ピンチ! 乙女VS幻獣×2

メインストリートに出た途端……数十メートル左手の空間、ちょうどメインストリートの真ん中にブラックホールのようなものが現れた(もちろん、実際にブラックホールなんて見たことないが)。


 それはどんどん広がっていき、人々がざわめき始める。そして、そこから、姿を現したのは――


「ギャオオオオオオオオオオオオンン……!」

「わわっ、動画に出てた怪獣っ!?」


 残念ながら、そのようだ。全長二十メートルはあろうかという巨大幻獣。昨日と同じティラノザウルスっぽい凶悪そうな奴だ。

 まさか、こんなところで遭遇するとは……!


「うわぁー、化け物だぁあああ!」

「きゃーっ!」


 買い物客などで賑わっていた商店街は、一気にパニック状態になる。


「よし……ここは、逃げるぞっ!」


 まさか、弥生や買い物客がいる前で変身するわけにはいかない。それに、ペン子さんも、今はあの無駄に高性能な着ぐるみを装着してない生身の状態だ。ここは、戦える状態じゃないだろう。


「う、うんっ!」

「そ、そうですね、ここは逃げるしかっ……!」


 俺たちは群衆とともに、幻獣から遠ざかるように、全力で駆け出した。しかし――


「グルルルルゥ……ギャオオオオォオオオ!」


 よりにもよって幻獣は、俺たちに標的を定めたらしい。

 ドシンドシンと巨体を揺らしながら、こっちに向かって真っすぐに追いかけてくる。


「いきなり狙われてるじゃねーか!」


 しかも、恐竜が移動する度に地響きが起こって、うまく走れない。


「きゃっ……!」


 さらには、ペン子さんが歩道の段差につまずいて、転んでしまった!


「……ペン子さん!」

「ゆりちゃんっ!」


 俺と弥生は、慌ててペン子さんの元へ駆け寄る。そして、そのタイミングで、幻獣も俺たちに追いついてしまう。


「くっ……!」


 こうなったら、仕方ない。


 たとえ、ここで弥生に俺が男の娘戦士だとバレようとも、背に腹は代えられない。俺はポケットに入れていた男の娘石を手に取ろうとした。


 ――と、そのときだった。


「……貴様の相手は、私だと言っておろうがっ!」


 メインストリートに響く、大音声。

 この凛とした力強い声を忘れるわけがない。そして、幻獣も昨日のことを忘れていないのだろう。


「グルルルルゥウッ……」


 忌々しげな鳴き声とともに、恐竜はドシンドシンと地響きを立てながら、方向転換した。その視線の先にには、刀を手にした、剣道着型パワードスーツを装着した乙女の姿があった。


「わぁっ! おとちゃん! 助けに来てくれたんだぁ♪」

「……だから、おとちゃんはやめろと言っておろーが!」


 にしても、ナイスタイミングだぜ、乙女! あとちょっとで、弥生や群衆の前で変身するところだった。


「よし、そうとなれば逃げよう。頼んだぞ、乙女ー!」

「ふん、牝野ごときに言われるまでもない!」


 まぁ、この場はあいつ一人で十分だろ! 昨日も圧勝してたし!


 ともかく、まずはここから離れることが第一だ。あんなのと戦ってる時に巻き添えを食ったら、生身の俺たちは普通に死ぬからな!


「……グルアアアアアッ!」

「突進することしかできないのか、この単細胞が!」


 三百メートルぐらい距離をとったところで、乙女と幻獣の戦いが始まる。


 昨日と同じく、突進してくる幻獣をかわしながら、人間離れしたジャンプ力で幻獣の顔面に斬りつける。


 やっぱり、乙女は強い。もうほんと、俺の出番なんかこのまま永遠に必要ないんじゃないのかって気がしてくる。


 しかし、やはりそうは問屋が卸さないようだった。

 乙女の背後に、またブラックホールのようなものが現れて、新たな幻獣が姿を現したのだ。今度は、背が低くて角のようなものが無数にある、トリケラトプスのようなタイプだ。


「ふんっ、一体だけで退屈していたところだ!」


 乙女は振り返ると、自分からそのトリケラトプス型の幻獣に駆け寄っていって攻撃をしかける。


 ――ギィイイインッ!


