第7話 先王たちの手記

執務室の机に向かい、

代々の王達が書いた手記と向き合う

どれも、

涙の痕跡や血の跡がついていて苦悩が伺える

覚悟を決めて、手記を開く

確認されている、最古の大活性の時の王の手記だ。

第6代アティア国王 

エンシュ・ブム・アティアが遺した手記

取水室の石碑を遺した王でもあるな。


《魔族達が暴挙に出始めてから1週間が経った、

 城の使われていない一室に召喚の魔方陣書き出し

 召喚の儀を行う

この儀式には王家の者の血が必要だと言う

 城就きであった魔法師達が、

必死になって見つけてくれた古文書には

こう記されていた。

 [この魔法は禁術に相当するが為に、

他の古文書には記さず、ここにのみ残す。

これは異界の者を呼び寄せる術

  国が危機の時の助けとなるが、

送還の魔法は見つかっていない

使用する際は、相応の覚悟をせよ。]

 まぁ、それも当たり前か。

 異界の者を呼び出そうと言うのであるのだから》


ふむ、やはり他の世界より人を呼ぶのだ

『責任』は大きい、

それに送還の魔法もまだこの世にはない

覚悟は半端な物ではすまないだろうな。


《異界からの勇者召喚に成功した、

何やら奇特な髪型をしたものだ

 【クラウン】の翻訳で会話を出来るようになり、

 その者はオダ ノブナガと言う者であると

言うことが分かった。

 ノブナガが言うには、

ホンノウジと言う場所で謀反を起こされ

 打ち取られそうになった所で、

気が付くとここに居たと言う

 そして、ノブナガはカタナと言う武器を

持ちかなりの使い手であった

 最初に魔法を見たときにノブナガは、

非常に驚きにとまどっていた

 彼の者の国には、

どうやら魔法は存在しないのだと言う。

なんと、勇者は理の違う世界から

連れてこられるようである》


なるほど、理の違う世界か。

魔法がない世界などがあるのか、

にわかには信じられんが事実なのだな。


そう言えば城の宝物庫に

反りのついたロングソードがあったが

これがカタナと言うものなのだろうか?


《ノブナガの居た国はニホンと言うらしい、

  "日本"と書くのが正しいと直に教わった。

  更に、カタナは刀。

  オダ ノブナガは織田信長と

書くと言うことも教えられた。》


日本、この国から最初の勇者が召喚されたのか

第6代王の手記に載っている、国についての記述はここまでか

次の手記はここから104年後に移って


第9代王 スティル・ハブ・アティア王の手記


《祖父から聞いていたが、

まさか魔族が虐殺をするとは

しかし、対抗策は祖父の日誌に

残っていたのが幸いだった

すぐに召喚の儀を開始した。

それほど時間も掛からず、召喚は成功した。

何やらキッチリとした服装を着た男が

魔方陣の上に立っていた

翻訳の魔法はすでに掛けてある

最初、帽子のヒサシに手を当て直立不動だった

男は辺りの様子に気付きひどく混乱していた。

名を訊ねると、ヤマモト イソロクと名乗り

ニホンテイコクカイグン、

シナノ カンチョウと続けた

ニホン、これは祖父の代に召喚した

勇者の国であろう》


ふむ、第9代王の召喚でも同国より

召喚がもたらされたか偶然の一致とは思いがたいな


《ヤマモトは召喚後、

説明を行うとなぜ言葉が同じなのかと聞いてきた

 魔法と答えると、不思議そうな顔をしたあとで

 魔法の習得と土着言語の習得を

させて欲しいと申し出てきた

また、この国の歴史にも

興味を持ち話をしていくうちに

 織田信長についての話で非常に驚いており

 ヤマモト曰く、国の偉人だったそうだ。


ふむ、やはり織田と同じ国からの者なのか。


《ヤマモトは自国言語を教えてくれた、

ニホンゴと言うらしい

 カタカナ、ヒラガナ、カンジという

3つの文字を組み合わせるらしい

徐々に学んで行く内に日本語に興味を持った、

そして、この日本という国にも興味を覚えた。

ヤマモトの最初に名乗った際の

言葉を漢字で教わった

山本五十六、日本帝国海軍、信濃艦長と書くとの事

信濃艦長というのは、

海を行く船という乗り物の長官と言うことらしい

にわかには信じがたいが、

魔法を使わない乗り物が異世界にあるらしい

山本は自国の事についてあまり、語りがらなかった

特に、最初の名乗りの言葉には

眉間にシワを寄せて話していた。》


なるほど、王家や城就きの者達に対する

日本国の教育は

勇者召喚をした際に、

勇者に言語の苦労を減らす為か

しかし、このときはまだ2度目の召喚

偶然で済ませられる範疇にあるな、

ここから考えられるのは


歴代の勇者は全員が日本の出身であるということか

そして、皆勇敢な心の持ち主であると言うことか

各代勇者の武勇は今になっても

お伽噺や伝説として受け継がれている

間違いなく、

今回も日本から勇者が呼ばれるのであろう


『..いか、陛下いらっしゃいますでしょうか?』

呼ばれる声に、手記から顔をあげると

辺りは夕方の様相をしていた、窓から差し込む夕陽は部屋をオレンジに染めて

チリが光を受けてキラキラと輝いている。


「すまない、先王達の手記を読んでいた。

 取り合えず、入れ。」

「失礼します。」

「なにか、用事か?」

「はい、本日の夕食についてお伺いに参りました

 こちらでお食べになりますでしょうか?」


そう言えば明日は、召喚だったな

夕食には少し考えた良いかもしれんな。


「あぁ、確かにそんな時間ではあるな、

ふむそうだな、自室へ持ってきてくれ。

あと明日の夕食についてなんだが

口を出したい大丈夫か?」

「は、あとで確認して参ります。

 では、後程陛下の部屋へ食事を運ばせます。」

「うむ、よろしく頼む。

 あぁ、あと食事を運ばせる者は

イルシュという侍女へ任せたい」

「畏まりました、そのように手配します。」


キルシュが部屋を出ていくのを見つつ、

明日の事を考える。

........にしても勇者か。

異世界の者に頼ってしか、この国は救えぬのか

二人の勇者、この国に誕生する者と召喚される者

気にしていても、しょうがないのか。


執務室から出て、廊下を歩いて行く

午後になると日の当たらない廊下は、

既に明かりが灯っている

ふと、風切り音が聞こえて中庭に目を向けると

兵士長のガトスと数名の騎士達が剣を振るっていた


階段を下りて、中庭へと向かう

流石に出入りの商人や、城勤めの者達は帰っており

廊下はシンと静まり返っていて、自分の歩く足音だけが響いている。


「ふむ、頑張っているね、ガトス兵士長。」

「これは、陛下!恐縮でございます!!」

「すまない、手を止めさせてしまったね。

 気にせずに続けてくれ。」

「あ、いえ、大丈夫です。

 そろそろ解散にしようと思っていたところです」


大活性が近いからか、

余計に力が入っているのだろうか。

流石は、アティア王国を

取りまとめる兵士長と騎士団なだけある


「ガトス、あまり力みすぎるなよ」

「はい、心得ております。陛下。」 


中庭から出るときにはまた、剣の風切り音の十重奏デクテットが響き渡っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る