草むしりとレビュー

 今年の夏は、どうにもすっきりとしない天気の日が多い。梅雨の長雨で庭の草は伸び放題になっていて掃除をしなければと思っていたのに、台風やらゲリラ豪雨やらでタイミングが合わず結局お盆直前になって草むしりをするはめになった。山の日からの連休に晴れてくれたのは不幸中の幸いか。

 本格的に暑くなる前にと早めに起き、朝食をさっと済ませて汚れても構わない服に着替える。下はジャージで上は着古しのロングT、首元にはタオルを巻き、頭には帽子、脚にはゴム長靴というフル装備。我ながらクソダサい格好だが、そんなことよりも実用性が大事だった。真夏の強い日光もそうだが、草負けと蚊が厄介なのだ。対策を怠れば肌の弱い私など至るところに赤い斑点と腫れを作ることになる。虫除けスプレーを噴いて軍手片手に外に出る。

 池のコンクリートの水溜めにはスポーツドリンクが冷やしてある。熱中症対策も万全だった。

 庭は酷い有様だった。飛び石や砂利敷の場所こそなんとか通り道として形を保っているが土の部分は地面が見えないほど雑草が生い茂っている。群生した草の丈がとりわけ高いのは、ガレージと母屋の間の土地だ。かつては家庭菜園として利用していた場所だが、手入れをする人間がなくなり放置していたので見るも無残な姿と成り果てている。豊穣な土と日当たりの良さがあだとなっていた。

 草刈り機でまとめて刈ってしまえれば楽なのだが、母屋の掃き出し窓に面しているのが具合が悪い。石はねでガラスが割れてしまうのでおいそれと機械に頼るわけにもいかず人力で処理する必要があった。

 膝丈、ともすれば腰丈になるだろうか。びっしりと生え揃い濃い叢を形成している様は壮観だったが、一つの区画にに纏まっているのは却って都合が良かった。軍手をはいて鍬を手に叢に分け入り、ざぐさくと土ごと耕していく。表面こそ土は乾いていて硬くなっていたが、草自身が影を落としているせいか内側は土が湿っている。刃はその自重でやすやすと硬く脆くなった表面を崩すように内部へと沈み根こそぎ草を掘り返してくれる。少し腰に来たがそれでも、割合さっくりと叢は均された。

 しかし、本当に厄介なのは飛び石の間や砂利の隙間などに生えた草だ。鍬の刃が入らないのでまとめて掘るわけにもいかず、鎌で一本一本ほじくらなければならない。背中に日を受けながら、しゃかみこんで一つずつ対処していく。ロゼットになったものは、地面にへばりつくようにして広がった葉を掴んで葉のつけ根の部分から鎌の尖端を差入れて土を掻く。ある程度深くまで刃が入くとれば茎を引くとその長い根が一気に抜ける。根があまりに太く地中深くまで伸びているものは仕方ないので適当なところで根を切ってしまう。

 ひげ根の草は比較的抜きやすい。鎌を使わずとも小さなものであれば手で引っこ抜ける。イネ科だろうか、細長く尖い葉の草は、ひげ根であっても株立っていて地面に強く根を張っていて手では抜けなかった。土が完全に乾ききっていれば塊となって土ごともげてくれるのだが、湿った部分まで深く根をのばしているとみえ鎌に頼らなければならなかった。

 後退しながらちまちまと草を抜いていく。私の前方は視界を遮るものがなくなりすっきりとしていた。目に見えて綺麗になっているのは地道な作業の成果という感じで達成感もあって悪くない。そう思うのだが、振り返って手つかずの場所を見るとげんなりしてしまう。まだこんなにやらなけれはならないのか。長い道のりを想像して気力が削がれた。

 鎌を置いて軍手を脱ぎ、タオルで首筋の汗を拭う。そこで、うちの前の道路に年配の女性が立っているのに気づく。

「ほんに綺麗にしゃーて」

 散歩中だったのだろうか、押し車を止めて彼女はこちらを向いて年齢のわりにはっきりとした口調で言った。

 謙遜というのではないが私は、小まめに掃除していないからお盆のぎりぎりになって忙しく動き回らないといけなくなると自身の至らなさを恥じるようなことを口にした。

「ほんでもちゃんとしてやーるで。こんな綺麗にしてやーるとこなかなかないわ」

 お世辞かもしれない。しかしそれでも、気力を失ないかけていた私には彼女の言葉が沁みた。

 それから少し雑談をして老婆は去って行った。

 さあ、喉を潤し草むしりの再開だ。



 その夜、カクヨムをチェックすると

 私が書いたショートショートにレビューが増えていた。

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