8 ご近所さんとの関係に難アリ
まあ、大体整理すると、人族のほか、獣、獣人、魔物がいて、人族とただの獣以外はどちらも、魔族やら聖獣やらに進化できるということらしい。
今一信用できん。とくにスライムが神獣、聖獣になれるというあたりがな。
「じゃ、要するに、この世界にいるのは、人と獣と獣人、魔物、魔族、魔王、聖獣、神獣ってわけだな」
まとめていってみると、カッペイが言い出した。
「いえ、どの系統にも属さない種族もあるんす。天使とか、ドワーフ、エルフなんかっすね」
「え?エルフ?ちょっとそこのとこ、詳しく」
食いつくと、こいつら、とんでもないことを言い出した。
「エルフはここからちょっと離れたところにある世界樹に住んでたんでしけど、邪魔だったんで、追い出したでし」
は?
「ま、俺らにかかればエルフなんてこんなもんすよ」
「俺ら、つよい」
自慢げに言い合っている。
いや、なにいっちゃってんの?お前ら、エルフの敵なの?俺はエルフの味方だぞ!見たことも会ったこともないがな!
「なんで、そんなことしたんだ」
「キャラがかぶってるからでし」
一ミリもかぶってないだろ!……ってか、なんだ、その理由?!
「あのう、洞窟を広げるのに、世界樹の根っこが邪魔だったんですう。それで、根っこをどこかへやってくれってお願いしたんですう。そしたら、闘いになったんですう。ちょっと、よけてくれるだけでいいのにい。で、ボクたち、勝ったんですう」
「おまえら……」
絶句……。絶対お願いじゃないな、たぶん。さすが魔物……、あくどい。
「……じゃ、今エルフはどうなったんだ?」
「世界樹捨てて、ちょっと遠くに行ったんでしが、時々来てるでし。しつこいでし」
「だから、ボクたち、今薪には困らないんですう」
うわあ……。頭を抱えてしまう。あ、土間の真っ白な薪は世界樹……。世界樹を薪とか、なんつー罰当たりな……。
「そういうこと、しちゃだめ!近所の人とは仲良く、平和に!」
そこへ直れ!説教してやる。エルフをひどい目に遭わせるなんて!!
「えー、でもそんなことしたら、世界征服できないでし」
はあ?!
「世界征服うっ?!」
「そっす」
当然とばかり、カッペイもいう。ゴロくんも背中の大きな斧の柄に触りながら、深くうなずいている。
「なんでそんなことすんだ。ふつうに楽しく暮らせればいいだろうが!」
「征服しないと、楽しく暮らせないっすよ」
「暮らせるだろ!!変なことしなきゃ」
「ええ?俺ら最底辺のスライムっすよ。みんなに食いもんとしか思われてないっす」
「え、そうなの……?」
思いがけない厳しい現実……なのか?
「俺らの方が食う側に回らなきゃ」
いやいやいや、負けるな、俺。
「おまえら、もうただのスライムじゃないんだろ?さっきだって、すげえ魚……みてえなの、やっつけてたじゃねえか」
「やらなければやられていたでし」
そんなに弱肉強食なの?この世界って……。
「おまえら、エルフも何人かは実は食っちまった……とか?」
おそるおそる聞いてみると、首を振ったのでほっとした。
「食べるとこ、少なそうでし」
ぎょっとしたが、カッペイの言葉に安心した。
「俺らは言葉が通じて、攻撃してこない奴は食わないっす」
「じゃ、人間も?」
聞いてみると、
「人間は敵でし。あいつら、すぐ狩ろうとするでし!」
うわお、人類の敵宣言。
「まずそうだから、見逃してやっているだけでし」
その言葉にびびっていると、ヴィオは付け加えた。
「でも、マスターは別でしよ。なんで人間の振りするのかわからないでしが、本当に人間だとしても、別でし。マスターは力をくれたでし。いいものなんでし」
俺の命って人間ってだけで、風前の灯火なんじゃ……。今更だが、マスターじゃないと主張するのはとっても危険な気がする。
「に、人間だって、スライム姿ならともかく、おまえらのそんな格好みて、すぐ狩ろうとなんてしないと思うぞ。人間の子供みたいだしな」
「そ、そうでし?」
お、なんか妙な具合に照れてるぞ。俺らの変身も捨てたもんじゃないなっ、とかいって、盛り上がっている。しめしめ。
