放課後の喫茶店で甘味を楽しみながら動画視聴

 放課後。昼休みに話した通り、俺と弥生、ペン子さんは一緒に校門を出て、自宅とは正反対にある駅前へ向かった。


 最近は郊外型ショッピングセンターが隆盛だが、地元の駅前はそこそこ栄えている。ファミレス、ファーストフード、喫茶店、服屋、アクセサリーの店、大手古本屋などなど、一通り揃っている。


 ……で、まぁ、昨日戦った場所なので、警察が現場検証みたいなことをやってて、少々居心地が悪いのだが……。


「こっちのお店、けっこういい感じのアクセサリーあるよ。値段も安いし。あと、あっちの服屋さんもおすすめ♪ 美容院さんなら、あそこがいいかな~?


 男なのに、オシャレについて異常に詳しい弥生だった。下手な女子よりも、女子力高いからな……。そして、一通り弥生のお店案内が済んだところで、一休みということになる。


「じゃ、『れんにゅ~』行こっか!」


 そこは、弥生お気に入りの喫茶店だ。名物は『どろどろ濃厚ミルクたっぷり苺パフェ』。その名の通り、濃厚な練乳のたっぷりかかった苺パフェだが、女子から人気が高い。俺も弥生に付き合わされて、たまに食わされている。


 メインストリートからちょっと路地を入ったところにある隠れ家的なその店へ、俺たちは入った。

 ドアを開けると、カランコローン♪ と、涼しげな音がする。


 店内はピンクと乳白色の二色で構成されており、男の俺が入るには気が引ける色合いだ。何度も通ううちに慣れてはきたが……。

 すでに女子高生たちが、何グループか席について歓談している。


「いらっしゃいませ!」


 苺を意識したと思われる赤を基調にしたウェイトレス姿のお姉さんに案内されて、空いている席へつく。俺とペン子さんが窓際、俺の隣に弥生だ。接客のしっかりしてる店なので、すぐにお冷やが出てくる


「え、ええと、なににしましょうか……」


 備えつけられているメニューを手にとって、ペン子さんは思案顔だ。

 俺もメニューを開いて、なにを頼むか考える。

 まぁ、やっぱり、名物の『どろどろ濃厚ミルクたっぷり苺パフェ』が無難か。


「んっと、おすすめは『どろどろ濃厚ミルクたっぷり苺パフェ』。練乳とか嫌いじゃなければ、それがベストだと思うよ♪ ほかにも、抹茶系のデザートもおいしいし、チョコもいいと思う♪」


「わ、わかりました。それでは、『どろどろ濃厚ミルクたっぷり苺パフェ』にしますね」


「おっけいーい、ボクも同じ。ゆーくんは?」

「俺もだ」

「うん、みんなお揃いだね♪ すみませーん」


 弥生がウェイトレスを呼んで、パフェを三つ頼んだ。


「それにしても、昨日のおとちゃんかっこよかったよね~♪ まさか、あんな怪獣と戦うだなんて、びっくりしたよ!」


 やっぱり、その話題が来たか。まさか、その現場にいただなんて、言えない。


 そもそも、昨日のテレビにはどこまで映っていたのだろうか。俺らのことが話題になっていないところをみると、乙女だけがクローズアップされていたのか?

 ここは、訊いてみよう。


「……昨日、ずっとネトゲやっててチェックしてなかったんだが、その映像ってどんな感じだったんだ?」

「ああ、そうなんだ! ほら、ネットに上がってるから見てみて!」


 俺とペン子さんは弥生のスマートフォンを覗きこんで、その動画を見てみる。


 そこには、剣を手に幻獣に立ち向かう乙女の姿があった。どうやら、俺たちは映ってないらしい。となると、俺たちの姿は流出していないわけか。


「あと、そうそう。こっちの動画でおとちゃんと話している女の子がすごいかわいいって話題になってるよ!」


 そう言って、関連動画を見せられる。

 ……うん、もろに俺だった。


 かなり鮮明で、ズームまで駆使して、ばっちり顔が映っている。いつの間に、盗撮されてたんだ! しかも、再生数は数十万を越えていて、マイリストも、コメント数も数万。

 というか日刊ランキング五位じゃないか! ちなみに、一位は乙女と化物の戦闘シーンだ。


「この子がおとちゃんが言ってた、ゆーくんのイトコの男の娘戦士、だよね?」

「あ、ああ、そうなの……かな? そうだったかな? あー、そうだったなー、はは……はははは」


 思わず、棒読みになってしまう。そして、乾いた笑いしか出てこない。

 ……ネット、恐るべし。知らない間に、俺のもう一つの顔が有名になってしまっているとは!


 というか……コメントで、「付き合いたい」だの、「超絶美少女すぎる」「マジ押し倒したいんですケド!」だのコメントを書き込んでいるが、それの中身、俺だからっ! 思いっきり男だから! 


 ……にしても、うわぁ……。かなり有名人になっちまったじゃないか。


 動画サイトに「謎の美少女を愛でるコミュニティ」とかできてるし……。ちなみに、「乙女たんを応援するコミュニティ」とかあるが、あいつに知られたら即刻解散させられると思う。


 というか、街で幻獣が暴れるというとんでもない事態になってるんだから、そっちのほうに関心持てよ! もうやだ、この国民!


