Ememic World

@Miami3

第1話 序章


躊躇いの青と強固なる赤

青なんてもの邪道だよ、赤こそが真実

赤なんてものは華美過ぎる、青こそが原点だ



「君は道化師というもんは見たことあるかい?」

これがあの稀代の嘘吐きで道化、廻蕨真環璃との出会いだった。

それ自体は単純、バイト先の胡散臭いサテンでのことだ。

平日とはいえ午後時のまさにかきいれ時ともいえるこの時間帯に客が殆どいないこの店内、それはそれで異常であると言えた。それゆえその姿がこの閑散とした室内の小異常に比べ圧倒的な異常と言えた。異彩のほうがいいかもしれない。

まずは全身黒ずくめ。背広というには裾が長すぎるスーツに、それに見繕ったと見えるズボン。前髪を僅かに垂らしたオールバックに英国紳士が被る様な帽子。極めつけにサングラスとの最高のミスッマチが生まれていた。

それだけなら未だいい。最悪の事はコーヒーたった3杯でさっきからあれこれ3時間近く居座っている。あげくの果てに話しかけてもきた。

「君の名は何て言うんだい」

「亜城亜蜘蛛といいます」

俺は少しぞんざいになりながらも出来る限り失礼にならないように答えた。

「亜城くんねぇ。いい名前だね。君は何歳なんだい?」

黒ずくめは口元を僅かに歪ませて笑いながら聞いてきた。

俺は気味が悪いとは思ったもののそんな事はおくびにも出さずに言った。こういう手合いは恐らくからかいだろう、舐められたら負けだ。

「16。なんかこう、占いでもしてくれるんですか」

俺は結構不敵に言った・・・・つもりだった。だが黒男はまるで意を解さない。それどころかこんなことまで言い出した。

「占いよりも面白い、それこそ人の生死に関わるモンだよ」

とシニカルな笑みを浮かべるとなにやら二本の棒を手許から取り出した。

それは                  赤と青だった。

と、同時に傍にあったコーヒーカップをいきなり押し倒した。俺は慌ててそれを拭こうと思いフキンを取りに行った。

「拭くのはもうちぃっとだけ待っててもらえるカイ」

自分で溢しておきながらしらっといってのけた。一瞬狂ったのかとおもい反駁しかけたが、黒男が言葉を続ける。

「わりいねぇー、でもさぁこういう未来を読むことってさ、どうしてもきっかけがいんだよ。例え人工モンだとしてもね」

訳がわからずぼけっとしている俺の手を黒男は掴みこともあろうかそのこぼれたコーヒーの上に押し付けた。飛沫が飛散しそこらじゅうがコヒー臭くなった。思いっきりそれこそ相手をその勢いで突き飛ばしてやろうと思ったくらいだから結構力を込めたはずだ。しかし予想外に強いその力に勢いを潰され逆にバランスが取れなくなりこけそうになった。

「おいおい大丈夫かい?急にどうした?」

今の行動で完全に敵意を持ったことわかっているはずなのにまるで気にしない風に語りだした。

「急に済まなかったねぇ。びっくりしたろぉ、まあこれで君の望む面白いことがわかるんだから許してくれよぉ」

完全に済まないと思っている意思がなさそうなその口調に心底腹がたった。しかしここまでされて引き下がること事態自分が負けていることを示しているようなものだ。それが俺には絶対的に我慢ならなかった。

