七話:転校生と本音と笑顔の話
「私は大丈夫、私は大丈夫よ」
少女は扉の前でそう呟いた。
「そうよ、絶対大丈夫、怖くない、怖くない」
扉の前で少女は自分を鼓舞する。
大きく深呼吸をして、自らを落ち着かせる。
「行くわよ私、こう、なんか……やるわよ!」
そして少女は扉を開き、皆の前で高らかに宣言する。
「はじめまして。私、
どうかよろしくお願いします」
いくつかのかわいらしいぬいぐるみに囲まれた部屋の中、一人の少女の声がこだました。
少女、金本玲奈は自分の部屋で一人、思案する。
そしてベッドに倒れこみ、自分の挨拶を反芻する。
「……もうちょっとこう、何か、柔らかい印象の方がいいのかしら……!」
玲奈は再び立ち上がり、もう一度挨拶の練習を始めたのであった。
----
「転校生ですか?」
「うん、新しい子が来週の月曜日から来るんだって」
学校から帰ってきた真昼がそのような事を伝えてくる。
転校生が来る、ということはこのあたりに引っ越してきた子がいるのだろう。
「仲良くなれるといいなー!」
「そうですね」
真昼も転校生のようなもののはずだが、既にすっかり馴染んでいてそのような空気を全く感じさせない。
純粋に新しく友達が増えることを楽しみにしているといった様子である。
そういうところが、朝美にとってうらやましくみえるのであった。
「それじゃあお姉ちゃん。私遊びに行ってくるね!」
「はい、いってらっしゃい」
そういうと真昼は元気に外に駆け出していく。
朝美はその様子に目を細めてから、本を読み始めた。
----
「今日って転校生来るって言ってたよな!」
「楽しみですねー」
「うん!」
由希とエマが朝美に楽しげに話しかける。
一方で恵は少し不機嫌そうな顔をしていた。
「わたしは……別に」
「また緊張してんのめぐちー、大丈夫だって!」
「……別にしてないし……」
恵がぷいとそっぽを向くと、朝礼の時間を知らせるチャイムが鳴った。
全員がいそいそと席に戻る。
先生が来て、朝礼が終わり、そしてとうとう転校生が入ってくる。
扉が開き現れた少女は、まつ毛は長く、髪は真昼のそれとは少し違う長めのツインテール。整った顔立ちはとてもクールな印象を与える。
正に美少女と形容するにふさわしい容姿であった。
「はじめまして。金本玲奈です。よろしくお願いします」
少女、金本玲奈は凛とした態度でそう言って深々とお辞儀をした。
動きもどこか洗練されているように感じる。
真昼も思わず少し見とれてしまうほどであった。
その後、玲奈は真昼の隣の席にやってくることになった。
「はじめまして。私、天崎真昼。よろしく、玲奈ちゃん」
「……」
玲奈は真昼をじっと見つめる。
その顔は冷たく無表情であった。
「あの……名前……」
「あ、ごめんね、名前で呼ばれるの嫌だった?」
「……別に」
そういうと玲奈はぷいと顔を背けた。
その後、いくつかの授業が終わって休み時間になる。
真昼はさっそくまた玲奈に話しかけようとする。
「玲奈ちゃん玲奈ちゃん」
「……何か」
「えーとね」
何か言おうと考えていると、そこに由希がやってくる。
「あ、由希ちゃん」
「野菜!」
「……え?」
「野菜好きか!!」
突然振られた話題に玲奈が明らかに狼狽えた。
由希はだいたいいつもこんな感じである。
「……え、ええと、別に」
「えー!野菜食べなきゃだめだぞ!えっと、名前なんだっけ!」
「玲奈ちゃんだよー」
「そっか!じゃあ、れいれいでいいかな」
突然出てきた謎の言葉に、玲奈が困惑する。
「えっ……れいれい……?なにそれ……?」
「あだ名だけど」
「長くなってる……!!」
