アホなクラスメイトと大人気なペン子さん

「あ、ゆーくんっ。おはよ~♪」


 俺が教室のドアを開けるとともに、すぐ側の席の双木弥生(ふたきやよい)から話しかけられる。見た目は、ショートカットの似合う明るい女の子なのだが……信じがたいことに男だ。


 男子の学生服を着ていなかったら、間違いなく女に間違われる。というか、着ていても男だとは信じがたい。それぐらい、顔が女っぽいのだ。

 そして、弥生はなぜか俺のことを痛く気に入っていて「ゆーくん♪」と呼んではベタベタとスキンシップを取ってくる。


「あ、ああ。お、おはよう、弥生。……その、いきなり手を握るのはやめてくれ」

「あ、ごめんね。ボク、つい欲求を抑えられなくて。えへへ♪」


 そう言って、さらに手を握りしめ、あまつさえ俺の手に頬ずりまでしてくる。

 寒気なのか、それ以外の反応なのか、背筋がゾクゾクしてきてしまう。男なんだろうが、弥生はかわいい。ペン子さんがお姉さん系美人なら、弥生は妹系美人なのだ。……男だが。


「貴様ら、朝から男同士で無駄に過剰は接触をするのはやめろ」


 教室に入ってくるなり、そんな言葉を浴びせてくるのは乙女だ。


 凛々しい顔立ちに、後ろに結わえた髪。肩には剣道用具を背負っている。相変わらず、殺気立っているというか……怖い。これで、俺の幼馴染だからな。まったく、性格が違いすぎる。


「男川さんっ! テレビ見たよー!」

「男川さんがあんな怪物と戦うだなんて! 私、すっごいびっくりしちゃったぁ!」

「ほんとすごかったよな~。マジで特撮かと思ったぜっ」

「昨日の政府の発表って本当なんですか? 宇宙から怪獣が攻めてきて、それから守ってくれる正義の味方が男川さんって……!」


 乙女が教室に入るや、クラスメイトたちが、わらわらと乙女に群がってくる。


 どうやら、昨日俺がペン子さんのご飯を食べたり、お風呂で背中を流してもらったりしているうちに、テレビでは色々と発表されていたようだ。


「ああ、昨日の政府の発表が全てだ。……ただ、これからは、あまり私に近づかないほうがいい。敵のターゲットは私なのだからな。それに、一般大衆である貴様らを構っている暇などない」


 元々態度がいい奴じゃないが思いやりのかけらもない声でそう言う乙女に、クラスメイト連中は白けたようだった。

 そりゃ、一般大衆扱いされて、そんなふうに言われたら応援する気も失せるだろう。


「そ、そっかー……。じゃ、がんばってね」

「まぁ、俺らはなんもできないしなー」

「けっ、ちょっとぐらい強いからってよ~……」


 そのまま、クラスメイトたちは元の席に戻ってしまう。


 ……こいつも、なんというか、ボッチの素質があるというか……剣の道に生きすぎなところがある。しかも、ホームルーム長兼風紀委員長兼美化委員長だからな。糞真面目で、常に厳しい。全校生徒から煙たがられているのは、事実だ。


「ねーねー、おとちゃん♪」


 それでも、弥生は臆することがない。

 俺と同様に、乙女に対しても馴れ馴れしく接する。


「……その呼び方は止めろと言っておろうが」

「いーじゃない。ほんと、おとちゃん、昨日は格好よかったんだから!」

「別に、職務に格好よいも悪いもない。…………ああ、そうだ。昨日のことで、牝野に訊きたいことがある」


 乙女から、眼光鋭く、睨まれる。

 ……いかん。まさか、俺が男の娘戦士だと、すでにバレているのか!?


「……な、なんだ? お、俺は、昨日は、家の中、ネットやってたヨ?」


 乙女から放たれる強烈なプレッシャーに、つい変な返答をしてしまう。


「貴様ではない。貴様のイトコとかいったか……。セーラー服を着た妙な人物と、それと、怪しいペンギンの着ぐるみが現場にいたのだが……そいつらは、何者だ?」

「え? そ、それは……」


 そのことについて、ペン子さんとなんの打ち合わせもしていなかった。ここは、適当に誤魔化すしかない。


「ああ、それは……うん、俺のイトコかもしれないな。す、すげー、美少女でさ。コスプレが趣味で、ちょっとアレなやつでさ……。うん、そのペンギンも、友達かなんかのコスプレだろ?」

「…………」


 乙女は無言で、俺の目を見つめてくる。

 こいつに嘘をつき続けるのは、正直、難しい。


 だが、ここで俺が男の娘戦士だとバレたら、どうなるかわかったもんじゃない。まさか、いきなり逮捕されるということはないと信じたいが。


「状況から判断して……あれが例の『男の娘戦士』だと思うのだがな。貴様、そのイトコについて知ってることを言わないと、酷い目に合うぞ?」

「い、いや……知らねーよ。そんなイトコのことなんか。最近ぜんぜん会ってないんだし! と、とにかく! 俺はまったく関係ないから!」


「ふんっ。まぁ……貴様も、私の監視対象に入っているからな。なにかよからぬ動きをすれば、すぐに対応する」


 そう言い捨てて、乙女は自分の席である窓際に移動した。

 ふぅ……とりあえずは、逃げきったか。


「えっと……ゆーくんは、男の娘戦士のことって、知ってるの?」

「えっ、い、いや……。初耳だぞ?」


 今度は、弥生からも訊ねられる。


「そ、そうだよねっ! ……うん、ゆーくんが男の娘戦士の関係者なわけないよねっ! あ、あはははっ……♪」


 ……? なんか、弥生の様子もいまいち、おかしいな……。

 まぁ、おかしいのはいつものことかもしれないが……。


 そうこうするうちに、予鈴が鳴った。俺も、自分の席――幸か不幸か、弥生の前の席なのだが――に着席する。

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