第一話その二

 目的のソレはすぐに見つかった。

ここの鍛冶屋の店主は明らかに鹿亭の店主と同類だろう。そんな感じがする。


「あの……。この短剣を研ぎ直して欲しいんですけど」


 銅貨三枚だと小さな声で店主はつぶやき、それに応じるという意思を持って短剣を預ける。

沈黙が二人を支配する。いや、この店は大通りに面しているので静寂とは無縁なのだが、今はその騒音さえもつらい。


「ダンジョンに、行くのか」

「え……?あ、いえ!今回は街近くの森林に薬草と面倒鶏を。そんな危ないところには行きませんよ」


 そう答えると、店主は安堵したように「そうか」と一言呟きながらもその作業は止めない。

まだまだ駆け出しの冒険者であるボクに、ダンジョンなどは夢のまた夢。


「本当はもう少し装備を整えたいのですけどねぇ。いかんせんお金がなくて」

「いま、いくらある?」


 突然の問に驚きつつも、全財産の額を伝える。


「銅貨四十五枚である程度まで揃えてやる」


 その言葉に自分の耳を疑った。

ここにある品々の中で一番安いものでも銅貨三十枚は下らないはず。


「気にするな。こちらも商売だ。揃えられる範囲でしか揃えん」


こちらの心配を見越したのか、店主はそう付け加える。


「それに、生き延びてくれた方が長い目で見たら儲かるからな」


 そう吐き捨てると金を寄越せと言わんばかりに手を伸ばしてきた。

特に信用していたわけじゃないけど、眼光の鋭さに射抜かれていつの間にか銅貨を四十五枚渡していた。


「毎度」


 短くも重みのある言葉をその立派な喉から紡ぎ出し、黄昏時に取りに来いと続けて言い放った。

困ったな。短剣を研いでもらうだけの予定だったから、そんなに時間をかけずに出発できると思ったんだけど。


大通りを宛ても無く彷徨っていると見知った顔に出くわした。


 「おう、お前さん」


 そこに居たのはカヤザさんだった。


「さっきぶりだな。依頼は決まったか?オレ達の方はコイツと行くことになったからさ。ごめんな」


 謝られてしまった。

一緒に行きたいと一言も言ってないのに!!

カヤザさんの傍には仲間と思われる数名。その中に一人だけ浮いている少年が居た。

 ボクの代わりにスカウトされたであろう少年は希望とやる気に満ちてはいるものの、どこか見下した目でボクを見ている。


「じゃあ、オレ達はこれからオーク討伐にいってくるからよ。お前さんも精々がんばってくれよな」


 言い終わるが早いか、颯爽と去って行ってしまった。

ボクなんか眼中に入っていないかのように。


 別に一緒に行くつもりは毛頭なかったけど、これはこれで腹が立つ。

なんだかボクが振られたみたいじゃないか。

遣る瀬無い憤りを感じながらも務めて冷静に自分の依頼をこなす方法だけを考えて彷徨った。

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