告白
☆
そして、月曜日。下駄箱を開けると、そこにはハートマークで封がされた手紙が入っていた。
「なんだこれは……不幸の手紙か?」
小学生の頃はよくもらったものだが。
「それって、ラブレターじゃないでしょうか? 女子高時代に、私もたくさんもらいました……」
やっぱりペン子さんの過去についていは、一度じっくりと聞かせてもらいたいところだ。百合は心のオアシスだからな。
「俺がラブレターなんてもらうわけないじゃないですか。だって、俺ですよ?」
自分で言ってて悲しくなるが、だって、俺だもん。
不幸の手紙以外でもらったものといえば……ああ、小学生時代に乙女からなんかもらったことがあったな。
空き地で待つ。刻限は一時半。一人でこの場に来ること――とか書いてあって、見るからに果たし状だったからスルーしたが。翌日、なぜか俺は泣くまで乙女から殴られたが。
「えーと、なになに……」
どんな不吉なことが書かれているのかと胸を躍らせながら、その手紙を読んでみる。
「ゆーくんへ 大事な話があるので、すぐに屋上へ来てください」
差出人は書いてないが……俺のことをゆーくんとか呼ぶ人物は一人しかいないので、弥生だろう。
これは……ついに、弥生自身の口から重大なことが告げられるのだろうか。どうしよう、本当に弥生が宇宙人で、いきなり襲いかかってこられたりしたら……。まだ、弥生と戦う心の準備はできていない。
「なんて書いてあったんですか?」
「あ、いや、うん。不幸の手紙でした。この手紙と同じ内容のものを三十通送らないと、童貞のまま三十歳を迎えても魔法が使えなくなるって書いてありました」
「そ、そうですか……」
ここでペン子さんに嘘をつく必要はないのかもしれんが……やっぱり、手紙の内容を他人に教えるのも戸惑われた。
それに、弥生とは一度、一対一でちゃんと話し合いたい。だって、敵だ味方だという前に、俺と弥生は友達なのだから。
「……んじゃ、ちょっとトイレ寄ってから行くんで、先に教室に行っててください」
「あ、はい。わかりました」
ペン子さんと別れて、俺はそのまま屋上へ向かう。
普段は鍵がかけられている屋上のドアだが、鍵が壊されていた。不吉な気持ちになりつつも、ドアの前で立ち止まっているわけにもいかない。
俺は、重い鉄製のドアを開いて屋上へ出た。
そして、すぐに目的の人物は見つかった。
「あ、ゆーくん。来てくれたんだ!」
「お、おう……」
男子制服姿の弥生が、躊躇することなく俺に抱きついてくる。
相変わらずいい匂いで……もう、媚薬でも嗅がされてるんじゃないかってぐらいクラクラしてきてしまう。
「あのね……大事な話だから、心して聞いてほしいんだ」
弥生は一度顔を離して、俺のことを真剣な表情で見つめてくる。
「……ああ、わかった。なんでも言ってくれ」
たとえ弥生が宇宙人だろうと、もう俺は驚かない。覚悟はできている。
「それじゃ……言うね」
ごくっと、俺は唾を飲み込んだ。さあ、なんでもこいっ!
「……ボク、ゆーくんのことが……好きなんだ」
「……えっ?」
えぇえぇえぇええっ!?
それは、予想していなかったわ……!
まさか、ここで愛の告白とはっ……!? ペン子さんの言う通り、本当にあれはラブレターだったのか!?
あまりにも想像を超えた事態に、返す言葉が出てこなかった。
てっきり宇宙人だと言われるのかと思っていたのだが……。
絶句して立ち尽くす俺を見て、だんだん弥生の顔が寂しげなものに変わっていく。
「……ゆーくん、ボクのこと……嫌い?」
「えっ、あっ、その……」
待て、待て待て待てっ! 心の準備ができていない!
