すれ違い

 青磁は、友里を見舞いに来ていた。

 いつものように占いを目を輝かせて聞き、おっとりと微笑む友里。

 そんな友里を見て、優しい気持ちになる青磁。だがその気持ちは、どこか姉に対する家族愛に似ていた。

 友里と一緒にいるときも、時折ルーチェのことを思い出す。ルーチェなら、この占いにどんな反応を示すだろうか。

(何を考えているんだ、俺は……。友里と一緒にいるのに)

 友里はそんな青磁を穏やかな目で見つめていた。


「青磁、少し外を散歩しましょうか」

 友里の言葉に、二人は庭に出る。

 しばらく黙ってゆっくりと庭を歩いた。

 そして、友里が言う。

「青磁。……私達、別れましょうか」

「えっ!?」

 突然の言葉に、驚く青磁。


「ど、どうしてだ!? 俺、何かしたか?」

「ううん。そうじゃないの。青磁はいつも優しいよ。だけど……」

 友里が少しだけ寂しそうに青磁を見る。

「青磁、今、好きな人がいるでしょう?」

「……!」

 その言葉に、とっさに思い浮かんだのは。

 眩い金髪に、鮮やかな青い瞳だった。


「そんな……」

「なんとなくね、分かるの。子供のときからずっと一緒にいたんだもん。二人でいるときも、青磁は時々、その人のことを考えてる」

「……」

 青磁は否定できなかった。


「もちろん寂しいけど……でも、少しだけ嬉しいの。青磁はずっと心を閉ざしていて、私以外の人とは、交流しようとしなかった。だけど、そんな青磁が、大切に想う人ができたんだね」

「友里……」

「私もね。考えていたの。青磁の占いは、すごく素敵な能力だけど……私もいつまでも、青磁の占いに甘えていちゃだめだなあって。占いに頼らずに、自分の力で歩いていきたいって思ったの」

 友里は青磁に微笑む。


「もちろん、青磁が私にとって大切な人であることに変わりはないわ。これからもずっと、それは変わらない」

「俺にとっても……そうだ。友里は俺の大事な人だ。ずっと」

「だから。ねえ、笑って。恋人ではなくなるけれど、これからも親しい友人として――ううん、家族として、付き合っていけたら嬉しいわ」

 友里はそっと微笑む。


 それを見て青磁は思った。友里もまた、占いに頼る日々にけじめをつけようとしているのかもしれないと。占いに頼らず、未来を自分の力で切り開いていきたいと思うようになったのかもしれないと。

 何かを一つ乗り越えたかのような友里の微笑みに、青磁も笑顔を返した。

「ああ――わかった。これからも友里は、大切な家族だ。……今までありがとう」

 二人は笑顔で別れた。


 青磁は自室に帰る。

「おかえりなさい。ユリさんはどうだった?」

「元気だったよ。それで――友里とは別れてきた」

「えっ!?」

 突然の宣言に、ルーチェは驚愕した。


「どっ、どうして!? あんなに仲が良かったのに!」

「……理由はいろいろあるけど、もう、友里には占いは必要ないらしい。自分の力で歩いていきたいんだとさ」

「そんな……」

 ルーチェは、複雑な心境だった。最初は驚き、ショックだったが、もう青磁に恋人はいないと知って、ほのかに嬉しく思う気持ちもあった。

 だが、人の別れを喜ぶのは不謹慎だと、その気持ちを押し殺す。


「セージ……辛かったでしょう。可哀想に。ユリさん、素敵な人だったのに」

「いや……大丈夫さ」

 ルーチェに同情され、青磁は少し落胆した。

(ルーチェは、俺が友里と別れたことを悲しんでいる。俺のことは、なんとも思ってないんだな……)

 ルーチェのその態度に、青磁は自分の想いに見込みがないと思った。それで、ルーチェへの想いを口にすることができなかった。

 ルーチェもまた、自分は故郷へ還るのだから、青磁への想いは諦めようとしていた。

 お互いに想い合いながら、二人はすれ違っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る