玲奈の口から思わずツッコミが出てくる。
それを聞いた真昼が思わず微笑んだ。
軽く咳払いをした玲奈に、改めて由希が詰め寄る。
「で、れいれい。野菜は食べなきゃだめだよ」
「な、なんで」
「なんでじゃないよ!野菜はおいしいし体にいいんだよ!!」
「ごめんね玲奈ちゃん、この子、小清水由希ちゃんっていって、八百屋で野菜が好きなんだよ」
真昼の補足説明を聞いた玲奈はなんとなく納得したようなしてないような微妙な顔をする。
そこに、恵とエマもやってきた。
「はじめましてです!」
「……あ、ええと」
玲奈は、エマの姿を見て少し驚いたような顔をする。
エマはそれに気付いてか気付かずか、由希とは違って自分から自己紹介をする。
「私、土屋エマです。こうみえて日本育ちですから安心してくださいです」
「そ、そう……」
そして少し後ろの方で、恵は話しかけづらそうに見ている。
流石の恵も学校にはるーちゃんを持ってこれず、彼女を知るものから見ると少し心細そうにしているのがわかる。
「あ、この子は青木恵ちゃん。私たち、だいたいいつも一緒に遊んでるんだ」
「……そう、よろしく」
玲奈はそれだけ言うと、特にそれ以上会話を続けず、ただ顔をじっと見ていた。
由希とエマは顔を見合わせて不思議そうな顔をした。
「えっと、玲奈ちゃん。私たち、玲奈ちゃんと仲良くなりたいと思うんだけど、どうかな?」
「……」
玲奈は何も答えず、四人の顔をじっと見る。
その表情はあまり機嫌がよさそうには見えない。
そして口を開こうとしたとき、授業の再開を知らせるチャイムが鳴った。
「あ、やばい!じゃあまたあとでな!」
そう言って由希たちは足早に席へと戻る。
玲奈はなんとなく口をもごもごさせて見送った。
「……ちょっと騒がしいかもしれないけど、みんな優しいよ」
「……そう」
玲奈はそれだけ返すと、再び真昼から顔を背けるように前を向いてしまった。
----
放課後、真昼は玲奈と話そうとしたが、迎えが来てるとの事だったのでそのまま見送り、古書店に帰ってきた。
「おかえりなさい真昼さん」
「ただいまー」
「ええと、そういえば、転校生の方は来られたんですか?」
「うん、金本玲奈ちゃんって子」
そう答えて、真昼はうーんと唸った。
朝美は不思議そうにその様子を見る。
「どうかしました?」
「んー、なんだろう……ちょっと話すの失敗しちゃったかも」
「真昼さんにも、そんなことがあるんですか」
「そりゃそういう時もあるよー」
朝美は、真昼はすぐに誰とでも仲良くなってしまうものだと思っていたのでその言葉には少し驚いた。
驚いたがよく考えればその方が自然であるということにも気付き、考えを改めた。
「ええと、それじゃあ、どうなんでしょうか」
「んー、でもね。もっと仲良くなれそうな気はするんだ。
だからもうちょっと頑張ってみるよ」
「そうですか……頑張ってください」
それでも、仲良くなれそうと言える真昼を、やはり朝美はすごいと思うのであった。
----
一方家に帰ってきた玲奈は、ベッドに倒れこむとそのままじたばたと暴れ始める。
「うあーーー!失敗したー!!どうしてあんな態度になっちゃうのよ私ー!!」
そのままベッドの上をごろごろと転がり枕に顔をうずめる。
「あんなに話しかけてくれたのにどうしてちゃんと言うことが出てこないのよー!もー!!」
独り言を大きな声で叫びながら布団の上を転がり、じたばたと暴れる。
しばらくその状態は続き、やっと落ち着いた後、はあ、とため息をついた。
「どうしよう……もう嫌われちゃったかな……
あーもう、どうして上手く話せないんだろう……
あんなに練習したのに挨拶も上手くできないし……!