「面白い事?さっきから何を言ってるんだ?それで訳がわからない冗談だったら殴り飛ばすぞ」

もう客であること自体無視だ。こんな客がいたらどんだけ売れてない店でもお断りだ。

「いい加減にしてくれ。いくら客がいなくて流行らなそうな店だからって舐めんなよ」

「そんなつもりがあったわけじゃないんだけどねぇ。気に障ったんなら謝るさ。しかしその発言この店を馬鹿にしてるのはむしろそっちじゃないかなぁ」

うっ・・・・・・。

さっきから物凄い視線でこちらを睨んでいるそれに。このままじゃ結構ヤバクないか・・・・。

男は未だ話す、もういい加減にして欲しかった。

「さてさてじゃその乾いて汚れきった掌を見てみようかい」

もういいです。突っ込む気力も失せました。同時に自分の掌を見た俺は絶句した。そこにあったのは二色の幾何学模様、こんなのコーヒーを溢した

くらいで出来るはずも無い。

「へぇ~まさかと思ったけどこんなに顕著に出るとはねぇ。すごいな、お兄さんびっくりだよ」

本当に驚いた顔だった。しかし俺からしてみれば次の言葉の方が百倍重要だった。

「まったくついてない。やばいよこりゃあつきの神様から見捨てられたみたいだ。うん酷い」

冗談じゃない、何を突如語ろうとしているんだこの男。

「もしかしたら近いうち事故とかに巻き込まれるかもねぇ~」

冗談じゃない。でもリアルに聞こえる。

「死の危険はたぶんないけどこの因果軸じゃぁどうなるかわかったもんじゃない」

冗談じゃない、勝手に人をころすなぁぁぁー。

「まぁ所詮遊びのようなものなんだそんなに気を病むことじゃぁない」

冗談じゃない。ならここまで大掛かりにやるな。俺の手がべとべとだ・・・・。


結局黒男は4杯分のコーヒー代金を払って店から出て行った。二度と来るな・・・・。正直言って二度と見たくも無い。わけのわからないいかれた帽子、サングラス、黒いスーツ、オールバックのいかれたファッション。

あの変態のお陰で今月のバイト代が二割も減った、訳は聞くな。何度か読み返せばわかるだろう?

俺はとにかく暗い気持ちを重い足で引きずるようにして駅までの道を繁華街のメインストリートを歩いていた。少子化やら人手不足やら失業問題やら若者の都市圏への流出などなど、とにかく日本中どこでもそういった問題が深刻化しているらしい。だがそれが俺にどんな影響を及ぼすというのだ・・。少なくとも俺が普段生活するこの駅周辺に人いる。ヤンキーだってちゃんといる。これでも世界はちゃんと回って明日は来る。ここのどこに問題があるっていうんだ?あの政治家の禿じじい共の心配の理由がわからん。更に脱毛が進行するぞ。

これからゲーセンでも寄って9時頃にかえるかぁーと考えている矢先後ろから急に声を掛けられた。この声女だ。ばぁさんじゃないとこをみると婦警じゃない、おそらく俺の知り合いだ。未だ8時前ということかんがえると高校のクラスメートだろう。そこまで考えてから俺は振る向いた。

「何だ淡島か。」

淡島あざみ。この女淡島あざみはクラスメートあり、しかも席位置的には俺の真横、つまり隣の席だ。自分でいうのもなんだが俺は自分に必要の無いもの、例えば日本がどの気候帯に属しているかとかそういったものはできるだけ覚えないようにしていたしすぐ忘れるようにしていた。なぜならそれらを覚えることは脳の脳内CPUに無駄な負荷を掛けることに他ならないし、それらを記憶するということは海馬及び側頭葉の、つまり脳内HDD無駄容量に過ぎないことを自らの中で知っているからだ。しかし何も記憶せずいや、記憶できず、なにも知ること出来ない相手は俺の矮小で狭い世界と世界の馬鹿みたいに広く浅い世界にはいないだろう。それほどこいつは知る事が出来ないという一点において常軌を逸していた。

春から1ヶ月ほど、特に面識は無かったものの今までわかった事といえばせいぜい身体データ程度のもの。それ以外は何もわからない。他人は気にしていないようだが俺の中での異端、異常,異能。

「また黙りこんじゃって・・。おじさんみたい。ふふっ」

いきなり失礼なこと言っといて何がふふっだ。

「えーっと、少しは反応してくれないかな?ちょっと困るんだけど・・」

ちょうどいい少し困れ。

「わかった。緊張してるんでしょ?なんでもお姉さんに話してくれていいんだよ」

俺は幼稚園児かバーカ。

「おかしいな?みんなこれで反応してくれんだけど・・。もしかしてあたしの事嫌い?」

「嫌いになるほど喋ってない」

「うあっっっっっっ!!急にしゃべんないでよっ。心臓に悪いんだよぉ」

大袈裟に身振りを付けて驚きあがる・・・・。一挙一動にいらいらするってのはこいつのことを言うんだろうか!?                            

