第3話 勇者誕生

朝の陽射しが瞼に当たる

なにか、重いものが体に乗っている感覚がして意識が浮上してくる

ザラザラとした感触が頬を擦ってる...

でも、不思議と不快ではなくて気持ちいいくらいだ。

うっすらと目を開けてみる。

なんか、昨日見たような顔が目の前に居るね......

トカゲに似てる.........


「....エーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?

 ねぇ、なにしてんのちょっと!?

 なんで君がここにいるの!?屋根、壊してるし!!

 どうなってるのよ!」

早口に捲し立てた声は、やまびことなって街中に響き渡っていった


「エルカ!?なにかあっ.......」

「あっ!師匠!!助けてください!何がどうなってるのかさっぱりですし

 とりあえず起きれません!!」

私の叫びを聞いて駆け付けた師匠はあまりの出来事に扉を開けて絶句したまま固まっている


とりあえず、今確実に言えることは

『竜が屋根を突き破って、私の顔を舐めている』という事だけ。


そう、今私の顔を舐めている竜君

彼こそ、あの薬草園の園長先生。

まるで、街中の猫のように無警戒すぎてあきれるレベルの。

その猫君がなぜか、あ、いやいや竜君が町中にいる

外から聞こえてくる騒ぎは騒然としたものになってきている


「師匠!?なにボサッと突っ立てるんですか!

 早く布団の上のレンガをどかしてください、起きれないんですよ!」


余程の衝撃なのか、再起動に時間がかかる師匠。

「あ、うん、すまない今どかすからな、

 それより、食べられたりしないだろうな....

 その近づいても。」


まぁ、普通はそうなるか

竜だもんね、それに近づけって言ってるんだもんね。


「大丈夫です!いつもの上質な薬草の産地はこの子の巣ですから!」

「そ、そうか.....エルカが言うのなら大丈夫なのだろうな」

ようやく再起動してくれた師匠が、レンガを片付けおわると同時に

外から一際大きい声聞こえてきた

「あの、大丈夫でしょうか~?

 あ、私はこの町に王都より派遣されたリグスという者なのですが

 色々お話があるので、お邪魔をしたいのですが~?」


王都から派遣された兵士さんが何でだろ?

まぁ、それは置いといて。

「ねぇ、もうそろそろペロペロするのやめて欲しいんだけど。

 服もベットベトだし、あとで会いに行くからさ。ね?」

宥めるように話すと、無警戒な野良竜は翼を広げ山へ飛んでいった。


「ふぅ、やっと行ってくれた。

 あの、師匠の?口が開きっぱなしですけど?」

「ん、あぁ、うん、すまない

 あまりの出来事だったので....。」

それにしても、なんなんだろ?竜が町中に来るなんて

しかも、甘える猫みたいに.....。

改めて思うけど、威厳が無さすぎる。


「エ、エルカ?先程薬草は竜の巣で摘んできたっていっていたよ...な?」

「はい、確かにそう言いましたけど?」

「い、いや、そうか。うん、なんでもないぞ?」


さて、シャワーを浴びちゃうかなぁ

竜のヨダレでベトベトだよ、もう!


「師匠、ちょっとお湯を浴びてきますね」

「お、う、うん。いってらっしゃい」


簡単にタオルをもって部屋を出る

焔石を水に入れて適温の温度で、頭からお湯をかぶる。

シャワーもあるんだけど、今はこっちの方が良いかな?

竜君のヨダレがお湯に流されて行く

あぁ、気持ちがいい。

よし、どうせのついでだし全部洗っちゃえっ!


お風呂場の端に置いてあるポンプに手を掛ける

ポンプを押すと、キラキラと煌めく水色のジェルが出てくる

これ実は、HPポーションの出来損ない。

でも、意外なことに出来損ないのポーションは

汚れを落としてくれる効果があるって師匠と見つけたもの


発見したあとは、わざとポーションに込める魔力量を調整して

出来損ないのポーションを作って、リカタクの粉を少し混ぜたものを

こうして、ポンプに入れて石鹸として使ってるのだった。


リカタクの粉は料理によく使うもので

水に加えて火を入れるとジェル状になる。


ポンプから出したジェルを手で泡立てていく

それで髪の毛を洗ってお湯で流す

フワッとトモモオの甘い香りがお風呂場に広がって

気分を和らげてくれる。


ふと、竜君がなんで町中に出てきたのかと頭によぎって来た、

師匠も驚いてたけど、ん....あれ。

なんか、知ってる顔してたけどなんだろ?

