空中戦!

「ふん……私だけでも十分だがな。……くっ!」


 乙女がそう言っている間に、翼竜が急降下してきて爪で攻撃してくる。

 それを、乙女は横っ飛びでかわした。そして、剣で反撃しようとしたときには、すでに翼竜は上空へ移動している。


 巨体でありながら、敏捷性も高い。


 これは厄介だ。あの勢いで攻撃されては、真っ正面で迎え撃つのは難しい。あそこまで上空へ行かれては、いくら跳躍力が強化されているといっても、届かない。


「そ、そうでしたっ! 雄太さんの希望していた飛び道具ですが、ようやく実装されたんです! スカートの中に入っています!」


 それは朗報だ。さっそくスカートの中をゴソゴソと漁ってみる。

 ……おっ、これか? そうして、俺が取り出したのは――


「……。ブーメラン……ですか、これは……」


 この「く」の字型は、どう見てもそうとしか思えない。

 かなり軽くて、一見すると、プラスチック製の玩具にしか見えないのだが……。


 飛び道具って、もっとこう、近代兵器的なものはないのだろうか……。なんでビームサーベルを作れる科学力があるのに、ビームライフルを作らないんだっ!


 シリアスな戦いの場だというのに、いつもの調子で突っ込まざるをえなかった。


「これが、男の娘ブーメラン試作型です!」


 なんでも男の娘ってつければいいと思ってんじゃないだろうか。だが……まぁ、まさかこれが、ただのブーメランってことはないだろう。仮にもビームサーベルを開発できるほどの科学力を持った男の娘戦士推進団体だ。期待しよう。


「これは……普通に投げればいいんですよね?」

「はいっ、説明書には、投げて使うって書かれていました!」


 もうそれ、説明書いらなくないか? まぁ、あんな翼竜と正面きって戦うよりはマシか。


「よぉしっ、行くよぉっ!」


 気分的に女の子言葉になりながら、俺は助走をつけて男の娘ブーメランを投げた。すると――


 ――フィイイイイイイイイイイイン!


 ブーメランは急に輝き出してビームを纏うと、空中にいる翼竜へ一直線に向かった。……おおっ、これ、追尾機能つきなのか!?


「……ギャォオオオッ!?」


 ブーメランは翼竜の胴体に当たってダメージを与えると、再びこちらに戻ってくる。この攻撃で、翼竜の空中での姿勢がわずかに乱れた。一撃で倒せるようなものではないが、少しは効いているようだ。


「……よっ!」


 戻ってきたブーメランを掴んだときには、もうビームは消えていた。

 なるほど、なかなかいい武器だ。


 正直、なんてものを開発したんだと思ったのだが、実際使ってみるとわからないものだ。ともかく……これなら空を飛んでる翼竜相手でも大丈夫そうだ。弥生はというと、こちらを見ているだけで、攻撃してこない。

 なら、まずは翼竜をなんとかしたほうがいい。


「ギャウウウウンン!」


 そう頭の中で算段をしていて俺に向かって、翼竜が急降下してくる。

 このタイミングでは、ブーメランを使えない。


「うおわっ!?」


 なんとか転がりながらも、翼竜の攻撃をよける。しかし、


「えっ、うわ!?」


 牙の攻撃をよけたと思ったら、俺の体は翼竜の足の爪で掴まれてしまっていた。そのまま、上空へと運ばれてしまう。


「ゆ、雄太さんっ!」

「牝野っ!」


 くそっ、じたばた動けども、まったく抜け出せない。

 そして、翼竜は空高く舞い上がっていき、ついに雲の上まで上昇してしまう。


 ……ま、まさか、ここから落とす気かっ!? いくら強靭なパワードスーツがあるからっていっても、この高さじゃ……!


 しかし、そのまさかだった。翼竜は俺を掴んでいた爪をパッと開く。


「う、わあああああああああっ……!?」


 落ちる……! 落ちる落ちる落ちるぅうう!? うわぁ、これは、やばい、真面目に死ぬかもしれんっ!


