第8話 え?これって!?

夕暮れの校舎の一角、

音楽室での吹奏楽部の合奏が終わって

周りは蝉時雨が再びの覇権を取り戻し、

夏の賑やかさが辺りを覆う


「よーし、おつかれー!

 じゃあ今日はここまでだな。

 コンクールも近い、ドンドン追い上げていくぞっ!」

顧問の先生の統括が終わって

生徒達は気が抜けたのか、ざわざわとしだす。


「あー、終わったぁ~!

 もぅ、口痛くて吹けないよ~」

「んなこと言ったって、しょうがないだろ?」

女子生徒に話しかけられた

後ろの男子生徒は仁別もなく正論を返す。


季節は7月、期末試験も終わって

各部活はそれぞれの大会を目標に据えて

力を付けていく


「ねえ、和人試験の結果どうだったのさ?」

和人と呼ばれた男子生徒は少し考える素振りをした

「少なくとも、光希よりは良かったはずだぞ?」

光希は頬を膨らませた

「なんで、そう言えるのさ?見てもないのに。」

「ん?だっておまえが追試の教室に入るの見たし

 オレ、追試無かったからなぁー。」


「くっ、幼なじみのクセに生意気だぞぉ~!」

「はいはい、ごめんごめん。

 ほら、片付けの手が止まってるぞ?」


話ながらも、トランペットの整備をしていた和人は

既にケースにしまうところまで来ていた。


「あっ、もう。

 変なことばっかり言うから~」

てきぱきと楽器をケースに戻して

楽譜も片付け終わる

「ん、じゃあ光希。先に帰るからなぁ~

 お疲れさま~」

「あっ、コラ待ちなさい!」

逃がさんとばかりに飛び付いてくる光希


「おうおう、今日もお熱いね~!」

「流石は紅一点ならぬ黒一点のかずとさんだ!」

めざとく見つけた他の部員達が茶化してくる。


「そ、そんなんじゃないもん!」

「はっはっはっ、

何か勘違いをしてるんじゃないかな?

 君たち?ん?これはお仕置きが必要か?」

和人は手をワキワキと動かして異常な覇気をだす。


「や、やめて。あれだけはっ!!」

「ご、ごめんなさーい!」

悲鳴に近い声を出して、

他の部員達は脱兎の如く

逃げ帰っていったのであった

あれ?そんなになのかな?くすぐり攻撃。

手を見て考えてみるけど、まさかそこまでだとは。


うん、体験出来ないのが残念だな

「あれは、うん地獄だよね」

いつのまにかユーフォニアムをしまい終わった光希は

緊迫した顔で頷いている。

「さぁ、帰ろう!

 ありがと!待っててくれて♪」


別に待ってた訳じゃないけどね、

そんな考えはどこ吹く風で、

ケースを背負って音楽室から出ていく 


「それにしてもさ、今回の課題曲ムズすぎない?」

「そうだなぁ、

転びやすいのは確かにそうかもしれない

 あとは二小節目アーフタクトからの

連符がきついよなぁ

1stもtrも同じだから分かるけどな」


音楽室から出ると、一気に夏の蒸し暑い空気が肌をなでるムワッとした熱気の中を

お互い自分の楽器を持って、廊下を歩きだす

オレンジ色の傾いても、まだなお強い日差しが陰を濃く写し出していた


「あと、もう少しすれば夏休みだねぇ~

 なんか、予定とかあるの?和人は。」

「ん?夏休みの予定か?

 じぃちゃんの所には行きたいと思ってるけど、

それ以外は特に、だな。」

「そ、そっかぁ」


なんだろうな?

なんか、不思議なことを聞くやつだ。

玄関を出るとうるさい程の

蝉時雨はさらに音量を増して感じる。

いつもの道を駅へと向かう、

昼の陽をたっぷりと受けて、

熱せられたアスファルトからの

熱気で自然と汗が流れる


「それにしても暑すぎない!?

 ねぇ、帰りにサーティツーに寄ってかない?

 暑くて、冷たいもの食べたいよ~。」

「そうだな、暑すぎるな。

 いいぞ、寄ってこうか」


蜃気楼なのかな?

なにか光輝く魔方陣みたいなのが、

進む先の道に描かれてるような。

まぁ、そんなことあったら可笑しいんだけど

熱中症にでもなったかな?


「ねぇ、和人あのさ。」

「ん?どうした急に立ち止まって。」


光希が立ち止まった足元には、

さっき見たような魔方陣みたいなのが

ユラユラと輝いている


「あのさ、和人、私ね。。。」

「わたしっ!『おい、光希そこから離れろ!』

光希がなにかを言おうとした直後、

魔方陣が一層の輝きを増す。

慌てて、光希の手を取って

そこから離れようとするが

既に回りの景色は揺らいで行くばかりで、

右手には腕を掴んだままの光希が何故か頬を染めて棒立ちで立っていた。


不思議な光に視界が奪われていく、

そして、意識は光に溶けていくように薄くなっていく









_____あれから、どのくらい経ったのか

沈んでいた意識が再び浮上して、

辺りの静かな雰囲気を感じる


そして、肌をなでる風には不快な暑さはなく

むしろ心地の良い涼やかな風があたる。

あぁ、病院に運ばれたのかな?

路上で倒れたんだもんね。


「知らない天井だ。」

目を開けて不思議と口から漏れていた。

目に映る天井は病院のそれ、とは似つかない

上品な華美さがある天井だった。


「おぉ!お目覚めになりましたか!

 良かったです、すぐに陛下に報告してきますので

 どうぞ、まだお休みになられていてください。」


.....陛下に報告?

なにを言ってるんだろうか。

そう思っていると、

誰かが出ていって扉のしまる音がした。


首を巡らせてみるとベットの隣には

学校の鞄と、トランペットのケースが並べて置いてある

見回した室内は病院の病室とはかけ離れすぎている

豪華な部屋だ。

赤いフワフワとしてそうな絨毯は

部屋一面に敷き詰められて

縦に長い大きな窓が規則的に並んでいる


窓の外はカーテンが掛かって見えないけど

どうやらまだお昼位のようだ、

窓から差し込む日差しからすれば、そのくらいだろう


「どうかなさいましたか?」

今、いる場所はどこだろう?

と考えてると誰かが話しかけてきた。

「えっと....」

「あぁ、これは失礼致しました

 私は陛下よりお客様のお世話を命じられました

 イルシュと申します、

なんなりとお申し付けくださいませ」


見る限り完璧にメイド服だね、うん。

秋葉原とかのメイドカフェの様なものではなく

機能性をかなり考慮して作られているものだろう。


「あの、一緒に女の子がいたと思うんですけど

 彼女は.....?」

「お連れ様は、

お隣の部屋でお休みになられております。

 先程、お目覚めになられたとの事ですから

 ご心配はなさらなくても大丈夫かと思います」


そっか、光希も無事だったんだ。

なら、良かった。

それにしても、ここはどこなんだろうね?

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