銀行強盗撃退

 ある日、占いの仕事を終え、青磁とルーチェが家に帰る途中。

 ある男とすれ違った瞬間に、青磁が動きを止めた。

「青磁……?」

「しっ」

 ルーチェを道路わきに引き寄せ、電柱の影からその男の後姿をのぞいた。


「どうしたの?」

 青磁は声をひそめてつぶやく。

「あの男……銀行強盗をするつもりだ」

「えっ!?」

「未来が見えた。明日、近くの支店を襲撃する」

「明日って……」

「仲間がいるな。二人……三人か。拳銃も用意している。銀行は制圧されるだろう」

「どうにかしなきゃ!」

「といってもな……警察に通報しようにも、証拠がなければ信じてもらえないだろう」


 ルーチェは決意を秘めた顔で言った。

「私が止めに行けばいいのよ」

 青磁は驚く。

「無茶を言うな! 今までとはわけが違う。相手は銃を持っているんだぞ!」

「銃相手の戦闘なら、元の世界でも何度か経験しているわ。要は使う前に叩き落してしまえばいいのよ」

「ルーチェ。だが……」

「心配しないで。私は大丈夫よ。セージは危ないから、家で待っていて」

「ばかを言うな。お前が行くなら俺も行く」

「駄目よ! あなたが撃たれたらどうするの」

「お前が銃に対処してくれるんだろう? じゃあ、なんの問題もない。それに俺の、運命が見える力は利用できる。ついて行ったほうがいい」

「そう、だけど……」

 しばらくもめた後、結局二人で止めに行くことになった。

 

 翌日。

 二人は銀行の支店に来ていた。まだ何も起こる様子はない。

 しばらく時間が経った頃。

 帽子をかぶり、マスクをした男達が入ってきた。

「あいつらだ」

 青磁が合図をする。


 犯人たちは店内に入り、それぞれ位置取ると、おもむろに天井に向けて発砲した。

「きゃああ!!」

 轟音に、客たちの悲鳴が上がる。強盗が叫ぶ。

「動くな! 全員床に伏せ――ぐぅっ!」

 ろ、まで言えなかった。

 地を蹴り走りよったルーチェが、強盗の腹に拳をめり込ませた。

 崩れ落ちる強盗。その一人が床に倒れこむより早く、ルーチェは残る二人に手刀を食らわせた。あらかじめ予想していた青磁ですら、目で追うことは出来なかった。

 どさり、と三人が同時に床に倒れる。


「ふう……。これで、全員ね。みんな、怪我はしていない?」

 銀行内にいた客や従業員は、一様にぽかんと口を開けていた。

 何が起きたのか分からない。いきなり拳銃が発砲されたかと思うと、金髪碧眼の美少女があっという間に強盗を打ち倒した。

「相変わらず、お前は規格外の身体能力だな……」

「これくらい、大したことはないでしょう。それより、ケイサツは呼ばなくていいの?」

「ああ、多分銀行の人が通報してくれて……」


 言いかけたときだった。

 青磁の目に、腹を打たれた強盗が起き上がる未来が見えた。その手には拳銃が――。

「ルーチェ! 危ない!」

 とっさに、青磁はルーチェの腕を引き寄せる。

 銃弾の軌道から逸らすよう、強く抱きしめた。

 ふわりと、柔らかな金髪が手のひらに触れる。

 腕の中の身体は、折れそうなくらい華奢だった。その小さく細い身体に驚く。


 ルーチェは、青磁の腕に抱かれ、目を丸くした。

 全身に青磁の体温を感じる。

 かすかに香る青磁の匂いに包まれ、とくんと鼓動が早くなった。

 ルーチェのいた跡を、銃弾が通過していく。


「ちっ! 外したか」

 毒づく強盗は、さらに発砲しようと拳銃を向ける。

 ルーチェは青磁を引き倒した。

 二人で床に転がる。その上を銃弾が飛んでいった。

 ルーチェは一蹴りで強盗に肉迫し、拳銃を叩き落とした。すかさず、手刀をいれ、気絶させる。

「甘かったわね……油断したわ、ごめんなさい。誰か、紐を持っていない?」

 それから気絶した強盗から武器を全て没収し、銀行員が持ってきた紐で縛り上げた。

 しばらくして警察が到着し、一切被害がでることなく、犯人は連行されていった。


 帰り道。

「無事に犯人を捕らえられてよかったわね」

「ああ……だけど、危なかったぞ。一度は撃たれかけたじゃないか」

「そうね。あなたがいてくれてよかった。かばってくれて、ありがとう」

「いや……別に」

 青磁はルーチェをかばい、抱きしめたときのことを思い出し、気恥ずかしくなってふっと顔を背ける。


 そして、あのときの感触を思い出す。自分の腕の中に納まる、小柄な身体。

 いつも強く輝いているルーチェだが、実際は自分よりいくつも年下の女の子であることを意識した。

(あんな華奢な身体で……いつだって誰かのために、一生懸命頑張っているんだな……)

 元の世界では、勇者なんてやっていて。

(そうだ……。ルーチェはいつか、自分の故郷に帰るんだ)

 そうして、自分の側からいなくなってしまう。永遠に。もう二度と会えない。

 それを思うと、青磁は深い喪失感を覚えた。

 そんな日が来なければいいのに。そんな風に思った。


 ルーチェもまた、青磁の腕の中を思い出していた。

 誰かにかばわれることなんてめったになかった。密着する身体。

 抱きしめられたことが、嫌ではなった。むしろ、心地いいと思った。

(でも、もうすぐ私はセージと離れ、故郷に帰らなくちゃいけない……)

 それを思うと胸がいたんだ。

(私は、セージのことを……?)

 青磁に触れたことで、ルーチェは自分の想いを意識するようになった。

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