なんかこう、考えているうちに話すタイミングを失っちゃうっていうか……
あー、せっかくあんなに親しげに話しかけてくれたのにー!」
枕をばふばふと叩きつけながら、玲奈は今日の行いを後悔する。
あれだけ挨拶の練習もしたのに効果はまるでなかった。
「真昼ちゃんに、由希ちゃんに、エマちゃんに恵ちゃんかあ……
名前を覚えるだけなら出来るのに……」
玲奈は今日の自分の行いを後悔し、再び深いため息をついた。
枕を抱えながらごろんと仰向けになって、また今日のある事を思い出す。
「……れいれい……れいれいかあ……れいれいかあ!……ふふふ……
……はあ」
ちょっとだけ嬉しそうな顔をしたのもつかの間、また暗い表情に戻ってしまう玲奈であった。
----
その次の日、学校で再び真昼と玲奈は顔を合わせる。
「おはよう玲奈ちゃん!」
「……おはよう」
「昨日はなんていうか、ごめんね。
いきなりあんな風にわっていったんじゃ驚いちゃうよね」
「……別に」
玲奈は少しうつむいてそう返す。
真昼は少しだけ待ってから、ゆっくり話し始める。
「んーと、私たち結構わーって行っちゃうとこあるからさ、そういうところ、嫌だったら言ってね?」
「……別に」
玲奈はまたそう返す。
真昼はその言葉に返答するのをまた少し待つ。
「……嫌なわけでは、ない」
再び玲奈が口を開き、ぽそりとそう言った。
真昼は微笑んで玲奈にまた話しかける。
「そっか、よかった。みんなと仲良くできたら、私も嬉しいな」
「……そう」
そうしているうちにまた授業開始のチャイムが鳴った。
玲奈はまた目を背けるように前を向く。
それでも真昼は昨日よりは安心した心持ちで授業を受けた。
----
「トマトとかを食べるとな、あんまり風邪しないんだぞ。
キノコはだめだ、あれは風邪ひくから」
「そう……」
由希のよくわからない話に微妙そうな表情で相槌をうつ玲奈。
その様子を見ながら真昼は苦笑する。
「由希ちゃん、あんまり野菜の話ばっかだと玲奈ちゃん困っちゃうから」
「うーん、じゃあどうしよう?れいれいは放課後とか遊べるの?」
「放課後……」
玲奈のもともとあまり芳しくない表情がさらに曇ったように見える。
真昼が心配そうに待つと、玲奈は口を開く。
「その……お迎え、あるから」
「そっかー……じゃあまた今度な!」
「……」
玲奈はまた顔を逸らしてしまう。
次にエマがまるで臆することなく玲奈に話しかける。
「玲奈ちゃん、玲奈ちゃんはお菓子好きですか?」
「……お菓子?」
「私のおうちは和菓子屋さんなんです。今度食べに来ませんですか?」
「……考えとく」
玲奈はそれだけぽつりとつぶやく。
恵はというと、真昼の後ろでじっと玲奈を見つめるだけで、話しかけることはしなかった。
そして放課後、玲奈は本人の言うとおりに迎えの車に乗って帰って行った。
----
「そうだ……その後、転校生の子とはどうですか」
「んう……んー、そうだなー、一歩前進した気はするかなー」
珍しく朝美が自分から真昼に話を振る。
真昼は晩御飯のハンバーグをほおばりながらそう答える。
朝美と真昼が一緒に作った自信作だ。
「そうですか……真昼さんなら、きっと大丈夫だと思います」
「お姉ちゃんがそう思ってくれるならきっと大丈夫な気がするよ」
そういって真昼はえへへと笑う。
それにつられて朝美も微笑んだ。
----