「くっ!?」


 しかし、トリケラトプス型の皮膚は、かなり硬いらしい。

 乙女の剣は斬りこむことができずに、弾かれてしまう。


「……グガアアアアッ!」

「……グルゥウウウウっ!」


 しかも、着地した乙女に向かって、反撃とばかりに突っ込んでくる。さらには、背後からもティラノザウルス型が襲いかかってきた。挟みうちだ!


「だから、貴様らは単細胞なのだ!」


 乙女は素早く身を翻して、細い路地に飛び込んだ。すると、目標を失った幻獣同士がぶつかって、とんでもない衝撃音と振動が起こる。


 ――ズドォオオオオオオオンッ!


「グルゥウウウッ……!」

「ギィャゥウウウッ……!」


 おおっ。やるな、乙女!

 まぁ、幻獣は図体がでかいだけで、知能はアレそうだからな。

 しかし、まだまだ状況は予断を許さないようだった。


「……ギシャアアアアッ!」

「グルォオオオオオオオッ! グゴォオオオオ!」


 怒り狂った幻獣どもは、その場で暴れ狂い始めたのだ。知能が低いからこそ、暴れ始めたら見境がない。そして、そのほうが厄介だ。


 メインストリート沿いの飲食店やカラオケの入ったビルの看板が破壊されて、落下する。さらには、窓ガラスなども降ってくる。


 これは、まずい。死傷者が出かねない。


「やめろっ! 貴様らの相手は、私だっ!」


 路地から出てきた乙女が、剣を片手に叫ぶ。それによって、再び奴らの注意は乙女に向けられる。


「グルルルルルルウ!」

「ガアアアアアアッ!」


 乙女は二匹の攻撃をかわしながらも、剣を振るっていく。

 いくら強いといっても、乙女一人であの幻獣を二体も相手にしているのは、きつそうだ。しかも、一匹は剣が効かないようだし。このまま見ているのは、気が引ける。


「……ちょ、ちょっと、俺、トイレ行ってくるわ!」

「えっ、ゆーくん、こんなときにトイレ?」

「雄太さん……? あ、……わ、わかりました」


 アイコンタクトで、ペン子さんに俺の意図を伝える。さすがに、理解が早い。

 敵対勢力だかなんだか知らないが、ここで乙女がやられたら、夢見が悪い。


「んじゃ、ちょっくら、行ってくるわ!」


 俺はメインストリートから路地に入って、そのまま真っ直ぐ進んで右にあるゲームセンターへ入った。ここにはトイレがあるので、街を歩くときは重宝している。


「ええっと、この場合はどうすりゃいいんだ?」


 男女どちらのトイレに入るか迷ったが、変身する前に騒ぎになるのはまずいだろう。

 恐竜騒ぎのドサクサで女子トイレに入ろうとした男として逮捕されたら嫌すぎるっ!


 ……俺はいつも通り、男子トイレに入ることにした。折りよく、誰もいなかった。

 そのまま個室に入り、ポケットから男の娘石を取り出す。そして――、


「……男の娘になぁーれ♪」


 例の言葉を口にした途端、ペンダントから光が渦を巻き、体が光に包まれる。着ている服も、そして、体型も女の子に変わっていく……下半身の一部を除いて。


 そして、光が収まったときは、俺は超かわいいJK風男の娘戦士に変身していた。


「よっし、これでオッケーだな!」


 そのまま個室を出て、鏡を前にしてみる。

 ……うん、今日も俺は完璧な男の娘だ! どっからどう見ても超美少女女子高生にしか見えない。


「うっし、待ってろよ、乙女!」


 そのまま俺は男子トイレを出て、ゲーセンを出た。

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