第11話 お茶会とこの世界

メイドさんに案内されて、マウスピースを洗う為に外に出てきたけれど、やっぱり空気の雰囲気というか、匂いがぜんぜん違う。

そういう所でやっぱりここが完全な異世界なんだなぁと、感じる。


城内を歩いてキョロキョロ見てみているけれど、ここの世界は、文明のレベルもそこそこ進んでいるのかな?

にしても目の前のこの石像は、これはどんな原理で常時水が出ているのだろうか。

マウスピースを洗う為に案内されたのは、中庭の水が出てくるライオンのような形の像の前、現在進行形で像の口から滔々と水が流れ出ているけど。


まぁ小難しいことは置いておいて、水質とか細菌とか心配だけど乾拭きした後に除菌のウェットティッシュで拭えば問題ないかな?

そんなことをしていたら、他のメイドさんがお茶会の準備が出来たと告げに来た、会場はどうやら専用のサロンがあるらしい。


待たせるのも申し訳ないので、洗い終わったマウスピースはタオルに包んで呼びに来たメイドさんについて、お茶会会場のサロンへと向かう。

時間は昼過ぎと推察されるのに城内の人通りは少なく、心無しかどこか静かな気がする。


中庭から暫く歩くと、先の方が今歩く廊下と同じ城の中とは思えないほどに明るくなっている場所が見えてきた、メイドさんはそこを目指しているようで、あそこが目的地だと教えてくれた。

その場所に着くと、どうやらそこはいわゆるサンルームにあたる場所のようで天井から壁に至るまでがガラスらしき透明な板張りになっていて、陽光がふんだんに入り丁度いい室温に保たれている。


「おや、来たかわざわざ呼び出してすまなかったね」

温室に入ると既に陛下は1人で席についてお茶を飲んでいた

「いえ、こちらこそすみません、来るのが少し遅れてしまいました」

「まぁ、好きな席にかけてくれ」

着席を促されて、陛下の右側の席に座る

みつきは反対側の席へ

「どうだろう、まだそんなに時間は経っていないが何か気付いたこととか、分かったこととかあるかい?」

「いえ、特には.....正直まだ色々頭の中で整理を付けられていないので」

「まぁ、そうであろうな。急に違う場所にいて『あなたが勇者です世界を救ってください』なんて私が言われても混乱する自信があるぞ?」

そう言って陛下は苦笑いをした。


「さて、この世界の事を話そうかと思うが、お二人共準備は宜しいかな?」

「「はい、大丈夫です!」」


「この世界はお二人がいた世界とは違う、それはもう分かっているとは思う。

先程も話した通り、魔法という物が存在する、この世界に住むものとっては魔法は日常だ、それを一度に理解するのは難しいかもしれない、そこで実演をして理解をしてもらおう。」

そう言って陛下は、席を立つと僕達2人に着いてくるようにと言って花壇の辺りまで歩いていった

「まずは、水の魔法からお見せするとしよう」

「וואַסער אויס אין מיין האַנ וואַסער פּילקע!」

陛下の発した言葉は理解が出来ない言語で、それを言い終えると陛下の手の上に握り拳ほどの綺麗な水の玉が浮かんでいる。

「これが水魔法だ、2人とも触ってみるかい?」

そう促されて、水の玉に触れてみる

無重力空間で漂う時のように真円の形をとって、触れると表面に波紋がおきる。


さわってみても別に普通の水、特段変な所がある訳でもない、ただ空間に浮かんでいるだけ


「これで、魔法の存在を少しは理解出来たかい?」

そう言って手を振ると水の玉はふよふよと植栽の方まで飛んでいって、弾けて土を濡らした。

「君達にも多分、というか絶対的に適性がある、でなければこの召喚は成立しないはずだからね」

「成立しない、ですか?」

「うむ、この召喚は召喚後に必ず対象者に魔法適性が出るものを対象に異世界から呼び出すものらしい」


らしい、とはこれまた大雑把な.....

「らしいって、なんで伝聞系なんです?」

「それがなぁ、召喚の魔方陣に関してはあまりハッキリとした記録がないのだよ、魔法陣の形状や、術式の詳細はあるものの、魔法陣そのものに組み込まれている、条件項目は記録がないということだ。」

「なるほど、そういう事ですか」

まぁ、確かに記録に残すにしてもそんな細かい設定は書き記さないこともあるか。

「さて、では君たちの話を聞こう

今回はそれを目的に呼んだのだからね?」


僕達の事......、さてどこから話せばいい物だろうか。そこから考えながら自分たちが地球という星の日本から来たこと、学生である事、そして最後にある仮説を話してみた。

「という事で、2人は生まれ育った環境は違えど概ねのことは先程お話した通りです。

で、ここからは自分たちの『勇者』の資質に関する仮説です。」

「ほう!もうそこまで行き着いたか、カズト殿は色々見ておられるのだな!」

「お褒めいただきありがとうございます、

先程2人で気分転換を図るために少し部屋で演奏をしてました。」

「演奏かぁ、そういえばなにか聞こえてきていたな、そしてその音のせいか気分が明るくなったような?」


「多分ですが、その気分が明るくなるというのが2人の勇者としての能力です。まだほんの一部ではあると思いますが。」

陛下はやや思案げに天井を見つめて、考えを纏めたようでこちらを向いた。

「なるほど、カズト殿が言ったことが本当ならばそれは我々の世界で言うところの『支援魔法』という部類に入る、支援魔法というのは味方の力を増幅させたり、敵の力に制限をかけたりする事が出来る。」

さっきトランペットに出てきた?マークの説明それそのままを陛下が言ったことで、仮説が確信へと変わる。2人合わせての勇者、そして勇者の力は【音楽】であると。


その後の話し合いで力の検証は後日行うこととして、僕達はこの世界で生きていく為の知識と魔法を現地の勇者がここに到着するまで学ぶ事を陛下から伝えられ、今日はそこで解散になった。


「かずとー、さっきの話聞いてたけど『2人合わせての勇者』勇者の力が【音楽】って事は今まで以上に練習頑張らなきゃいけないんじゃない?音飛ばしたりチューニング狂ったりしたら、何が起こるか分からないよ?」

......みづきさんは怖い事を仰るがその通りだ、もしそんな事があったら対象者に何があるか分からない、だから検証は必要だ。

「だな、これからも練習は続けていくこととして、失敗した時の事を確かめる為の検証はしっかりしないとな。」

これから始まるこの世界での検証課題と、そして新たな勉強の日々に向けて気合を入れるのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天然物勇者と養殖勇者のお話(仮) 小海 @c56koumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