冬と月に一度の楽しみ

 冬は嫌いだ。

 粉雪混じりの夜風に身をちぢこめながらの帰路、何度となく内心でつぶやいた。濡れて重くなったコートとは裏腹に、空気は乾燥していた。冷たく張りつめた肌はかさついていた。

 少しでも皮膚にうるおいを与えてやろうと風呂に入ろうとしたら、ニットを脱ぐときに静電気にやられた。おまけに一番風呂だったから浴室の床が冷たくて飛び上がりそうになった。慌ててつま先立ちになり、洗面器を浴槽につっこみ湯をすくって床に流す。それを二回、かけ湯を二回してからだった、湯船に浸かれたのは。

 身体が芯まで冷え切っていて一番風呂の湯が凍みた。熱がじわじわと体内に行き渡っていくむずがゆいような感覚がある。

 けれど、それは決して嫌なものではなかった。全身をのばし息を吐く。溜まった疲れが逃げていく気がして、このときばかりは冬も捨てたもんじゃないなと思えた。

 だらだらと長湯をしていたら身体が茹だった。かといって脱衣所でゆっくりしていると湯冷めをして風邪をひく。体中の毛穴から立ち上る白い湯気が消えきらぬうちに、バスタオルで水気を拭き取りさっさとスウェットに着替える。室温はそれほど高くないはずだったが、スウェットの内側に熱がこもっていて温かい。

 そして、洗面所で鏡と向き合う。

 月に一度のお楽しみ、毛穴パック。洗面台から取り出して封を切り鏡の前に置く。

 洗顔は浴室でしてあるので、鼻を温水で湿らせ、いったん手をタオルでぬぐってから透明なシートをつまんでパックを外す。

 鏡に顔を寄せ黒色のパックの位置を調節し鼻にあてがう。それから最後に指先で鼻梁、小鼻となぞってしっかりとパックをはりつける。

 スマートフォンのアラームを設定。どれだけ角栓が取れるのか楽しみにしながら二階の自室へと向かった。

 部屋でスマートフォンを触ってどうぶつの森をやっていたら十分なんてすぐに終わった。シートが乾燥してすーすーするのが気持ちいい。

 手鏡で確認しつつ、まず左右両へりをはがす。その小鼻の浮き上がった部分からゆっくり中心へむけてはがそうとした。

 けれど、うまくいかない。

 いつもよりもがっちりと肌にくっついている。あぁ、空気乾燥していたんだ。

 それでもどうにかなるかと思って力技でパックをはがした。皮がめくれた。血が出た。涙がにじんだ。

 鏡で見ると鼻全体が赤くなっている。小さな斑点もできている。毛穴の黒ずみの代わりに赤い点ができていた。

 ぱりぱりになったパックをごみ箱に捨てる。

 鼻にオロナインを塗りながら思った。

 やっぱり冬は嫌いだ。

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