そりゃあ、弥生のことは大事な友達だとは思っている。弥生が女の子だったら付き合おうと考えたことも、これまでに何度かあった。つうか、本当にどっちなんだ、性別は。宇宙人であるかどうかも大事だが、そっちも気になる。
「ちょ、ちょっと待て。まず、聞かせてくれ。弥生、お前は、その……男なのか? 女なのか? それと……その、宇宙人なの……か?」
「うんと、それは……」
「そ、それは?」
「……全部、イエス」
「えっ……」
全部イエス……だと? じゃあ、それの意味するところは――
「そう……。ボクは男の子であり女の子であり宇宙人なんだ」
「な、なんだと……? えっ? えっと、そうなると、つまり……それは」
「ボクは両方あるから、男のであり女の子なんだっ!」
なんということだ……。……実は女なのかと思っていたら、女であり、男だったなんて。これは想定の超超超範囲外だ。
「ずっと黙っててごめんね……でも、気持ち悪いでしょ? ボク、男のでも女の子でもないんだから……」
「い、いや……そんなこと思ってないぞ、気持ち悪いだなんて……」
ただ、衝撃が大きすぎるというか……。とにかく、そのあとの言葉が続かない。
そんな俺を見て、弥生の表情は曇っていくばかりだった。
「……やっぱり、ゆーくんは普通の女の子と付き合ったほうがいいよね……。おとちゃんもいるし、ゆりちゃんもいるし……」
「え、あ、いや……」
そう言われると……本当に、俺は誰のことが好きなのか。改めて考えても……やっぱり、よくわからない。
乙女は昔からの幼馴染だし、ペン子さんは、この間、微妙な空気になったとはいえ、あくまでも俺を支援してくれる存在だし……。
「ごめんね……急にこんな話をして。……でも、最後にゆーくんにボクの想いを伝えておきたかったから……」
「なっ……最後って、どういうことだ?」
「ボク、地球侵略の前段階のために送られたスパイなのに、ここのところ真面目に仕事をやってなかったからね。今日、呼び出しがあったんだ。もしかすると、『コントロール』されちゃうかもしれない」
「……『コントロール』?」
「余計なことを考えないように、それこそ命令されたことしか考えられなくしちゃうんだ。だから……もしまたゆーくんの前に現れたときは、以前のボクじゃないかもしれない」
「な……なんだそりゃ」
宇宙人ってのは、そこまでするのか?
「ボクも上司には恩義があるからね。本当はこうして自由に飛びまわれる身分じゃなかったから。……もし、ボクがゆーくんに襲いかかるようなことがあったら、そのときは容赦なく倒して」
「え……そ、そんなことできるわけないだろ?」
「……ボクは地球のことも、この学校のことも、クラスのみんなのことも好きだから……。もちろん、おとちゃんやゆりちゃんのことも。それを滅ぼすぐらいだったら、男の娘戦士の……ううん、ゆーくんの手にかかって死んだほうがいいよ♪」
そう言った弥生は、笑顔だった。……それはどこか達観したような、吹っ切れたような表情に見えた。
「それじゃ……ゆーくん。ばいばいっ♪」
弥生がそう言った瞬間、背後にブラックホールが拡がる。そして――
「……今までありがとう、ゆーくん」
「弥生っ!」
弥生の姿はブラックホールが縮まるとともに、その場から消えていった。
伸ばした俺の手は、もう弥生のもとへ届くことはなかった。
「くっ……いったい、なにがどうなってるんだ……。弥生……」
本当に弥生が宇宙人で、しかも戦わなきゃいけないことになるのか……? くそっ……なんでこんなことに……。
チャイムが鳴って、立ち尽くていた俺は、ようやくのことで教室へ移動した。
「あっ……雄太……さん?」
俺の尋常じゃない様子に気がついて、ペン子さんが俺の席へやってくる。
「ん? 牝野……貴様、なにかあったのか……?」
そして、乙女も俺のところへやってきた。仲間としてはここで弥生のことを話すべきなんだろうが…………今は、話す気にはなれない。
「ああ、いや……まぁ、ちょっとな……」
「なんだ……? まさか、双木のことと関係があるのか?」
さすがに乙女は鋭い。
……まぁ、いつもはこの時間に席にいて俺にスキンシップをとってくる弥生がいないのだから、そのことと関連付けるのは難しいことではないのかもしれないが……。
「……想像に任せる」
本当に弥生と戦うことになるなんて、考えたくない。どうしても現実を認められない俺がいた。
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