テレビ放送される男の娘戦士
……で、夜である。漁港直送の新鮮で美味な刺身を食べた俺は、ペン子さんと一緒に食後の緑茶を飲んでいた。
いまだに会話がぎこちない状態で気づまりなので、テレビをつけたのだが――
『……こちらが、政府の対幻獣戦略室所属の女の娘戦士・男川乙女さんと、突然現れた謎の美少女戦士です。この謎の美少女戦士については、先日の政府発表にはなかった存在で、官房長官からは、現在、謎の美少女について確認中とのコメントが出ています』
……うん、ネットだけでなく、当然、テレビでも俺の存在はクローズアップされていた。いまの時代、誰しもがすぐに動画を撮れてアップロードできるからな。
いろいろな人によって撮られた俺の動画が、テレビで紹介されている状況だ。
公共の電波なんで、俺がスカートに手を突っ込んでいるところとかのアレなシーンはカットされていたが……。
しかし……こうして、自分が幻獣と戦っている姿をテレビで見てみると、なんか現実感がないというか……。本当に、俺、昨日はあんな凶悪そうな幻獣と激闘を繰り広げていたんだなぁ……。
冷静になって見てみると、命がけの戦いをしていたんだと思う。観客どもがアレな連中ばかりだったので、闘っている最中は緊張感がなかったけれど。
幸いなことに、死傷者は出なかったらしい。乙女が早めに登場したというのも大きかっただろう。乙女が駆けつけるのが遅くて、幻獣に見境なく暴れられていたら、死者0ということはありえなかったろう。
そう考えると、俺たちの戦いのひとつひとつに人命が絡むということにもなる。いまさらながら、責任の重さというものを感じてきた。
ま、まぁ……あの抜群の身体能力と武器があれば、大丈夫だとは思うけど……。
しかし、これから先もずっと戦い続けなければならないと思うと、少々気鬱ではある。いつ幻獣が現れるかわからないわけだし、深夜や早朝に急襲されるということだって考えられる。それに、学校で授業を受けているときとかは、どうするんだってことにもなる。
「雄太さん……その、すみません」
「えっ!? な、なにがです?」
突然、ペン子さんから謝られる。なんか、今日は謝られてばっかりだ!
「その……平和な学生生活を送っていた雄太さんを、闘いの場に引きずりだすようなことをしてしまって……」
ペン子さんも、テレビの画面を見ているうちに、いかに闘うことが危険なことかを再認識したのだろう。
いかな強力なパワードスーツがあるとはいえ、ちょっとしたミスひとつで死に至る危険性だってある。それに、闘いの最中に一般人が死亡するようなことだってありうる。そうなれば、俺はその責任を感じながら生きてくことになるだろう。
しかし、地球の平和のためには……俺と乙女が戦わなきゃいけない。通常兵器が効かないなんて意味不明な状態なのだから。
「男の娘戦士推進団体には、ほかにも男の娘戦士候補はいるのですが……パワードスーツを制御することすら、できていません。それだけ、雄太さんが一発であれだけの動きをしたことは、本当にすごいことだったんですっ。なんとか雄太さんの手助けをできる人材を増やしたいのですが、育成計画のほうは現状では頓挫しているようなものでして……」
多くの男の娘戦士を揃えられるのなら、それがベストなんだろうが。なかなか駒がそろわない状況ということか。……女の娘戦士のほうも、現状、乙女だけだし。
まさか、幼なじみ同士。俺と乙女に地球の命運がかかることになるとは思わなかった。そんな、壮大な話にはならないでほしいとも思うが。……荷が重すぎる。
「まぁ……ともかく、乙女たちと対立している状況はなんとかしたいですね……。現状、戦力が二人しかいないんじゃ、いがみあっている場合じゃないですよ」
「はい、そうですよねっ……。きっと、遠からず、なんとかなるんじゃないかと思いますっ。これだけテレビで男の娘戦士の活躍が取り上げられているんですから、政府としても無視できないと思いますっ。雄太さんが、乙女さんと一緒に闘ってくれたおかげですっ!」
そう言って、ペン子さんはいつものような元気を取り戻して、
「……私も、微力ながら、全身全霊、雄太さんのサポートをさせていただきます!これからも、どうぞよろしくお願いいたします!」
そして、もう一度、勢いよく頭を下げた。
「いや、頭を下げすぎですって。あと、謝る必要もありませんよ。こんなによくしてもらって、俺だって、本当にペン子さんに感謝してます!」
ペン子さんが来てからというもの、毎日が楽しい。家にひとりでいると、ネトゲをやったり動画を見たりしているだけで時間が過ぎていくだけだったから。
「ともかく、ペン子さん……こちらこそ、これからも、よろしくお願いします!」
ちょっと今日はペン子さんとの間に微妙な雰囲気になったりもしたが……やはり、いまは戦いに集中すべきだ。
雑念を振り払って、俺はその夜を何事もなく過ごした。
……愛だの恋だの、そういうものは、そのあとだ。
まだ、俺の気持ちはいろいろと揺れ動いている状態だし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます