を退治に来た者だ。」
桃太郎は一礼して名乗り、そう言った。
「鬼を退治に来て我らと戦わぬと?」
相手は不思議そうに桃太郎を眺めた。
「あなたたちが人に害を為す鬼であるという事実を私は知らない。」
「ほお。」
「あなたたちの話が聞きたい。そもそも何故ここが鬼が島と呼ばれ、あなたたちが人に害していると言われているのか。」
「ほお。」
「少なくとも人間の間ではそう言われていた。しかし、真実はどうか。私は知りたい。」
「なるほど。」
そう言って、相手は声高らかに笑った。
「珍しいことを言う。我らは鬼に見えぬか。」
「見えるといえば見える。だが、見えぬといえば見えぬ。」
「禅問答だな。だが、然り、だ。」
相手はにぃっと笑った。
「わが名は温羅。この島の民を束ねるものだ。」
温羅がそう言うと岩陰に隠れていた他の島の者も顔を出し始めた。皆、温羅と同じように浅黒い肌に額の瘤がある。
その中から一つの小さな影が温羅の肩に飛び乗った。
「猿児!」
叫んだのは疾風だった。怒りを瞳に揺らめかせる疾風の傍に雉雀が舞い降りた。疾風は猿児が裏切ったと思っているのだ。
「大丈夫。疾風、慌てないで。」
まだ冷静な雉雀が疾風に囁く。温羅はいかにも楽しそうにくっくっと喉の奥で笑った。
「中へ。詳しい話をしようじゃないか。」
そう言って温羅は岩屋の中へ一行を導いた。
「ようこそ、鬼が島へ。」
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