「……今日も上手く話せなかったなー……でも、嫌われてはいないみたいでよかった……」
玲奈はまたベッドの上でごろごろと転がりながら今日のことを反省する。
「でもなー、放課後遊ぼうって誘われたのに車で帰るの言い訳にして逃げちゃった……もう誘われなくなっちゃうかなー……」
玲奈はしょんぼりとうなだれながら枕を抱きしめる。
最近はずっとベッドでこのように転がる毎日だ。
「おうちが八百屋さんや和菓子屋さんなの、楽しそうでいいなあ……
……キノコはだめかあ……ふふふ……」
玲奈は思い出し笑いをしながら少しずつ眠りについていった。
----
翌日も真昼たちと玲奈との間に大きな進展はなく放課後となり、そのまま別れた。
真昼はどうすれば仲良くなれるかを思案しながら宿題をしている。
そのため朝美は邪魔をしないようにそっと買い物に出かけることにした。
「真昼さん、悩んでいるけど交友関係で私に手助け出来ることなんてないでしょうし……うーん……」
そう悩みながら歩いていると、曲がり角から少女が現れた。
朝美はあやうくぶつかりそうになりながらもなんとか直前で立ち止まる。
少女の方も少しびっくりしたようで朝美の表情をうかがっていた。
「あ、ごめんなさい……少し、ぼーっとしていました」
「……いえ」
その少女は、朝美にとってはあまり見覚えのない少女であった。
まつ毛は長く、髪は真昼のそれとは少し違う長めのツインテール。整った顔立ちはとてもクールな印象を与える。
正に美少女と形容するにふさわしい容姿であった。
「……」
「……」
「あ、その、どうぞ」
「……すみません」
しばらくお互いに見合う状態が続いていたが、朝美が道を譲り、少女は今まで朝美が来ていた方向に足早に歩き去った。
朝美はそれを見送ってから再び歩き出す。
それから朝美はしばらく店に向かって歩き続けていると、再び前から先程の少女が歩いてくるのが見えた。
「……あれ?」
「……」
先程自分の後ろを通ってきたはずの少女が何故前から?と疑問に思う。
少女の方も何かおかしいと思ったらしく辺りを見回してその道を引き返そうとする。
なんとなくおかしい気がした朝美は思い切って声をかけることにした。
「……あの」
「ひゃう……」
間の抜けた声をあげ、ゆっくりと少女が振り向く。
声をかけたはいいが、その先朝美はなんといえばいいのか、とても困ってしまっていた。
「……あの……私……知らないひととは……」
「あ、ごめんなさい……その、私は、この商店街にある古書店を経営してる、天崎朝美といいます」
「……天崎」
少女は体も朝美の方に向け、朝美の顔を観察するようにじっと見つめた。
近くで見られるとさらに美少女だということが認識でき、朝美は少しだけ見とれてしまった。
「……」
「ええと、その、どこか、行きたいところが、あるのでは?」
「……」
少女はしばらく考えるような顔で朝美を見る。
そして、少しずつ話し始めた。
「……和菓子屋さん」
「和菓子屋さん?土屋さんのところですか?」
「……そう」
土屋和菓子店、少し前であれば朝美にも場所はピンとこなかったが、今ならばどこかわかる。
「あの、よければ、案内できますが……」
「……」
少女はしばらく無言で朝美をじっと見つめたあと、ゆっくりと頷いた。
朝美が、それは肯定ということでいいのかと考えあぐねいていると少女は目線を再び朝美に向け、つぶやくように言う。
