第6話 召喚の儀の朝

カーテンの隙間から朝日が部屋に漏れてくる

天蓋付きのベットの紗に当り、

ベットの中は優しく明るくなり意識が浮上する


「朝、か。」

この日が来るのは王の中でも

数える程しか経験をしない

この経験は、幸運と捉えるべきなのだろうか。

今日ほど複雑な気持ちの目覚めは、

はっきり言って始めてだ。


ベットから降りて体の凝りを解すように伸びをして

そして、少しでも気持ちも

明るくするようにカーテンを開ける

上り始めの太陽はまだ、その位置を低く

しかし、眩いばかりの光を世界に届けている。


遥かに見える山々からは、

山肌が温められてうっすらと雲が出来つつあった。


今日の召喚の儀、もちろんと言うべきか

少しキッチリとした格好を

しなければならないだろうな。


衣装タンスを開けて、中身を改める

落ち着いた色の方が良いだろうか?

ふと、鏡に写った自分の顔を見てハッとする。

随分と疲れた顔色をしているな、

まぁ最近色々あったしな....

ここは明るい色で少し誤魔化すか。


水色のドレスを取り出して、着替える準備をする。

この顔色は自分の技術では隠し通せそうにないか...


『コンコン』

「はい」

「おはようございます陛下、

ご朝食をお持ち致しました

 入ってもよろしいでしょうか?」

あぁ、もうそんな時間になっていたか。

服選びに時間を掛けすぎたかな。


「ん、大丈夫だ入ってきてくれ。」

「はい、失礼いたします。」

「あぁ、それからメイド長のオルシュを呼んできて

貰えるか?」

「畏まりました、陛下。」


ふと、届けて貰った朝食に目を向ける

パンとスープ、フルーツとジュースと

変わりの無い至ってシンプルな朝食だ。

そういえばと

ノドの渇きを感じてジュースを口にする

爽やかな香りが鼻孔を抜け、気分が少し和らぐ

一口、もう一口と口に含むとオレルの

爽やかな酸味と程よい甘さが

舌の上を滑ってノドを潤していく。


はたと、着替えの途中だったことに気づいて

着替えを済ませてしまう。


さて、では朝ごはんと行こうか。


まずは、パンからいこうかな

フワッとした噛み心地は、

煮詰まりかけていた心をホロホロとほどいてゆく

一口、二口と咀嚼すれば塩気の中の仄かな甘味が段々と口の中へ拡がって

噛むのがやめられなくなっていく。

もっと、噛んでいたい衝動を抑えて

ゴクッと飲み込んでしまう


スープへと手を伸ばす。

まだ、時期的には早いがコーンスープだ

トロッとした口当たりが隅々まで行き渡って、

至福の甘味がフワッと花を咲かせる、

そしてその中であまり主張をせず

けれどもしっかりと存在感のある

旨味が甘味と混じりあって

それは、軽やかなワルツを踊っているかの如く

見事な調和を見せる


あっという間に、

パンとスープを食べ終えてしまって


フルーツのプドウをポンポンと房から取って行く

皮ごと口へと放り込み、トンッと噛んでみる

少しの弾力を見せてプチっと弾けた

その実からは、

フシャーと酸っぱすぎ尚且つ甘過ぎずして

そして仄かな渋味を含んだ果汁が溢れ出す

口の中で器用に種を選別して手に取りだし、

皿へとおいて行く

本来であれば、行儀が悪いのだが

誰も見てはいないし........ね?


やはり、食事と言うのは活力を与えてくれるな

気分も自然と明るくなるものだ。


ちょうど食べ終わった良い頃合いで、

扉がノックされた。


『陛下がお呼びとの事で参りました。

 メイド長 オルシュでございます。』

「あぁ、オルシュちょうど良いところに来てくれた

 取り合えず、入ってくれ。」

「失礼致します、どのようなご要件でしょうか?」

「ん?あぁ、少し顔色が冴えなくてな

だが今日は、召喚の儀でな

他のものに心配をかけるわけにも行かないので

そちのメイクの技術を貸してもらいたくて

呼んだのだ」

「左様でございますか、畏まりました。」


朝食は済んで、端に寄せてあったので

すぐにメイクが始まった。


「ふふふ、にしても懐かしいな」

「そうですね、陛下がまだお若い頃は

こうしてメイクの指導をしたものです」

「失礼な、まだそこまで年は重ねておらんぞ?」

「それは、失礼しました。」

そんなふうに軽口を言ってる間に、

オルシュは手際よくメイクを完成させた


「うむ、助かった、礼を言う」

「はい、また御用の際は何なりとお呼びつけ下さい

では失礼致します。」


さて、では参ろうか召喚の儀へ。


__________________

同日、同時刻、宰相室

「これくらい......でしょうか?」

にしても、突然の臨時宰相への昇格から

あれよあれよと仕事の立て続けで、

落ち着く時間などなかったな......。


椅子の背もたれにグダッと寄りかかって

天井を見上げる

これだけの仕事量をタビウスさんは、

ずっとこなしていたのか。


やはり、大国の宰相という役割は大変だ。


コンコン.....

「キルシュ宰相、起きておられるでしょうか?」

「あ、はい。大丈夫です。」

「失礼致します、先程召喚の間の準備が完了致しました

また、本日城門は開かずと伺っておりましたが

それで大丈夫でしょうか?」

「はい、召喚の間の準備ありがとうございました

召喚の儀が有りますから城門は開かずで大丈夫です」

「了解しました、それでは失礼致します」


それにしても、こんな時に宰相代理とは.......

我ながら運が無いのかはたまた、だな。


テーブルの上に乗ったカップを煽ると

少し温もりを残した紅茶が喉を通ってゆく

ティーカップを机に置いて、

その隣に置いてあるスコーンを手に取る

未だ、机に山積みの書類に目をやる。

「ハァ......」

これ程に溜まってると自然にため息も出る.....

手に取ったスコーンを口へと運ぶ

スコーンのほんのりとした甘さが少しばかりの活力を

与えてくれて、ちょっと思考を巡らせる

さてと、今後の事を考えると.......

あぁ、うん考えない方が身のためか。


今日やらなければ行けない事は......

召喚の儀で呼び出した者達の出迎えの準備と

今後の指導について、あとはこの後城へ訪れるであろう

この地の勇者の対応の準備、か。


そう言えば、異国の言葉の習得もしなければでした

こればかりは魔法は使えないですし........


やれやれ、今日もまた一段と忙しくなりそうですね

頑張らなければ。

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