「知るか。どーせあんた心臓なんてこの程度じゃ止まんねーよ」

「冷たいって。いくらなんでも女子にこれはないよ。嫌われるよ」

面倒だ・・。ここで終わらすか。

「話すり替えんな。何の目当てで何の用事だ?」

「ううっ目当てって酷いよ・・・・。用事は特に無いけど用事がなきゃ話しかけちゃだめかな・・・・?」

「今は腐る程気分が悪いんだよ・・・・。だから必要以上に話したかぁねーよ」

「なんでそんなに不機嫌なの・・?理由話せば少しは収まるかも・・・・。」

クソっ。予想外だ・・・・、こんなにも喰い付いてくるなんて・・・・。全然話が終わらん。最後にばっさり切って終わらすか。

「別にいい・・・・・。大体あんたに何の関係があるんだ?俺が死のうが生きようが崩れようが立ち直ろうが終わろうが始まろうが傷つこうが再生しようがまるでそっくり欠片の漏れも無くあんたに関係ない」

息を呑む目頭に液体が溜まっている、解っている、しかしまくし立てる。豪雨のように、マシンガンのように、容赦しない。なぜならそれが俺の世界を守るから・・・・、絶対に入れない領域だ。これが終わったらどーせ女子を泣かせた狂人扱いで一生話す事なんてない。

「鬱陶しい・・・・、要約するとそうだ。邪魔だ、いらない節介だ、小五月蝿い、そう言い換えてもいいぞ。それ位邪魔なんだよ」

「なんで・・・・・・・・、そんなに・・・・っ」

相手が話していたがそうなの待っていたら朝になる。俺の興味はすでにそいつではなくどうやって時間を潰すかということに移っていた。

「おまえの話を聞くのは時間を食いそうだからな・・。もう用事は無さそうだからから行くぞ」

茫然自失それが相応しい状態だろう、少なくとも俺に彼女がそう見えた。

まぁ俺に関係ないが。


女子一人を泣かしておきながら俺の中での感情は恐ろしく冷めていた。

駅付近の全国展開の大型ゲームセンターの中でスロットを回していた。

メダルはどしどし消費される割にさっきから全く当たり出ない・・・・。今日は最高設定の日なんだが。

ぼーっとしていたら喫茶店での黒男の言葉が浮かぶ。「つきの神様から見捨てられてんじゃないのかい」。

寒気する。馬鹿か俺は・・、あんな訳のわからん変態の言ったこと気になるなんていよいよ頭が沸いてきたか亜城亜蜘蛛ーー。

変な乗り突っ込み、訳の分からんテンション、どうやら俺の突っ込みの才能は皆無のようだ。

結局そこを出たのは午後11時を少し回ったくらい。ばりばりの補導対象だがまあいいか。きょうびの警官は自転車の防犯程度も出来ない愚図ばっかだ。

ちなみに言うとスロットの方はそれからつきについて投入代金の10倍くらいは取ることが出来た。何がつきの神に見捨てられただ。

ここのゲーセンのいい所は違法ではあるがメダルや玉などを換金可能ということだ。そのためにはここのオーナーと顔見知りに成る必要があるのだが・・・・。

5679円。

今回得ることが出来た報酬だ。

これで3日は持つはずだ。

帰宅時間午後11時。コンビニで焼肉定食と清涼飲料を買い求めた。フリーズドライと添加物のオンパレードの既製品というネガティブな単語以外浮かび上がらんがしょうがない。

アパートの階段を上ると饐えた臭いが若干する。ついでにいうと壁の方はその気になってやれば素手での破壊も可能なくらい薄く明らかに手抜き物件だ。

俺がこんな所に住んでいる理由は異常なまでの家賃の安さと市の交通の中心である駅に非常に近いということだ。

扉を開けて玄関に立つ、扉を閉める靴を脱ぐ。

これだけの動作の中でようやく自分が確認出来た。

酷い一日だ、酷く惨く面倒で疲れる一日だった。

こんなことを言っても誰かが応えてくれる訳も無い。ただ電話の子機が留守電を知らせる赤い光を発していただけだった。

一応形式的に受話器を取り上げてメッセージを再生する。もしセールスだったら折り返しのやがらせの電話を送ってやろう。

だが俺は直ぐ後悔した。セールスの方が万倍ましだ。

その相手は世界最凶の情報屋にして俺の旧い知り合いだ。

名前は・・・・・・・・・・不幸になりたいのならここから続きを読んでくれ。少なくとも俺は確実に不幸になった。

幸福でありたいのなら聞くべきではない。         黒瑞小道

         



序章 了

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