番外話 水龍の勇者
水龍の勇者である檜島彩音は、ヴァルキリス王国ノース地方にある宮殿のとある一室で用意されたベットにうずくまっていた。
ここ数日間、彼女はこの世界に来てからの日課となっていた町の巡回をせずに、ずっとこうしていた。
それは、先日の光牙からの連絡が原因である。
光牙の話によれば、剣斗が城の中にいる騎士を殺害したことで刑罰を受けたというものだった。
「ありえないよ…………」
ありえない。
そんな言葉だけが彩音の中で駆け巡っていた。
彩音はずっと剣斗のことを見ていた。
無愛想で、面倒くさがりやで、目つきが悪くて。
それでいて困ってる人は見過ごせず、見えないところで、誰かのために何かをしている。
彼が、人殺しなどするわけがない。
そんなことは、彩音にとっては、あっていいことではないのだ。
盲信にも似た考えを持ちながら、彩音は顔を上げた。目は黒く淀み、濁った池を思わせる光を帯びていた。
「カラスさん。そこにいる?」
彩音は誰もいない空間へと話しかけた。
そこから、黒い装束の小柄な人影が飛び出してくる。さながら疾風のようだ。
その人物はカラスと言い、王国から派遣された勇者の護衛だ。
彼らは団体で行動する忍者のようなものたちだが、基本的に彩音たち勇者と対する時は1人が代表して現れる。
性別は不詳で、何年生きているのかもわからない。
「お呼びですか。水龍の勇者様」
恭しく礼をしながら、目隠しのされた目で彩音を見つめた。
これは、視力に頼らずに護衛、もしくは監視対象の本質を見抜くためのものである。
「今すぐ、竜崎くんを探し出してください」
彼らの持つその心眼には、今の彩音は一体どう映ったのだろう。
「私が真相を聴きだします」
きっと、ひどく歪な存在として映ったのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます