刃物

椎名 柚規

第1話

ある日、わたしはナイフを拾った。持ち手の所が木でできていて、細かい彫刻がされてあった。それを拾ったのは人気のない河原で雨が降った直後だったので周りの草は濡れていた。なぜ、あの時河原を歩いていたのかは覚えていない。多分、なんとなくだったと思う。確か、あの時は夜だった。深夜だった。

わたしは、ナイフを大事にした。何故かはわからないが、大切にしなければならない気がした。土で汚れていたので、丁寧に洗った。切れ味が良くなるように研いだ。なんの思い入れもないこのナイフを大切にするのはおかしいと思った。でも、それがナイフを拾った者の義務だと思った。

次の日、大学に行った。大学は酷くつまらないところで、とても時間が長く感じた。大学ではほとんど独りで行動していた。人間は嫌いだ。裏切る。面倒くさい。

しかし、大学に1人だけ仲のいい人がいた。キリコだ。キリコは名前も学部も住んでいる場所も教えてくれなかった。

そして、幾日がたった時、キリコが死んでいることを知った。自殺したそうだ。きっとそうなるだろうと思っていた。睡眠薬を大量に飲み、まるで抜け殻のようになったキリコの様子が目に浮かんだ。

キリコが死んでも、私は何も変わらなかった。大学へ行き、講義を受けて、コンビニのおにぎりを食べて、帰る。同じことの繰り返しだ。

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