第15話 武器屋の女主人
リュウケンを連れたユイは、ギルドの次に鍛冶屋へと向かった。
そこで、リュウケンに合いそうな防具を適当に見繕うつもりだった。
だが、どの防具を出しても首を横に振り続けた。
これでは重すぎる。もっと軽いのを寄越せ。鎧なんていらない。
こんな具合だ。
そのくせ、武器にいたってはどんなものを出しても軽すぎる、もっと重いのを持ってこいとダダをこね始めるのだからタチが悪い。
ユイは散々困った結果、防具も剣も特注で作ってもらうことになり、それまでのツナギとして、安物のレザーアーマーを買い与えた。
武器はさすがに無かったため、ユイがいつも贔屓にしている武器屋へと向かう途中だ。
特注となると、そこの方が多少は安くしてくれる。
「それと、あとは寝床だけど……これは私と同じでも」
「まて。お前は何を言ってる」
歩きながら口ずさんだユイに、今まで黙り込んでいたリュウケンが低めの声で口を開いた。
少しびっくりしながら振り向くと、リュウケンはフードと包帯の間から鋭い眼を覗かせた。
「いきなり何よ? そんなに脅すみたいにしなくても聞こえるって」
「黙れ。恥じらいも持たない痴女め。男と同じ部屋でいいなんてあって言い訳があるか」
「……………なんだか、変なところで真面目なんだね、君は」
ため息をついて、ユイは苦笑いをこぼした。
「大丈夫よ。そんなので動揺する人に、何かされるとは思えないわ」
「そういう問題じゃない。女性ならばもっと慎ましくだな……」
そう言いかけた時、リュウケンは黙り込んでフードを目深にかぶった。
不思議に思ったユイだったが、特に問い詰めることなく進んいく。
だが、リュウケンは辺りを気にするだけで進もうとしない。
いつもよりもヤケに人が多い通りを進んで行くユイは、挙動不審になっているリュウケンの手を取った。
「さっさと行くよ。こんな人混みにいたんじゃゆっくり話もできないでしょ?」
「あ、ああ……分かったから引っ張るな」
リュウケンの主張など知ったことかと言うように、ユイはスタスタと歩き始める。
だから、彼が何に怯えているのか、その眼が何故、怒りの炎に燃えているのか。
その頃のユイには、気づく事すら出来なかった。
**************
「とりあえず、防具はそれでいいとして、武器は本当に問題ないの?」
「ああ、問題ない。どうせ使い潰すもんだからな」
包帯の下で皮肉げに笑うリュウケン、もとい剣斗を見て、ユイともう一人の人物は苦笑いを浮かべた。
「で、きれ、ば、潰さない、で、ほしい、の、だけれ、ど」
独特な区切り方をしながら、その人物は剣斗に話しかける。
煙管を遊ばせ、艶やかな唇を開いたのは、この武器屋の若き女主人、名を、ジーナという。
ユイのようにスレンダーではなく、大人の熟成した色気を放っている彼女は、王都でもなかなかの位置にある凄腕の魔術師だ。
故に、武器から単純なアイテム、魔法薬や魔道具などまで多岐に渡る店を営んでいる。
「それ、で? 本、当に、買う、の?」
剣斗がユイを見る。
「すいません、もっと重いのはありますか?」
ジーナの問いに、ユイが剣斗の言いたいことを察して応えた。
困ったように笑ったジーナは、つい、と煙管を振った。
すると、店裏から大きな箱がフヨフヨと流れてきた。
「それ、が、うち、で、一、番の、重さ、よ」
「大きいね……リュウケンの背丈よりあるんじゃない?」
持てるの? と、言外に言っているユイをギロリと睨みつけた剣斗は箱の蓋を開け、中身を確認した。
そこにあったのは、剣斗のような細身の戦士が使うようなものではなく、大柄な騎士が使う大剣が収納されていた。
それを、剣斗は軽々と持ち上げる。
「あ、ら。少し、驚いた、わね」
フン、と鼻を鳴らし、剣斗はそれを肩に担いだ。どうだとユイを睨むと、降参と言うように手を挙げた。
代金を払い終わり、店を出ようとすると、剣斗はジーナに手招きされた。
彼女は和かな笑みを浮かべながら囁く。
「ユイ、ちゃん、の、こと、よろしく、ね? あの、娘、危なっかしい、から」
何を言っているのだろうか、と剣斗は不思議に思った。
行く先々で、ユイは必ず誰かに心配されている。
ユイの人徳が為すものなのか、それとも単に周りの人物が良い人なのか。
何方かは分からないが、剣斗はコクリとうなづく。
そんな姿を見て、ジーナはクスリと笑った。
「あり、がとう。意外、と、素直、なの、ね」
微笑ましいものを見るかのような表情を浮かべたジーナに見つめられ、恥ずかしくなったのか、剣斗はフードを目深に被って店から出て行った。
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