鬼の風紀委員長
購買でパンを見繕って、俺たちは中庭にあるベンチに腰かけた。
二つのベンチが向かい合う形になっているので、俺の隣はペン子さん、正面に弥生、斜めに乙女という位置だ。
「……さっそくだが、本当に百合宮は牝野のイトコなのか? まったくもって、似ても似つかないが」
席につくや、乙女から訊ねられる。似てないのは百も承知だが、そんなに俺が美形ではないといいたいのかっ。
「ああ、そうだ! イトコだ!」
しかし、ここは誤魔しきるしかあるまい。幼馴染である乙女相手だと、かなり難しいとは思うが。
「貴様にイトコがいたとはな……まったくもって、初耳だが」
そう言って、ギロリと俺のことを睨んでくる。
「い、いや、俺も先日、会ったばかりでさ! 急にこっちに住むことになって!」
「しかし、なぜうちの高校なのだ? もっと百合宮にふさわしい高校は、ほかにいくらでもあるだろう?」
なかなか乙女の追及も執拗だ。もはや、尋問モードといってもいい。鬼の風紀委員長の本領発揮といったところか。
「あ、あのっ……そ、それは……私が雄太くんと一緒の学校がいいからって、無理言ったんですっ」
そこで、ペン子さんが口を開く。俺一人じゃ持ちこたえるのが大変だったから、ありがたい。乙女相手だと二対一でもキツそうだが。
「それにしても、イトコとはいえ、年頃の男女が一緒に住むというのは感心せんがな。しかも、先日、初めて会ったばかりだと? 解(げ)せんな」
やっぱり、確実に怪しまれてるよなぁ……。
「昨日、幻獣と戦っているときに現れた男の娘戦士と見られるやつも、イトコと言っていたが……」
「わ、私は違いますっ! ちゃんと、女の子ですからっ……!」
「そうだよっ、こんなにかわいいのに男の子のわけないじゃない♪」
いや、弥生がそれを言っても、まったく説得力がないんだがなっ。
「ふん……まぁ、いい。よからぬ動きをしたら、そのときは容赦なく対応させてもらう。では、邪魔したな」
そう言って、乙女は立ち上がる。
「あ、あの、よかったら、お昼ご一緒に……」
「すまんな、私には委員会がある」
そのまま、乙女はカツサンドを持ったまま校舎へ戻っていってしまった。
「相変わらず、気難しい奴だな、乙女は……」
昔はもっと単純というか、バカっぽいところもあったんだが……。
「おとちゃん、責任感強いからねー。……あの、伝説になってる風紀委員長就任時の挨拶、「私がこの学校を変える」宣言は、ほんとかっこよかったよね~! あの挨拶の後、さっそく体育館裏で不良グループ総勢五十人以上に囲まれて、全員返り討ちにして、しかも更正させたんだから!」
「らしいな……。あいつは、素手でも異様に強いからな」
しかも、相手を怪我させずに倒すのがうまい。剣道だけでなく古武道なんかもやっているから。ちなみに、親父さんは伝説的な武道家だ。
「乙女さん、すごいんですね……」
そりゃ、政府の女の娘戦士に選ばれるぐらいだからな。あんな幻獣と互角以上に渡り合っている時点で、普通じゃない。
そう考えると、俺なんかが乙女と戦うなんてことになったら、絶対に敵うわけない。いくら男の娘スーツで常人の三百倍以上の能力になろうとも、元が凡人たる俺だからな。体育の成績なんて、平均以下どころか赤点スレスレだ。
「でも、ほんとーにゆりちゃんかわいいよねっ♪ ボクが女の子だったら、スキンシップしまくってるところだよ」
「そ、そんな……私なんて、全然かわいくなんかないです……え、ええと、」
「あ、自己紹介まだだったよね♪ ボクは双木弥生♪ ゆーくんの親友だよっ♪ 弥生って読んでくれると嬉しいな♪」
「あ、改めまして、百合宮筆子です。よ、よろしくお願いします、弥生さん」
「えへへっ♪ こちらこそ、よろしくねっ♪」
ほんと、こうやってペン子さんと会話をしているのを見ていると、弥生も女の子にしか見えないのだがなぁ……。それこそ、こいつが男の娘戦士だっていうほうが、よっぽど頷ける。
「そうだ、せっかくだから、放課後に街を案内するよ。ボクのお気に入りの喫茶店にも連れてってあげる。もちろん、ゆーくんも♪」
「あ、ああ……。まぁ、俺も案内しようと思ってたところだ。喫茶店って、あそこか?」
「うんっ、例のとこ♪」
こいつが喫茶店といえば、あの店しかない。もう何度も付き合わされているので、わかっている。
ここのところ帰宅部魂を発揮して直帰していたが、今日はいいか。ペン子さんもこの街のことは、まだよくわかってないだろうし。
「ありがとうございます、お言葉に甘えさせていただきますっ」
まぁ、弥生とはいえ、友達ができることはいいことだよな。
うちのクラスはギャルとオタク女子勢力が拮抗しているが、あまりにも美人すぎると、どちらのグループにも入りにくいかもしれない。というか、ペン子さんのようなタイプは、どちらにも馴染めなさそうな気がする。
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