決戦は校庭で

 当然、その後のホームルームも授業も、上の空だった。

 教師の話している内容がまるで頭に入っていかない。

 気がつけば昼休みになっているようだった。


「……おい、牝野。それでは、飯でも食べながら、さっきの話の続きを……」


 そして、乙女に声をかけられたタイミングで――それは起こった。


「おわっ! なんだ、ありゃあ?」

「ああん? んだ、あの黒いんは?」

「ちょ、校庭にブラックホールとか、マジありえないんですケド!?」

「空想科学の時間だああああああああああああああああああああああああっ!」


 クラスメイトの騒ぎにつられて窓の向こうを見てみるとに、校庭の上の空に巨大なブラックホールが出現した。

 そして、次の瞬間――


「グギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 幻獣が現れた。


 しかし、こいつは……ティラノ型ともトリケラトプス型とも違う……今回は翼がある。プテラノドンに近い。


 ブラックホールから現れた幻獣は、地響きを立てながら地上に着地する。そして、校舎の窓がビリビリと揺れるぐらいの咆哮をする。


「学校に現れるとは……やっぱり、向こうに情報は筒抜けのようだな! ふんっ、手間が省けるというものだ! ……変身ッ!」


 乙女は手首に巻いていたブレスレットを目の前でかざす。すると、瞬時に全身が剣道着型のパワードスーツに包まれた。


「貴様ら……! 怪我をしたくなかったら、窓から離れていろ!」


 乙女は教室の窓を開けると、躊躇することなく地上へ飛び降りる。普通の人間なら大怪我する高さだが、パワードスーツはそんな衝撃も吸収してしまう。


「おおっ、男川がんばれー!」

「応援してるよー!」


 乙女の忠告をまったく聞かずに、クラスメイトは窓から歓声を上げていた。


「っつーか、あれ……あの怪獣の頭に乗ってんのって、双木じゃね?」

「はっ? ああっ! マジで双木じゃん!」

「なんで双木くんが怪獣に乗ってんのぉ?」


 その会話を聞いた瞬間、俺は窓際にものすごい勢いで駆け寄っていた。


「うわっ、なんだよ牝野! 押すなよ!」

「牝野のくせに生意気だぞ!」


 そして、俺は自分自身の目で、弥生が怪獣の頭に乗っているのを確認した。あの顔を見間違えるはずがない。


「……っ!」

「ゆ、雄太さん!?」


 俺は、今度は逆に教室のドアに向かって、廊下に飛び出した。そして、階段を全速力で駆け下りて、校庭へ向かう。


「……ゆ、雄太さんっ!」


 そのあとを、ペン子さんも追いかけてくる。しかし、待っている余裕など今の俺にはなかった。



 俺は校庭までやってきた。

 そこでは、乙女と幻獣……そして、その上に乗っている弥生と対峙しているところだった。


「ふん、双木……やっぱり貴様は敵だったか」


 弥生は翼竜から飛び降りて地面に着地すると、俺たちのことをじっと見つめてきた。その瞳は暗く、冷たくて、いつもの人懐っこい弥生のものではない。


「弥生っ!」


 呼びかけるも、まったく反応がない。まるでそこに、感情が存在しないかのような無表情だった。


「牝野、余計な情をかけるなっ! こいつは、地球を侵略しようとする宇宙人の手先なんだぞっ!」


 乙女は剣を構えるや、一気に間合いを詰めて弥生に向かっていく。そして、跳躍しながら正面から斬りかかった。だが、


 ――ブィイイインン……!


「くっ!?」


 弥生の半径三メートルほどが青いバリアのようにに包まれて、乙女は剣ごと弾かれた。それでも乙女は空中で回転しながら体勢を立て直して地面に着地し、再び剣を構え直す。


「ギシャアアアアアアアッ!」


 そこへ、巨大な翼竜が翼をはためかせながら、突っ込んでくる。それを乙女は自ら横に転がりながら回避する。


 翼竜は乙女がかわしたのを確認すると、上空へ飛んで地上をうかがい始めた。

 巨体で空を覆われると、かなりの圧迫感がある。


 しかも、絶えずバサバサと翼をはためかせているので、かなりの風圧が襲ってくる。しっかり足で踏ん張っていないと、飛ばされてしまいそうだ。


「こうなったら、やるしかないのか……」


 生身のままここに留まるのは危険すぎる。


 弥生と戦うのは気が進まないが、このまま乙女を一人で戦わせるわけにはいかない。それに、翼竜によって校舎が破壊されてしまうと、教室の連中に死傷者が出る恐れだってある。


 俺はポケットから男の娘石を取り出すと――


「……男の娘になぁ~れ♪」


 いつものの台詞を口にした。それとともに、光の渦が体を覆っていき、顔と体つきが変わっていく。


「なっ!?」


 乙女が驚愕の表情で、俺が変身する姿を見ていた。

 ……結局、俺が男の娘戦士だということを教えていなかったからな。


「なんだと……!? 牝野が男の娘戦士だったというのか!?」

「ああ、俺で悪かったな!」


 もうこうなったら、乙女の前で女言葉を使う必要ないだろう。素のままでいかせてもらう。仲間になった時点で、いつかバレることだったしな!


 ……あとは、そうだ。生身のペン子さんがここにいるのは危険すぎる。


「ペン子さんは校舎に戻っていてください!」

「い、いえ……わたしも、戦いますっ!」

「た、戦うって……無理ですよっ!」

「大丈夫ですっ! こんなこともあろうかと、今日は呼び出しボタンを持ってきていますから!」


 ペン子さんは制服のポケットからリモコンのようなものを取り出すと、そのうちのボタンの一つを押す。


 すると、数秒ほどして、俺の家の方角から、高速でなにかが飛来してきた。それは乙女と翼竜の間を突っ切って、ちょうどペン子さんの目の前に着地した。


「……これって、いつものペンギンスーツですか?」

「ええ。呼出し機能がついているんです!」


 ペン子さんはペンギンスーツの背中についているファスナーを下ろすと、その中に入りこんだ。すると、今度はファスナーが自動で引き上がった。


 これで、こちらの戦力は上がった。弥生とは戦いたくないが、まずはあの翼竜をなんとかしないと!


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