動画閲覧とテクニシャンなペン子さん

「本当に今日は、お疲れ様でした、雄太さん! 今日は腕によりをかけて料理を作りますね! あっ、お風呂も入れないと!」


 家に帰るや、ペン子さんは忙しく家事をこなし始める。手伝おうかと思ったが、俺が余計なことをしても能率が落ちるだけだろう。

 とりあえず、自室へ戻って、学生服をハンガーに掛けて、私服に着替えた。


「ちょっと、ネットでも見てみるか……。さんざん動画を撮られたっぽいからな……」


 はたして、どうなっていることやら……。

 パソコンの電源を入れて、さっそく動画サイトを見てみることにする。


「うっ……」


 やっぱりというか、なんというか……。注目を集めているのは、さっきの騒ぎに関する動画だった。早くもアップされているとは……。


 再生してみると、俺がスカートの中をごそごそ漁ってソードを探しているところや、パンツ丸見えで戦っているところなど、恥ずかしい場面のオンパレードだった!


 アップされてから十分ぐらいなのに、再生数は数万を超えていて、コメントも大盛況。

 「露出狂キター!」「変態だー!」「でもかわいいから許す!」……などなど、アレなコメントの数々が書きこまれている。

 そして、大手ポータルサイトや、ニュース・まとめサイトでも俺と乙女の話題で持ちきりだった。


「……はは……はははは……」


 もうほんと、乾いた笑いしか出てこないというか。有名になりすぎだろ……。

 これで、正体が俺だと知れたら、どうなるんだろう。石とか生卵とか投げられそう。


「お待たせいたしましたっ! 料理の下ごしらえができましたので、まずはお風呂へどうぞっ!」


 そこで、ペン子さんから声をかけられる。

 昨日と同様に、ペン子さんは背中を流してくれるらしい。


 階段を下りると、そこにはスク水姿のペン子さんがいた。昨日の約束(というか、一方的にペン子さんが言い出したようなものだが)を律儀に守っているようだ。


「あ、あのっ、体操着のほうがよかったですか? そ、それとも別のコスチュームがいいですか? リクエストありましたら、お気軽に仰ってくださいっ。メイド服やチャイナドレス、マニアックなところでは割烹着やリクルートスーツなんかもありますが……!」


 本当に、どういう団体なんだ……。


「いえ、まぁ、なんでもいいです」


 ここであれこれ悩むのも、どうかと思う。そもそも、リクルートスーツ姿で背中を流すとか、マニアックにも程がありすぎるだろう。


「そ、そうですか? では、ええと、やっぱり今日は競泳水着にしますねっ。いつも同じだと飽きてしまうと思いますしっ」


 ペン子さんのその選択もよくわからない。ともかく俺は今日も脱衣所で服を脱いで、タオルで股間を隠しながら浴室に入って、椅子に腰掛けた。


 やがて、髪を後ろにまとめた競泳水着姿のペン子さんが浴室に入ってくる。相変わらず(といっても、二日目だが)、実に美しい容姿をしていらっしゃる。


「それでは、始めますね」


 ペン子さんはスポンジにボディソープを垂らすと、絶妙の力加減で背中をゴシゴシと擦り始めた。

 ……う、うまい。昨日よりも、上達している気がするっ!


「どうですか? 気持ちいいですか? かゆいところとかないですか?」

「は、ひぃ……いいです、とてもぉ……」


 ふだんは自称クールな俺も、ペン子さんの背中流しテクニックの前には、ふにゃふにゃになってしまう。ああ、なんて気持ちAんや。


「きょ、今日は髪を洗わせていだきますね?」

「か、髪、ですかぁ……?」

「ええ、今日の戦いで汗をかいていると思いますし、私もできることをしたいですっ」


 職務熱心なことだ。俺としても、断る理由はない。

 行きつけの床屋をカット専門の低料金チェーン店にしてから、他人に髪を洗ってもらうことって、なかったからな。けっこう、髪を洗ってもらうのって、好きなんだよな。


「そ、それじゃ、失礼しますね……んしょ」


 ペン子さんは手を伸ばしてシャンプーを手に取ると、手のひらに液体を出す。そして、それを俺の頭に優しくこすりつけていく。


「あ、もっと、激しくやってもらっていいですよ?」


 むしろ、そのほうがいい。もっと、強くしてぇ!


「わ、わかりましたっ」


 ペン子さんは両手で俺の頭をわしゃわしゃし始める。


 お、おおおおおおおおぉおおおおおおお! ご、ご、ご、極楽じゃぁああ~! ペットが頭を撫でられて喜ぶ気持ちが、今ならわかる。もっと、もっともっと撫でちくり~!


「ど、どうですか? 痛くないですか?」

「と、とんでもない。すごく、いいですぅ……くせになりそうです……はぁっはぁ」

「そ、そうですか? 喜んでもらえて、私も嬉しいです!」


 わしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃ……!

 頭をもみくちゃにされるように洗われて、俺はほぼ絶頂しそうだった。


「そ、それじゃ、流しますね」


 ペン子さんはシャワーを取ろうとして、手を伸ばす。そのとき、二つの膨らみが思いっきり背中に当たった。


「ふぉおおおおおおおおおおおおおっ!?」

「きゃっ!? ご、ごめんなさい、わ、わざとじゃないですっ!」


 いや、謝る必要は1ミクロンたりとも、この世に存在しない。ってか、わざとだったら、それはそれで問題があるっ!


 ふぉおぉおぉ……しかし、水着越しとはいえ、いい感触だ……。


 こ、こんなことをクラスメイトに知られたら、命が危うい。そもそも、背中を流してもらってる時点で、校内引き回しの刑に処された上で、校庭のど真ん中に磔にされても文句を言えない。それぐらいやりかねない連中でもある。


 ……にしても、ペン子さんの胸って、けっこう大きいんだよなぁ……。ぺったんこの乙女とは、まるで違う。弥生は……って、待て待て、あいつは男だから関係ないだろうが。しっかりしろ、俺!


 ともかくも、今度はハプニングも起こることなくシャワーで泡を流してもらった。これで、ずいぶんとさっぱりした。

 そのあとはペン子さんに外に出てもらって自分でちゃんと体の前側も洗って、湯船に浸かったのであった。



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