「……あの、金本玲奈、です」
「え」
「私の、名前、玲奈です。よろしく、お願いします」
「……あ、はい。わかりました。では、いきましょうか。玲奈さん」
そうして、朝美は少女……玲奈を連れて土屋和菓子店へと向かう。
途中ではお互い一言も話さず、商店街のにぎやかさだけが響いていた。
どうしよう、何か話した方がいいだろうか。と朝美は考える。
しかしあまり話すのが好きな子でもなさそうだしどうしたものだろうか。とも考えてしまう。
「……」
「……ええと、土屋和菓子店には、おつかいですか?」
「……」
「あ、いえ、その、純粋に気になっただけなので……」
「誘われたから……行ってみたくて……」
玲奈は少しだけ言いよどみながらも、そう言った。
一見するとクールに振る舞っているようにも見えるが、朝美には彼女が上手く話すことが出来ないでいるということがなんとなく理解できた。
「それは……もしかして、エマさんにですか?」
「……はい」
「あの、もしかしてですけど、真昼さんが言っていた転校生の子……ですか?」
「……やっぱり……えと……真昼、ちゃんの……」
「はい……その、姉、です」
どうやら予想は正しかったらしい。
最近このあたりに引っ越してきたばかりなので道に迷ってしまったのだろう。
これも何かの縁として、どうにか彼女と真昼が仲良くなる手助けができないだろうか。
いや、自分にそこまでのことが出来るとは思えないが、ちょっとしたきっかけだけでも何か出来ないものだろうか。
「……」
「……」
そう考えて無言でいるうちに、土屋和菓子店にまでたどり着いてしまった。
朝美は内心で少し後悔しつつも玲奈と共に土屋和菓子店に入ろうとする。
「あれ?朝美お姉さんと玲奈ちゃんです!」
と、その時ちょうど外に出ようとしていたらしいエマに声をかけられた。
その隣にはるーちゃんを抱えた恵もいる。
「……二人、知り合いだったの?」
「ああ、いえ、私は先程偶然出会いまして……」
「……」
「あっ!もしかして玲奈ちゃん、うちの和菓子食べに来てくれたんですか!?」
玲奈がびくりとしてエマを見る。
「ええ、ここに来たかったらしいので、案内したんです」
「……あ……その……うん」
「嬉しいです!じゃあ、どうしましょうか!玲奈ちゃんさっそくおはぎとか……
あ、でもこれから遊びに行くんでした……どうしましょう恵ちゃん」
「……」
恵はちらりと玲奈を見る。
玲奈はびくりと少し体を震わせ、エマは不思議そうな顔をしたまましばし静寂の時間が流れた。
その様子を見た朝美は、もしかして恵とこの子は上手くいってないのだろうかと思い、どうにかできないかとおろおろと狼狽える。
静寂の時間を破ったのは、意外にも玲奈だった。
「……あ、あの」
「なに……?」
「……その子……えっと……」
「るーちゃんがどうかした……?」
恵は少し不安そうな顔で玲奈を見る。
玲奈は少しの間口ごもっていたが、やがてなんとか口を開く。
「……るーちゃん、かわいいね」
「……」
また少しの間、静寂があたりを支配した。
恵は思わぬ言葉に少しの間、面食らった表情になった。
しかしその後すぐに恵はとても嬉しそうな表情を玲奈に向ける。
「……見る目、あるね」
「え……あ、えっと」
「ねえ玲奈ちゃん!だったらこれから私たちと一緒に遊ぶですよ!
