第一話その一
まずは準備かな。
そう考えていると、お腹が可愛い音で叫び始めた。
空を見ると陽が天高く輝いている。
「もうそんな時間か」
一仕事始める前の昼食場所を探すため、歩みを早めた。
出来る限り静かで人の少ない所が良いな。
となると、通りを外したほうが無難か。
そんなお店を探し、あたりを見回しながら歩いていると、少し奥まった通りにそれはあった。
――爆ぜる鹿亭
なんだろう。完全にネーミングに惹かれたとしか言いようが無い。
いつの間にかボクは扉に手をかけていた。
扉に付いているベルが軽快に鳴り響くと奥から元気な声が届いてきた。
「はーい!いらっしゃいませ!!お食事ですか?お泊りですか?」
「あ……えと、宿泊もできるんですか?」
奥から前掛けを付けた女の子が駆けて来る。
大きな瞳をいっそう大きく輝かせ首を縦に振り続けた。
「もちろんです!連泊でしたらさらにお安くいたしますよ!!」
「そ……そうなんだ。ちなみにおいくら?」
「普通であれば一泊につき銅貨五枚は戴きたいのですが、一月以上のご宿泊をしていただけるのであれば一泊につき銅貨三枚で結構ですよ!ね、父ちゃん?」
後ろでお皿を磨いていた屈強な男性が静かに頷く。
「そんなに割り引いちゃって大丈夫なの?いや、嬉しいんだけどさ」
「だって、貴方たち冒険者なんてろくに宿に戻らないでしょ?」
言い得て妙である。たしかにボクも数日は戻らないつもりで居た。
「じゃあ、まずは一月借りようかな?というか、ボクが冒険者ってよくわかったね」
そう言ってなけなしの銀貨一枚を渡す。
「あら、ほんと!?毎度ありー!!だって、ドックタグ付けてるじゃないの。じゃあ、この鍵ね。二階の一番奥の部屋だから。滞在泊数を超えると荷物とか全部捨てちゃうから気をつけてね」
笑顔で鍵と銅貨七十枚を渡してくれる。最後にサラッと恐ろしい事を言うな。気をつけなきゃ。
「ありがと。あー、それと、今食べるためのご飯と携帯食料とかって用意してもらえるかな?」
何日分?と言う問いに少し逡巡した後に十日分と答える。
「おっけー。じゃあ、少しオマケして銅貨二十枚ってとこね。どう?」
了承の意味を込めて銅貨二十枚を支払う。これで全財産は銅貨五十枚か……。
軽くなった――物理的には枚数が増えて重くなったのだが――財布をしまいながら、身近な席に陣取る。
店内を見渡すと歴史を感じる内装ではあるが、なるほどどうして隅々まで手入れが行き届いている。
そして店舗中央の壁には大きなお自家のハンティング・トロフィーが飾ってある。名前負けしない存在感。
「はい。お待たせ。それと、ビスケットと塩漬け肉を十日分ね」
そう言うとパンとシチュー、それから人間の頭くらいの袋を机の上に置いた。そして自分の身はボクの向かえに。
「あたしの名前はエイミー。貴女は冒険者なのね」
なぜ対面に座ったのか疑問を抱かせないまま矢継ぎ早に自己紹介を済ませるエイミーさん。
柔和な笑みを浮かべながらコチラを見つめている。
「ええ。冒険者のエミリオです。と言っても今日なったばかりですが」
ルーキーという事実を正直に答える。照れ笑いをしながら。
「じゃあさ、あとでアイテムの買取とかをしてくれるお店を紹介してあげるよ」
必要でしょ?と付け加える。
「その代わりさ、少しばかり薬草を手に入れてきてよ」
「ああ。それくらいだったらお安い御用だよ。どの道、薬草を手に入れないといけないしね」
「ありがとう!薬草は確か街を出て北西の森林にあるはずよ。頑張ってね」
それは有用なことを聞いた。
出されたシチューを美味しく平らげ、二階の割り当てられた自室へと赴く。
部屋にはベッドに机という至って普通のつくり。
机の上に持っていた荷物と今さっき戴いた食料を机の上に置く。
さて、明日から始まる依頼の準備をしなくては。
「エイミーさん、鍛冶屋は近くにありますか?」
自室を出て一階で働いているエイミーさんに
「それなら大通りに出て左手側にまっすぐ進むとあるよ」
仕事に精を出しながらエイミーさんが答える。
お礼を伝えて宿屋を出て鍛冶屋へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます