第16話 変化の兆し


裁きの森周辺の遺跡。


剣斗とユイは、そこで簡単なクエストをこなしていた。

内容は、活性化した魔獣の討伐。

魔獣の種類は食用としても有名なボアタウロスの群れだった。

猪(ボア)なのか牛(タウロス)なのかハッキリしろと言いたくなる名前だが、その名の通り、牛のような角と、猪のような突進力を持った危険な魔獣である。


「ゼアッ‼︎」


剣斗がジーナから貰った大剣を盾のようにしながら突き進み、折り重なっていくボアタウロスを叩き斬った。

血飛沫が飛び散り、フードを赤く染めたが、そんなものは気にせずに走り出す。

向かってくるボアタウロスは、理性などありはしない。

正面からそれの頭を叩き斬る。


その姿を、ユイは少し離れたところから見ていた。

動きは申し分ない。

むしろリュウケンはそこらの冒険者よりも、高水準の速さと力を持っているバランスの取れた前衛型だ。

だが、攻撃は最大の防御だとでも言いたいような前のめりな戦い方は、ユイの好むやり方ではない。


「おい、終わったぞ」

「……そうね。とりあえず顔を拭きなさい」


目標を刈り尽くしたリュウケンを見て、手拭いを投げ渡しながら帰り支度を始めた。

その表情はあまり優れているとは言えず、不満を隠しているように見える。


「…………なにか言いたそうだな」


剣斗は仏頂面のユイに話しかけた。

これは珍しいことである。

必要以上のことを話そうとしない剣斗は、基本的に質問などもしてこない。

それがこうやってユイの顔色を見て、不躾ながらも質問してくるのだから、まだ少しは打ち解けられたということだろうか。


「それは、自分が悪いって思ってるから聞くの?」

「…………いや、何でもない」


ユイが少し意地悪な返答をすると、剣斗はフードを目深に被って黙り込んだ。

怒ったのだろうか。

そう考えたが、時間もないのでとりあえず狩場を後にする。


未だ、二人の間には微妙な距離が生まれたままである。




街に着くと、ユイは仏頂面のままガトーに換金をしてもらっていた。


「………なぁユイちゃん」

「なんですか?」

「いや、なんでもねえ」


ユイの威圧感に気圧されたガトーは何も言えずに視線を隣で黙り込んでいたリュウケンに向けた。


「おい、お前さん何かしたのか?」

「…………………」


プイ。

ガトーが話しかけたのを無視してそっぽを向いた。


一発殴った。


「ッつう……! 何しやがる……!」

「やっとこっち向いたなクソガキ」


ニヤリと笑ったガトーに、反応してしまったことを後悔したように目を鋭くした。


「知らん。依頼をこなしてたら、不機嫌になっていった」

「……なるほどなぁ」


手続きを行っているユイを見たガトーは、より一層その笑みを深くした。

どうやら、氷の死にたがり女にも、感情が生まれ始めてるようだ。

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