「か、かわいい子供たち?……を、ほら、狩ろうなんて、ひどいことしないよ」
「ふふん、それなら、許してやってもいいでし」
なんだか案外簡単に敵愾心がゆるんだぞ。よかったよかった。
「毎日、山ほどおいしいもの持ってきたら、許してやるでし」
悪代官のようなことをいっている。だが、もうひと押しだ。
「おまえらももう、ただのスライムじゃなくて、強いんだったらさ、世界征服なんていってないで、ご近所さんとも仲良くしていかなきゃだめだろうが。聖獣だって、そんなことしないだろ?」
たぶん、この世界の聖獣でもしないだろう。聖というくらいなんだから。しないでいてくれ、と念じながらいってみると、みんな俺のこの言葉に愕然とした顔した。
あまりにもポカンとした顔をしているので心配になる。
「どうした?おまえら、聖獣目指しているんだろ?」
「目指してるっす……」
なんだ、急に元気がなくなって、目がうつろになったぞ。
「そんなら、マスター」
「ん、なんだ?」
「世界征服めざさないなら、俺ら、どうしたらいいんすか?」
「は?」
「そうでし。これからどうして生きていったらいいでし?」
え?世界征服って、そこまでのものなの?
「世界征服もしないボクたちなんて、生きてていいんでしょうかあ?」
レゾン・デートルってルビ振った存在意義なの……か?やはり魔物……。
「腹黒いな……」
つぶやくと、え?とみんな顔を上げた。
「おまえら、黒いぞ、黒すぎる。なんて腹黒いんだ。そんなんじゃ、聖獣になんて……」
言いかけて俺は異様な雰囲気に言葉を失った。
なんだか、急にまた元気になったぞ。生き生きとしだした。こいつら、ほんとスイッチの入り方がわからない。なんだこれ?
「そんな、褒めたってなんにもでないっすよ。照れるっす」
「黒だなんて、言いすぎですう。光魔法が一番得意なボクだって、せいぜいこげ茶までしか作れないですしい」
え、なにがどうして褒めたことになってるの?
さっきも湖のところで黒に興奮していたが……。
よくよく聞くと、色がたくさん扱えると濃い色まで作れるようになる、濃い色まで作れるということは光魔法が得意である証拠、だから黒いは褒め言葉なのだとか……。俺の服の、高貴な黒とかいうの、そういう意味だったのか。
光魔法は要するに治癒魔法が使えるらしく、ぼたんがその担当だということだ。なんか、俺のイメージだと白い方が治癒担当ってかんじだけどな。黒い治癒魔法使いなんて、いやな感じだ。
聖獣も真っ黒だったらどうしよう?
……いや、それはそれで中二心がくすぐられるな……。ふふふ、我が高貴なる漆黒の御業をくらえ……、おっと、ごほんごほん、症状がぶり返してしまった。もとい……、
「世界征服しなくても、楽しく暮らせるんだから、安心しろ」
断言してやるが、
「そんなこと、ありえるんでし?」
不安そうに顔を見合わせている。
「いや、もともと魔物だから世界征服めざしてたとしても、今度から、聖獣になるからには、別の目標が必要だから!」
いってやると、おお、とみな目が覚めたような顔をした。
「そんなら、聖獣は何をめざしているんでし?」
知らんがな……。
「俺は見たこともないしなあ。誰かに、聞いてみたらどうだ?」
「どこ行ったら会えるでし?」
え、直接本人に会いに行く気?しかし、どこ住んでいるかさえ知らないで、それで真似してるとか、ある意味すげえな。
「うーん、俺が帰ったあとで、探しに行ったらどうだろうな?」
そう、あくまで俺が帰ったあとに、な。あとで、写真だけアップしてくれればいいから。
「とにかく、おまえら、姿形は魔物から進化したみたいだが、中身がまだまだなんだな。これからは中身も充実させていくべきだと思うぞ」
マスターっぽく脇に両手を当ててふんぞり返って、力強く諭してやった。すると、おー、とこぶしを挙げ、歓声を上げている。やれやれ、うまくまとまった。
「世界征服する聖獣になるでしっ!」
……おおっと。
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