 俺はなす術もなく、猛スピードで落下していく。くそっ……ここで、終わるのか!?まだ、俺はなにもしちゃいない! このまま弥生を正気に戻すこともできないまま、地球の平和を守ることができないまま、誰が好きなのか明確になることもないまま、死ぬのかっ!?


「牝野さんっ!」


 パニックになりかけた俺に、ペン子さんの声が聞こえた。


「えっ……? って、ペン子さん!?」

「助けに来ました! 私の背中に乗ってください!」


 なんで空中にペン子さんが……っ! て、そうか! ペン子さんは飛行することができるから、助けに来てくれたのかっ!


 ペン子さんはス空中でうまく姿勢を制御しながら、俺の足元に背中を向ける。俺も、両手と両足で、うまくその上に着地した。


「た、助かりましたっ……。ほんと、命の恩人ですっ」

「いえいえっ、これぐらいお安い御用です!」


 ほんと、ペン子さんは優秀だ。あのとき、ペンギンスーツを呼んでいなかったら、俺は死んでたかもしれない。


 あとは、このピンチをチャンスに変えることだ。


「ペン子さん、このまま高度を上げられますか? このままビームサーベルで一気に翼竜を倒してしまおうかと!」


「ええっ! 燃料に余裕もありますし、いけますっ! ……で、でも、男の娘ソードは……その……あまり使いすぎると……」


「えっ、まずいんですか?」


「あ、いえ……! な、なんでもないですっ! わ、わかりました! 翼竜から距離をとりながら、向こうよりも高度を上げますねっ。落ちないように、しっかりと掴まっててください!」


 なにかを隠しているようなペン子さんの言動に引っかかるところもあるが、まずは翼竜を倒すことだ。いくら翼竜の動きが速いといっても、、ペン子さんのブースターに比べれば遅い。


 ――ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!


 両足のブースターがさらに出力を増して、楕円を描くようにしてして急激に高度を上げていく。さすがは科学の力。翼竜よりも高い位置を取ることができた。


「……よぉおおおおし! いっくよぉ!」


 風圧に負けないようにしっかりと立ち上がり、スカートから男の娘ソードを取り出して、両手で握りしめる。


 ――ヴィィイイイイイイイイイイイイイイイインンンッッッ!


 ピンク色のビームが、ソードを形作る。いつもよりも、高い出力だ。しかし……それとともに、自分の身体からエネルギーが吸い取られるような感覚がした。


 ……もしかして、これがペン子さんが口ごもっていた理由か? 


 しかし、今はそんなことは気にしてられない。今ここで目の前の翼竜を倒してしまわないと。何度もチャンスはないだろう。


「……くっらえぇええええええええええええええええええええええええええ!」


 俺はペン子さんの背中からジャンプすると、落下の勢いも利用して翼竜の背中にソードを突き立てる。


「ギャッウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッーーーーーーーーーーー!?」


 体の下には爪がある翼竜も、背中は無防備だった。


 俺の攻撃をもろにくらって、翼竜は落下する――ことなく、その場で消滅した。当然、俺の体は重力に従って落っこちていく。


「……雄太さんっ!」


 ペン子さんが急降下してきて、落下中の俺を背中で受け止める。


「よっと……! ありがとうございます、ペン子さん! ナイスキャッチです!」

「ええっ! 雄太さん、すごく格好よかったですよ!」


 それもこれも、ペン子さんの協力あってこそだ。いい手応えだった。


 だが、やはり……体からエネルギーが吸い取られているような感覚がある。やっぱり、このソードにはなんかあるのか……? まぁ……それを訊くのは、弥生のことをどうにかしてからだ。


 そのままペン子さんは高度を下げていって、校庭へ着地した。そこでは、乙女と弥生が対峙していた。


「牝野……どうやら、やったようだな?」


 翼竜の断末魔は下にまで聞こえていたようだ。


「ああ、なんとかな……」


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