「ほんと、この子かわいいよね♪ ね、ゆーくん、今度紹介してよ♪ ボク、友達になりたい♪」


 はは……もう友達だがな。

 弥生は、俺とその動画の中の超絶美少女が同一人物だとは気づいていない。

 そりゃ、そうだ。まったく、別人だからな……。


「ま、まぁ……俺もほとんどってか、最近は全然会ってなかったからな……。仲もそんなによいわけじゃないし……。まぁ、ほんと……かわいい奴ではあるよな……うん」


 マジで芸能界とか、そんなもんが目じゃないぐらいにかわいい。俺なのに!


「本当に、かわいいですよね……私も……すごく、いいと思います……」


 ペン子さんも、顔を赤くして、動画に見入っている。いや、そんな熱心に見なくても!

 やはり、ペン子さんは男の娘マニアなのか? 元がこんな俺なのに、それでもいいのか? 


「お待たせいたしました。『どろどろ濃厚練乳たっぷり苺パフェ』になります」


 そこへ、『どろどろ濃厚練乳たっぷり苺パフェ』が三つ運ばれてくる。

 大きめパフェ用のガラス容器に、下からアイス・苺・クリーム・苺ときて、頂上に練乳が垂らされている。なかなか高カロリーなシロモノだ。運動しない帰宅部としては、リスキーな食べ物でもある。


「わーい、いっただっきまーす♪」


 弥生は満面の笑みを浮かべると、スプーンでクリームと練乳のたっぷりかかった苺を頬張る。

 こいつも帰宅部なのだが、一切迷いがない。


「う~ん♪ おいし~い♪ ほっぺたとろける~♪」


 ぱあぁあっ、と幸せオーラを放ちながら、頬を押さえる弥生。

 くそっ、無駄にかわいい! 一見すると、完全に女子高生がスイーツを満喫しているようにしか見えないからな。制服はブレザーなので、あまり違和感ない。これで下にスカートを履かせたら、完璧に女に間違えられるだろう。


「い、いただきます……」


 続いて、ペン子さんがおそるおそるスプーンで苺を掬う。

 そして、手をそえながら苺を口に運ぶ。弥生と違って、大口開けて食べるようなことはしない。上品というか、気品があるというか。

 でも、こんな完全無欠お嬢様な顔して、男の娘好きなんだよなぁ。事実は小説より奇っ怪だ。


「あ、ほんと、すごいおいしいですね。苺がとても新鮮で、練乳も甘すぎないで、全体的にさっぱりしている感じです」


 そうなんだよな。名称と見た目からしてコッテリ濃厚かと思いきや、そうでもない。後味が変に残らないし、爽やかなのだ。おそらく、新鮮な苺を使っているからだと思う。そして、クリームもかなり上質なものだ。それが、人気メニューである所以だろう。


 俺もスプーンに苺を乗せて、口に運ぶ。

 うむ、程よい酸味と甘みが絶妙で、美味。癖になる味だ。


「で、二人は付き合ってるの?」

「げほっ、ごほっ!」

「えっ……いえ、そのっ……!」


 急に弥生からそんなことを訊ねられて、お冷やを口に運んだ直後の俺はむせ返り、ペン子さんは赤面して、絶句してしまった。


「だって、二人は一緒に住んでるんでしょ?」

「い、いや、それとこれとは別だろっ。それに、イトコだし!」

「むしろ、イトコだから燃えるんじゃない? イトコ同士は鴨の味っていうし~♪ ね、どうなの、ゆりちゃん♪」

「え、いえ、それは……その……なんと、いいますか……!」


 口ごもったペン子さんが、チラリと俺のほうを見てくる。


「……やっぱり、イトコ同士はイケナイと思います……よね?」


 なぜに、最後が疑問形? というか、リアルイトコじゃないでしょ、ペン子さん!


「え~! そんなの関係ないよ~。むしろ、イケナイからイイのに~! ……むしろ、ボクは、男の子同士とかでもありだと思うけどな~♪」


 そう言いながら、弥生が俺のことをじっと見つめてくる。いやいやいやいやいや。お前が今この瞬間、俺を見ながらそんな台詞を言うと、まったくシャレになってないからな!

 ……まったく、なぜかBL展開に持っていきやがって。

 お、お、俺にそんな気は……な、ない……たぶん。おそらく。でも、弥生から見つめられたりベタベタとスキンシップをとられたりすると、心が揺らぐのは確かだ。

 というか、本当に男なのか? なんにしろ、俺の周りは誘惑だらけだ。しかし、踏み越えてはいけない一線というものがある。


「まぁ、ともかく……さっさと残りを食べて、店を出るか」


 いつまでもアレなトークをしていても仕方ないだろう。なんか、女子高生から注目の的になってる気がするし。そりゃ、ペン子さんも弥生も超美人だからな。そこに、なぜか冴えない男の俺がいるとか。


 ともかくも、会計を済ませて、俺たちは店の外に出たのだった。

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