真昼ちゃんと由希ちゃんも誘うです!」
「あ、その」
「……来て」
先程の態度とは一転して積極的になった恵は期待するように玲奈を見る。
玲奈は慌ててなんとなく朝美の顔を見たりする。
見られた朝美は少し狼狽えながらもなんとなく頷いた。
「……い、行く」
「やったです!じゃあ行きましょうです!」
「行こう、玲奈。あさねえも」
「……えっ、私もですか?」
----
そうして四人は天崎古書店へとやってきた。
朝美に至っては成り行きでまだあまり買い物もしていないうちに帰ってきてしまった。
「あ、姉ちゃん!めぐちーにエマ子にれいれいも!」
「由希ちゃん!ちょうどよかったです!みんなで遊ぼうと思ってきたです!」
「あれ?お姉ちゃんも一緒だったの?」
「ええと、その、はい、ただいま。真昼さん」
偶然にも遊びに来ていた由希と、宿題を終えたらしい真昼が四人を出迎えた。
そういえば真昼以外の子は全員宿題は終らせているんだろうか、と朝美は少し思ったが口には出さなかった。
「由希、玲奈は結構話がわかる子……」
「知ってるよ、ナスの話もアスパラガスの話もちゃんと聞いてくれたし!」
「うちにも遊びに来てくれたです!」
三人が口々に玲奈の話をする。
玲奈はなんとなく恐縮するように朝美の隣に立っていた。
そこに真昼が駆け寄ってきて、玲奈に話しかけた。
「ね、みんな優しいでしょ?」
「……ん、うん……」
「うん、怖い気持ち、なんとなくわかるよ。でも大丈夫だよ」
真昼は玲奈にやさしく微笑みかけた。
それを見た朝美は、不意にある言葉が頭をよぎった。
うまく言えるかはわからないが、朝美はその言葉を言ってみることにした。
「玲奈さん、少し、大丈夫ですか?」
「……はい」
「ええと、言っていましたよね。エマさんのところには、誘われたから行ったって」
「……」
「そうです!私が誘ったです!」
それを聞いた朝美はしゃがみこんで、玲奈に目線を合わせる。
玲奈は一瞬目を逸らしそうになるも、勇気を振り絞るように朝美の方を見た。
「それは、玲奈さんが、エマさんと……皆さんと仲良くしたかったから、ですよね」
「……」
玲奈は頷いた。
それを見た朝美は優しく微笑む。
「だったら、大丈夫ですよ。
玲奈さんも、みなさんも、ちゃんと自分から歩み寄ろうと……
仲良くしようと、しているんですから」
「……」
「……あ、の、えっと。その、ですね」
朝美は自分で言ったことがちゃんと伝わっているかどうか今一つ不安で、まだ何か言えることがあったかどうか必死に考える。
と、そのうちに玲奈が少し前に出て、大きく深呼吸した。
「……由希ちゃん、恵ちゃん、エマちゃん、それに真昼ちゃん。
私、その、人前だと、なかなか上手に話せなくて!
だから、今までその、友達も少なくて!
転校して、なんとか変わろうと思ったけどその、上手くいかなくて!
でもみんな、優しく、話しかけてくれて、その、嬉しくて!
だから、私……あの、みんなと、友達に、なりたいです!」
玲奈はそれだけ言い切ると、何度も呼吸を繰り返す。
それを聞いて、真っ先に動いたのは由希だった。
「れいれい、れいれいってさ、にんじん苦手でしょ!」
「えっ……なんでそれを……!」
「だってにんじんの話の時だけ嫌そうな顔してたもん、すぐわかるぞ!」
「あう……」
「でも、許す!れいれいとあたしは友達だからな!」
玲奈は由希の顔を見る。太陽のような満面の笑みだった。
「……るーちゃん」
「え?」
「るーちゃんとも、友達?」
「……あっ、う、うん。るーちゃんとも、友達になりたい!」
「じゃあ、わたしとも、友達」
恵は少しだけ恥ずかしそうにるーちゃんごしに微笑んだ。
「私も!玲奈ちゃんともっと仲良くなりたいです!おはぎとか、おまんじゅうとか美味しいですよ!」
「……うん、おはぎとか、おまんじゅうとか、私、大好き!」
「やったー!私もですよ!」
エマはまるで当然のことのように爛漫に笑った。
「……あの、真昼ちゃんは……」
「もちろん、出会った時から友達だって思ってたよ!」
「……うん……うん、ありがとう……」
「ほら、泣かないで。ね?はい、ハンカチ」
「……うん」
真昼は玲奈を優しく抱きしめてハンカチを渡す。
朝美はその様子を見てゆっくりとそこから離れる。
「お姉ちゃん」
「あ……」
「ありがとね!お姉ちゃんのおかげだよ!」
真昼の言葉に、朝美は少しだけぎこちない笑顔を返す。
みんなが仲良くなれてよかったと思うその朝美の笑顔は、みんなと仲良くなれてよかったと思う玲奈の顔に少しだけ似ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます