はいてる&はいてない

 そして、路地を再び走っていると、スカートの中に入っている携帯電話が震えた。

 なんだ、こんなときに、誰だ? 画面を見ると、「ペン子です」の件名。本文には、『スカートの中に対幻獣用の男の娘ソードが入っているので、それを使ってください!』と書かれていた。

 ……。は、はあぁああっ!? スカートの中ぁああ!?

 ちょ、ちょっと待て。なんでそんなところに物騒なものが。そもそも、ペン子さんいつの間に、俺のメアドを調べたんだ!

 混乱した頭で走っているうちに、ちょうど俺は幻獣に囲まれている乙女のいるメインストリートに出てしまった。

「っ! なんだ貴様は!」

 そして、飛び出した場所は、ちょうど恐竜に挟まれている乙女の真ん前だった。乙女は傷こそついていないが、疲労しているようで、少し息が上がっている。

「え、……えへへっ♪ 困ってるみたいなので、ちょっと助けにきちゃったり……☆」

 今回も努めて女子高生っぽく言ってみる。

「ふん、貴様の手を借りるほど落ちぶれてはいない!」

「ちょ、ちょっとぉ! せっかく助けに来てあげたのにさー!」

 なんか、女の子言葉って、しゃべるのけっこう面白いかもしれないな! 

 いかん、このままでは身も心も男の娘になってしまうじゃないか!

「っ! 来るぞ!」

「へっ? きゃああっ!」

 トリケラトプス型が突進してくるのを、転がりながら、よける。思わず、女の子っぽい悲鳴を上げてしまった。我ながら、いい声だ!

 にしても、危なかった! いきなりやられるところだった。

 というか、マジで怖いな。あんな巨大な足で踏み潰されたら、死ぬだろっ! 

 でも、この男の娘戦士専用パワードスーツのおかげで、信じられないぐらいに敏捷性が上がっている。生身の俺だったら、あのまま潰されていた。

 ともかく、今度はこちらから攻撃しないと。って、本当にスカートの中に男の娘ソードがあるのか?

 まさか、こんな乙女だの、遠巻きに見ている観客もいる中で、スカートを漁るのか!? ……無理。それは絶対、無理だ!

 その間にも、幻獣の爪や角による攻撃をされて、何度もかわしていく。

 慣れてくれば、そう難しいものでもないかもしれない。乙女はというと、かわしながらも、反撃までしている。たいしたやつだ。

「グルォオオオオオッ!」

 それでも、幻獣は突進を繰り返す。そして、思いっきりビルにぶち当たる。

 ――ドゴォオオオオオンッ!

 ビルの上半分がメチャクチャになって、粉塵が下にまで降りかかってくる。

 たまたま、工事中のビルだったからよかったものの、飲食店とかが入ってるビルだったら、死傷者がでかねない。

 くそっ……こうなったら、個人の恥を気にしている場合じゃない!

「ええっと、どこだ、男の娘ソードは!」

 俺は上からスカートの中に手を突っ込んで、ソードを探す。なぜか、下着までトランクスじゃなくて、女性用下着に変わってるからな。いったいどういう仕組みなんだ!

「おおおおおおっ、昨日の美少女がスカートの中に手を突っ込んでるぞ!」

「はよう、録画を! はようっ!」

「動画撮影の時間だあああああああああああああああああああああああ!」

 ぐああっ、観客どもからいらん反応がっ! ってか、クラスメイトが混ざってるじゃねーか! うわあ、もうこれは一秒でも早く武器を探さねば!

「あっ……こ、これかっ!?」

 よく見るとスカートの内側にポケットがついていて、手のひらサイズの棒が入っていた。……いや、なんぞ、これ……。

 疑問を浮かべながらそれを手に取り、握りしめた瞬間――

 ――ヴィイイイイイイン……!

 ピンク色のビームが出てきて、サーベル状になった!

「男の娘ソードって、ビームサーベルかよっ!」

 無駄に科学力が高いな、男の娘戦士推進団体! というか、昨日は素手で戦って、あとは超必殺技でどかーん! とか言ってなかったか? こんな便利なものがあるなら、最初から使わせてくれよ! まぁ、ともかく、これで俺も戦える。逃げ続けるだけじゃ、つまらんからな!

「よーし! いっくよぉおっ!」

 再び、努めて女子高生っぽい掛け声を出しながら、俺は男の娘ソード片手にトリケラトプス型の幻獣に立ち向かう。

「ええええいっ!」

 突進してくる幻獣にタイミングを合わせて跳躍し、すれ違いざまに幻獣にソードを振るう。


 すると、豆腐かと思うぐらいに呆気ない手応えで、角を切り落とすことができた。

「……ふんっ、武器に恵まれているな!」

「へっへーんだ! 実力だもんっ!」

 この異常なまでの体の軽さと、男の娘ソードの威力をもってすれば、向かうところ敵なしかもしれない! いけるぞ、これは!

「おおおおっ、パンツが! 見えそうで見えなかったああ! もっと! もっとジャンプの回数を増やしてくだされ!」

「動体視力検査の時間だああああああああああああああああああああああああああ!」

「アンコール! アンコール!」

「なっ!?」

 観客からの反応に気づいて、俺は慌ててスカートを手で抑えた。

 くそっ、なんも考えずにジャンプしたけど、スカートってこんなことをいちいち考えねばならんのか! ちょっと、女の子の苦労がわかった気がする。そりゃ、見せパンも流行るわけだ。

「ふん、やはり男の娘戦士とやらは、破廉恥極まりないな!」

 そして、乙女からも蔑みの視線を浴びせられてしまう。せっかく加勢に来てやったってのにっ!

「も、もうっ! しょうがないでしょ!?」

 なんでこんなスカートを採用したんだ、この団体は!

 男のときはトランクを見られても恥ずかしい気持ちなんてないが(そもそも公衆の面前にそんなものを晒す機会などないというか、そんなことしたら逮捕されるっ!)、この姿だと、なんだか、すごい恥ずかしく感じてしまう。体温が上がって、顔が赤くなるのがわかる。

「それに比べて、私の剣道着型パワードスーツは完璧だ。スカートなんぞより、袴は合理的だからな!」

 なぜか誇らしげな乙女。というか、こいつはただの剣道着フェチなだけだと思うが。

「えっ、でも、袴って、下着をはかないんじゃなかったっけ……?」

 小学生低学年の頃、乙女から話された内容を思い出す。

 「はかまのしたには、ぱんつをはかないんだぞっ!」と、なぜか自信満々で言ってたじゃないか。

「は、は、は……はいておるわっ!」

 今度は、乙女が顔を赤くしながら、激昂する。

 その否定の仕方は怪しい。長年の幼馴染経験はダテじゃない。たぶん……こいつ……、今でも、ぱんつをはいてない……。

「グガアアアアッ!」

「ギシャアアアッ!」

 無視されていることがお気にめさないのか、幻獣どもが咆哮する。

 まったく、寂しがり屋さんどもめ!

「ともかく……今は幻獣、片づけよ?」

「貴様が変なことを言うから、調子が狂ったではないか!」

 俺と乙女はそれぞれ武器を手に、幻獣に対する。

 俺がトリケラトプス型、乙女がティラノザウルス型だ。ティラノ系なら、乙女の武器でもなんとかなることが、昨日で実証されているからな。

 でも……ジャンプして、また観客にパンツ見られるのは嫌だなぁ……。ああ、悩ましい。つい、内股になってしまう。

「アンコール! アンコール! アンコール!」

 そんな俺の苦労も知らずに、観客どもは騒いでいる。

 ってか、もっとお前ら危機感持てよ! 街に幻獣が出て暴れてるんだぞ!? ちょっとは生命の危機とか感じろよ! そうキレたいところだったが、素の俺を出すわけにはいかない。美少女ヒロイン(?)というのも辛いものだ。

「ギャォオオオオオオッ!」

 その間にも、トリケラトプス型が突進してくる。それを、俺はスカートを抑えながら、横によける。ええい、戦いにくいったら、ありゃしない!

 一方で、なぜか乙女も袴を押さえるような素振りを見せながら、ティラノザウルス型の攻撃をよけていた。

 ……ああ、これは乙女さん、はいてませんわ……間違いないですわ……。

 こうして、自業自得な面もあるが、俺たちは防戦一方になってしまった。

 意識すればするほど、パンツが気になってしまう。はいてない乙女のことも、ついつい気になってしまう。

 しかし……これでは、埒が空かない。

 ……こうなったら、もう見えるとか見えないとか見られちゃうとか関係ない。

 そうだっ! そんなに見たいってんなら、見せてやるぜっ! 

 俺は開き直ると、男の娘ソードを手に、再びジャンプして幻獣に剣を振るう。

「おおおおおおっ!」

「白! やっぱり白だ!」

「目の保養の時間だあああああああああああああああああああああああああああ!」

 もう、無視だ無視! いちいち気にしてられっか!

「くっ、貴様なんぞに遅れをとっていられるか!」

 乙女も剣を手に跳躍して、ティラノザウルス型に斬りかかるべく、跳躍する――

 しかし、そこで新たな歓声が上がる。

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