そんなことを考えつつ細かい網の目に縫った鉄蜘蛛の糸で作った布の

ポーションをつけて泡立てて洗っていく。


鉄蜘蛛は、巣作りに透明な尚且つある程度の固さの糸で巣を作る

これは、防具の下地に丁度良く保温性も高くて肌触りも良い

ただ、鉄蜘蛛は非常に討伐に手間が掛かるので高級品だったりする。


全身を洗い終わってお風呂場を出る

持ってきたタオルで体を拭いて

そのまま体に巻いて脱衣場を出て部屋に向かう


「えっ、ではやっぱり...ですか。」

「はい、王宮の地下から出てきた石碑の伝承にはそう書かれていましたので」

「ふむ、なるほど」


「師匠~、お客さんですか?」

「あ、あぁ、そうだ先程の兵士さんだ。」

部屋に向かうためにリビングに出た

「あぁ、あの!は、初めまして!この村に派遣されたリグス・サイルと申しま...

『バタンッ』

あっ、鼻血で見事な花を咲かせて倒れちゃった。

「なぁ、エルカよ男性にはその格好は刺激が強いかと思うぞ?」

師匠の呆れた声に良く良く考えてみて目線は下に向く。

「.....っ!」

「しっ!師匠!早く言って下さいよっ!」

「いや、警戒心が無さすぎなのだ、エルカ。

 少しは意識をしなさい」

まぁお風呂上がりにバスタオルを巻いた姿なんて見たらこうなるか...。

「ほら、早く着替えて来なさい風邪をひいてしまうぞ?

 それから着替えてたら、下においで大事な話があるんだ。

 この、兵士さんは私が介抱しておこう」

「はーい」


大事な話?なんだろ。

そんなことを思いながら、3階へ上がっていく

竜くんに壊された屋根は師匠の魔法で応急修理が施してあり

窓からはすでに昼前の日差しが入って来ている。


取り合えず、髪を乾かして適当な服を着る

一応、エプロンもしとこっか。

朝ごはんもまだだったしね....。


階段を下におりるとソファーでは兵士さんが唸っていた

ちょっと、というか結構複雑な気持ちだけどね。


「ん、エルカ来たか。そこに座ってくれるかい?」

「はい、あの。えっとその前に朝ごはん食べても良いですか?

 お腹が空いちゃって。」

「あぁ、朝ごはんもまだだったか

 よし、私も貰おうかな?」


さくさくっと、朝食の準備をする

パンに焼いたコベンを乗せて野菜を入れて挟む

飲み物は朝だしシウホ茶が良いかな。


作りたてのサンドイッチを頬張れば、ふわふわのパンにカリカリに焼いたコベンが

良いアクセントを与えて、パンの甘味をコベンの塩気が引き立たせる

そして、その中でしゃきしゃきとした野菜の食感はまたなんとも

小気味の良い音がリズムを加えてより一層の美味しさをもたらしてくれる


「うむ、美味しいな。」

「ありがとです!」


パンにちょっと持っていかれた水気をシウホ茶で潤す

丁度良く火の入ったシウホ茶の茶葉は芳ばしい香りの中に

まろやかなお茶の旨味を残して喉を通って行く。


それにしても、話ってなんだろう。


「さて、そろそろ良いかな?エルカよ。」

朝ごはんが終わったタイミングで師匠が話を切り出してきた

「竜が顔をなめていたときから、もしかしたら?

 とは思っていたのだがな....。」

「はい?」

「とりあえず、エルカよ。

 どうやらお前は勇者になったらしい。」

「えっ、えっと。はい?」


あれ?なんて言った師匠。勇者?勇者って言った??

なにそれ、おいし...そうじゃないよね、うん。

とりあえず、お茶を『...ガッハ、ゴホゴホッ』


「エルカ、落ち着きなさい

 さて、じゃあ順を追って話していこうか。」

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